もくじ
2021年レミゼ始動!
コロナ禍で中止が危ぶまれた『レ・ミゼラブル』でしたが、無事に開幕することができました。
通常であれば公演前にキャストの歌唱披露会があったりと各種イベントが開催されますが、今年はほぼなにもなし。実感が湧かないままヌル~ッと始まりました。
とはいえ公演自体は相も変わらず素晴らしかったです。本記事では2021年から新たに参加したキャストの感想を中心に書いていきます。
2021年全キャスト一覧と出演歴
まず2021年公演の全キャストと出演歴を簡単にまとめてみました。
ジャン・バルジャン
・吉原光夫:2011年~
・福井晶一:2013年~
・佐藤隆紀:2019年~
ジャベール
・川口竜也:2013年~
・上原理生:2019年~
・伊礼彼方:2019年~
ファンテーヌ
・知念里奈:2011年~
・和音美桜:2011年~
・二宮愛:2017年~
・濱田めぐみ:2019年~
エポニーヌ
・唯月ふうか:2017年~
・屋比久知奈:2019年~
・生田絵梨花:2021年初
マリウス
・内藤大希:2017年~
・三浦宏規:2019年~
・竹内將人:2021年初
コゼット
・熊谷彩春:2019年~
・加藤梨里香:2021年初
・敷村珠夕:2021年初
アンジョルラス
・相葉裕樹:2017年~
・小野田龍之介:2019年~
・木内健人:2021年初
テナルディエ
・駒田 一:2003年~
・橋本じゅん:2017年~
・斎藤司:2019年~
・六角精児:2021年初
マダム・テナルディエ
・森公美子:1997年~
・谷口ゆうな:2013年~
・樹里咲穂:2021年初
新キャスト7人の感想
木内健人(アンジョルラス)
これまでアンサンブルとしての出演が多かった木内さんですが、今回アンジョルラスに大抜擢。レミゼは毎年オーディションでキャスティングされているので、アンサンブルさんにも平等にチャンスがあります。(本当に平等かはさておき)
歌が上手くて存在感があるので「随分目立つアンサンブルさんだなー」と思うことが多々ありましたが、まさかアンジョルラスになるとは…
そんな木内さんのアンジョルラスですが、王道を突き進むストレートさが好きです。小手先のテクニックで奇をてらうこともなく、真正面から挑んでいる印象を受けました。
ちなみに髪型はポニーテールなしです。個人的にはアンジョルラスにはポニーテールが付いててほしいです。
竹内將人(マリウス)
今回の新キャストの中で筆者が最も楽しみにしていたキャストです。竹内將人さん。予想どおり良かった!
他のマリウスに比べると竹内さんのマリウスからは死への恐怖を強く感じます。激闘繰り広げるバリケードの中で誰よりも小さいし動きも硬い。物理的にすこし小柄ということもありますが、内側へ内側へと体が縮こまっているように見える。
筆者はマリウスという役を恋と死という対極の出来事に同時に対峙しなければならなくなった青年と捉えています。コゼットに恋したときの柔軟でオープンな心身とは打って変わって、バリケードで死を意識し始めてからの矮小さ。この揺れ幅がいい!
そしてもう一つ。相葉アンジョルラスとの組み合わせが素晴らしかった。
バリケードの学生役のアンサンブルさんたちはほぼレミゼ経験者かつ、相葉さんは今年で出演3回目のプロ革命家。今回レミゼデビューの若干26歳の竹内さんは歴戦の猛者の中に放り込まれた状態なわけです。
そんなこともあってか、かなり語弊をまねく表現かもしれませんがバリケード内で完全に一人だけ浮いています。ちょっと言葉にするのが難しいんですが、この差が良いんです!技術とか経験の差とかそんな話じゃないんです。あえて言葉に落とし込むなら「身にまとってるオーラの種類」とでもいうのでしょうか。
もうやり残したことはないと言わんばかりに最期の輝きをみせつけながら死へと向かうものたちと、唯一生き残ってしまうもの。相葉&竹内コンビはこのコントラストが非常にはっきりして見える。バリケード内にいるマリウスたった一人だけが、ほかの学生たちとは違う運命に導かれている感覚がより一層強まる感じ。
最後にもうひとつ。こういう表現が的確なのかちょっと微妙ですが、竹内さんのマリウスってなんか愛らしいですよね。堅物なのは見た目だけで、おっとりした愛情深い性格のマリウスに思えます。
声も顔立ちもお芝居も本当にマリウスらしい。天性のマリウス力のある役者さんだと思います。
敷村珠夕(コゼット)
敷村珠夕さん。今回初めて拝見しましたが、予想外のパワー系コゼットで驚きました。もちろん良い意味で!
か弱くておっとりとしたコゼットかなと想像していましたが、あのファンテーヌの血を引いていることに説得力のある芯の強さを感じるコゼットです。
バルジャンに自身の出自を迫るシーンのコゼットは戸惑いや悲しみよりだけでなくバルジャンに対するじれったさや怒りも抱いているはずなんですよね。だから敷村さんの強めの声色とお芝居はかなり好きです。
あと純粋に歌が上手いです。聞いていて心地いい。高音がとても綺麗です。レミゼ以外の演目でも観てみたいです。
加藤梨里香(コゼット)
今回初めて拝見すると思っていたのですが2019年の『サンセット大通り』ですでに観ていました。が、どんな役だったかほとんど記憶がなく…
敷村さんコゼットとは打って変わってキャピキャピした感じのまさに10代女子という雰囲気のコゼットでした。加藤さんが演じるような天真爛漫なコゼットを見ていると、バルジャンから愛情をたくさん受けてまっすぐ育ってきたことが伝わってきます。
あまりお嬢さま感のないコゼットかなと。母親が働いていた工場に放り込まれてもすぐに順応してシャキシャキ働きそう。
生田絵梨花(エポニーヌ)
ある意味最も注目されているキャストの一人かもしれません。2019年公演ではコゼット役でしたが本公演からなんとエポニーヌ役にチェンジ。
女性俳優が年齢を経るにつれてコゼット、エポニーヌ、そしてファンテーヌへと変わっていくこと自体は何も珍しいことではありません。とはいえこの抜擢には少し驚きました。さすがにちょっと合っていないのでは?と思わざるをえなかった。
実際に観てどうだったかというと、想像よりはずっと良かったし努力と研究を重ねていることも伝わってきましたが、全体的にパワー不足な印象を受けてしまったかな。
そして、本人からにじみ出る品の良さがエポニーヌらしさを邪魔してしまっているような気がしてならない。パリの貧民にはちょっと見えないかも。
筆者は生田さん演じるコゼットが好きです。かなり好き。ラストシーンなんて本当に絵になります。皆が夢見た健やかで美しい未来を体現したかのような存在感でした。エポニーヌもいいけれども、次回公演はコゼットで戻ってくれたら嬉しいです。
話はそれますが、生田さんが登壇する回は男性客がものすごく多いです。帝劇の男性お手洗いに長蛇の列。なかなか珍しい光景です。やはり集客力はすさまじいのでしょうかね。
樹里咲穂(マダム・テナルディエ)
良かった!すごく良かった!好きです。本当に今年初参加ですか?と確認したくなるような安定感とパワーでした。一切遠慮していないのに悪目立ちすることもなく、100%レミゼの世界に溶け込んでいました。
マダムは金切り声をあげるようなセリフや歌唱が多いので、役者とシーンによっては結構キンキンと聞こえてしまうんですよね。樹里さんの場合そのへんの塩梅がさすがでした。
マダムとしての強烈なダミ声・甲高い声をしっかり出していますが、あくまでも芸術作品の範囲内でのキンキン声というのかな。不快感とか一切ないんですよね。そこがすごいなと。
そして何より樹里さん自身が楽しんで演じているのが伝わってくるんですよね!レミゼは役者さんから露骨な緊張が舞台越しにビンビン伝わってくるような演目なので、余裕たっぷり(?)の樹里さんを見ているとなんだか安心します。
六角精児(テナルディエ)
酒やけ声のダメおやじ感が一級品でした。樹里さんと同じく今年初登壇とは思えない安定感があります。
とはいえ、最初から最後まで芝居にあまり変わり映えのないところがちょっと残念でした。登場から結婚式までずっと同じ調子なんですよね。それを「何を考えているかわからない恐ろしさがある」と捉えるか「一本調子」と捉えるかは、観る人によって大きく変わりそうです。
改めてふと感じたのですが、たぶんテナルディエって超難役なんだと思います。悪役に振り切るわけにもいかないし、コメディリリーフに傾きすぎてもいけないし、かといって中途半端になってもダメだし。
ひょうきんな彼もどん底の人生を歩む"哀れな人々"の一員であることを観客にふと気づかせる凄惨さがないといけないわけで。ほんの一瞬ゾクッとくるようなおぞましさが垣間見えて欲しいです。特に下水道のシーンでは。
続投キャストの感想
伊礼さんのジャベールが素晴らしかったです。「自殺」のシーンでの取り乱しっぷりは鬼気迫るものがありました。上原さんのジャベールは徐々に精神が壊れ始めてきていることがわかるんですが、伊礼さんの場合はこのシーンで一気に駆け上がる緊迫感が圧巻。心臓のドクドクという音すら聞こえてきそう。精神だけでなく身体のコントロールすら失われていく過程が怖い。脳みそだけでなく手足も心臓も顔筋もなにもかもバグっちゃった感じがリアルだなあ…
すでに軽く触れていますが相葉さんのアンジョルラスも相変わらず最高でした。まず立ち姿のシルエットが美しすぎる。相葉さんがセンターにいると本当にサマになる。"隊列"という言葉がピッタリ。おそらく今年で最後だと思うんですよね。残念ですけど「もっと見たかなったなあ」と思わせるくらいで次世代に引き継ぐのがベストなのかもしれません。
今年で最後かも、といえば濱田さんのファンテーヌ。2019年のレミゼの感想記事で「最初で最後の幻の濱田ファンテーヌになると思います!」と書きましたが見事に外れました。はまめぐファンテーヌはラストシーンの「行きましょう自由なところへ、悩み洗い流され」の一節がたまらない。本当に天から響いているような神聖な歌声。お迎えに来たファンテーヌは半分は彼女自身で、もう半分は全てを包み込む神の愛そのものだと思うんですよね。愛という"概念"を人間の声で表現しているかのよう。すごい。
新キャストから続投キャストまでいろいろ書いてきましたが、とにかく千秋楽まで無事に終えてほしいです。ちなみに筆者はもうしばらく観劇予定はありません。観たくなるのであまり調べないようにしていますが、気に入りそうな演目があったらこっそり教えてください。
【おまけ】関連
映画版のレミゼも素晴らしいので未視聴のかたにはぜひ見てほしい!「ミュージカル映画は苦手」という人でもこれは十分楽しめると思います。