かの有名な18世紀フランス王妃マリー・アントワネットの激動の生涯を描いたミュージカル『マリー・アントワネット』が、2021年1月に再演します。
★2021/1/31追記★
公演を観てきました。感想はコチラの記事から。
もくじ
ざっくり作品紹介
オーストリアで生まれ育ったアントワネットがフランス王室に嫁ぎ、断頭台の露と消えるまでの数十年間を辿る物語です。
アントワネットを扱った作品は『ベルサイユのばら』など作品のジャンルを問わず多数存在しますが、このミュージカルの面白いところはアントワネットと対照的な存在である貧民の少女・マルグリッドの存在。
豪華絢爛な宮殿でこの世の悦のすべてを味わうマリー・アントワネットと、明日を生きるためのパンすら手に入らぬマルグリッド・アルノー。この二人のM・Aの激動の人生に沿って展開していきます。
基本的には、1785年に勃発した首飾り事件と呼ばれる実在の王妃スキャンダルから、彼女が処刑される1793年までの約8年間にスポットライトがあてられています。
この作品には原作があります。遠藤周作さんの『王妃マリー・アントワネット』をもとに東宝にて製作されました。
ダブルキャストの選び方
ミュージカルの醍醐味の一つといえば、ダブルキャスト。この作品のメインとなる4人の登場人物たちは全員ダブルキャストです。
今回は再演なので前回公演から変更のあったキャストもおりますが、筆者のオススメキャストと再演の期待ポイントをまとめています。
マリー・アントワネット
主人公マリー・アントワネットを演じるのは花總まりさんと笹本玲奈さん。
花總まりさんは宝塚歌劇団出身の女優さんで、宝塚時代はトップ娘役として12年間もの長期間在籍し、この最長記録はいまだに破られていません。
花總さん演じるアントワネットの魅力はなんといってもその気品と優雅。王妃の役をやらせたらこの人以上に様になる役者はいないのでは、と本気で思うほどの華やかさがあります。
アントワネットの初登場は豪華絢爛な舞踏会のシーンですが、花總アントワネットが舞台に現れた瞬間、一瞬にして空気が一変します。会場中の熱い視線が一斉に注がれるのがわかるほどのオーラがあるのです。
しかし、花總さんの真骨頂は革命勃発後の追い詰められ憔悴しきった姿だと思っています。
この作品では豪華絢爛なアントワネットだけでなく処刑直前の憔悴しきったボロ布を着たアントワネットまで描写されています。
物語後半、ドレスをはぎ取られ宝石を引き千切られたとしてもマリー・アントワネットは生まれ持っての真の王妃なのだ、ということを体現するような”凄み”と迫力を出してきます。
前半のキャッキャウフフな彼女からは想像もつかないほどのドスの利いた目つきと声色に変わるのです!ここが本当にスゴい!
もう一人のキャストは笹本玲奈さん。子役時代から舞台の世界で活躍しており、この方もまたベテラン女優さんです。
花總さん演じるアントワネットと比較すると、どこか少し親しみやすそうな王妃像です。そう聞くと「王妃らしいオーラがないの?じゃあダメじゃん」と思うかもしれません。だがそこが良い!
というのも、この作品のアントワネットは王妃という立場でありながら、夫以外の男性を少女のように愛し続けます。私が王妃でなければいつでも自由に傍にいられるのに、と。
王妃であったとしても中身は普通の女性であり一人の恋する女なのだ、という彼女の苦悩も作品のテーマの一つ。つまり、笹本さん演じるアントワネットのほんの少しの普通っぽさがこのテーマ性にマッチしているんですよね。
フェルセン伯爵に恋い焦がれる模様は、笹本さん演じるアントワネットのほうがより一層しっくりと感じました。
もちろん、花總さんと笹本さん、どちらも素晴らしいキャストですがオススメを一言で表現するなら、革命モノとして観たいのであれば花總さん。恋愛モノとして観たいなら笹本さんかな。
マルグリッド・アルノー
もう一人の主人公マルグリッドを演じるのは昆夏美さんとソニンさん。
マルグリッドはアントワネットとは生まれも育ちも対照的な貧民の少女であり、飢えるパリ市民を見ようともせず宝飾品とギャンブルに明け暮れる王妃に怒りと憎しみをぶつける役どころです。
昆夏美さんは『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』など大型ミュージカルの主役級として多数出演されており、えげつないほど感情のこもった歌唱が涙を誘います。
昆さん演じるマルグリッドを観ていると「あれ、この作品ってマルグリッドが主役だったっけ?」と錯覚してしまうほどの吸引力があります。
しかし昆さん演じるマルグリッドの魅力は、王妃への憎しみと怒りの中にほんの少しの憧れがチラリと垣間見えるところ。
本当は王妃のように年相応なオシャレがしたい、恋をしたい。心の奥底に秘めた少女らしい願いが薄っすらを滲み出ているようなお芝居です。そのいじらしさと懸命さに胸を打たれるのです!
彼女が革命を推し進める理由は、フランス王室を倒したいというよりもパリのみんなを幸せにしてあげたいという想いからなのではないでしょうか。
一方、もう一人のキャストはソニンさん。
彼女が演じるマルグリッドは昆さんよりも怒り憎しみマシマシ盛り。18世紀パリ市民が乗り移ったかのように迫力ある歌唱とお芝居です。
彼女の革命理由はとにかく打倒王政!打倒アントワネット!という雰囲気。差し違えてでも無き者にするべき憎き相手とでも言わんばかりの攻撃モードです。
昆夏美さんもソニンさんも、歌唱力は本当に本当に素晴らしいです。スキルだけでなく、感情の込め方や表情がとにかく巧み。最高レベルのダブルキャストだと思います。
フェルセン伯爵
もう一人の主人公を演じるのは田代万里生さんと甲斐 翔真さん。
フェルセン伯爵はアントワネットの愛人という役どころです。愛人と聞くと何やらよくないイメージですが、フェルセン伯爵自体は紳士的で柔らかな貴公子として描かれており、アントワネットのことを本気で愛していました。
田代万里生さんは貴族役を演じさせたらミュージカル界NO.1と言っても過言ではないでしょう!『エリザベート』のフランツ・ヨーゼフ1世など、地位の高い役を演じられることが多い役者さんです。
所作や佇まいがとにかく美しく、よく通るその美声はフェルゼンの真っすぐな想いを表しているかのようです。歌唱面・お芝居の両面において、とにかく安定感があります。
ちなみに田代さんは2020年3月放送のNHKオーディオドラマ『ハプスブルクの宝剣』にて、アントワネットの父親であるローマ皇帝フランツを演じていました。
アントワネットの愛人役に父親役とくれば、ぜひ夫であるルイ16世役もいつか演じていただいて、コンプリート(?)してもらいたいものです。
もう一人のキャストは、甲斐翔真さん。甲斐さんは再演からの新キャストになります。
2020年のミュージカル『デスノート』の主役にてミュージカルデビューを果たした、若干22歳の若手俳優さん。185cmの長身と端正なルックスから、今後のミュージカル界を背負っていく存在になるのではと注目されています。
筆者はおそらく2021年の『マリー・アントワネット』で初めて拝見することになりますが、とても楽しみにしている役者さんです。とにかくスタイルが素晴らしい!絶対に18世紀の扮装が似合うはずです。
ちなみにですが、甲斐さんのことを調べているとこんなインタビューを見つけました。
今でも脳裏に焼き付いているのが、韓国で今年の春に観劇した『ジキル&ハイド』です。洗練された演出、キャスト陣の団結感、魅せる力……。
どれも素晴らしかったのですが、そのなかでも“魅せる力”に惹きつけられて、一日2公演観ちゃいました。いつか僕も『ジキル&ハイド』に出演できるよう、これからの20年はジキルのために生きるつもりです(笑)。(引用:numanインタビュー)
ジキハイに魅せられてマチソワしたそうです。
『ジキル&ハイド』は筆者の好きな3大ミュージカルの一つです。謎のシンパシーを感じてしまい、この一文だけで応援したい気持ちになりました。
オルレアン公
もう一人の主人公を演じるのは上原理生さんと小野田龍之介さん。お二人とも再演の新キャストです。2018年公演時は吉原光夫さんでした。
オルレアン公はアントワネットと国王16世の政敵であり、作中でもアントワネットを中傷し地位を傷つけるために奔走します。ざっくり言うと、王族でありながら革命サイドの役どころ。
ちなみに正式にはオルレアン公爵ルイ・フィリップ2世ジョゼフというお名前です。かの有名なパレ・ロワイヤルを民衆に開放した人としても有名です。
上原理生さんと言えば自他ともに認めるミュージカル界の革命児。革命モノ作品への出演率が圧倒的です。
『1789』のダントンや『レ・ミゼラブル』のアンジョルラスなど群衆を率いる役どころから、最近では『スカーレット・ピンパーネル』のロベスピエールや『レミゼラブル』のジャベールなど、革命をしばく側を演じることも多くなってきました。
今回のオルレアン公も革命サイドの人間ですが、これまでのダントンやアンジョルラスとは一味違います。というのも、彼らは表立って派手に群衆を率いるリーダータイプでしたが、オルレアン公はどちらかというと裏で巧みに操るような策士タイプ。
上原さんの革命モノの中でも、これまでとは少し違ったタイプの革命を堪能できるはずです。
もう一方のキャストは小野田龍之介さん。
正直、彼が演じるオルレアン公はどのようになるのか全く予想できません。もちろん、良い意味で!
というのも、小野田さんといえば比較的さわやかな役どころが多い役者さんだと思うんですよね。最近では『ラブ・ネバー・ダイズ』のラウル子爵など、やさぐれた役を演じる機会も増えてきてはいますが。
とはいえ小野田さん自体は歌は抜群に上手いし、とにかく声質が良いです。そしてダンスも上手い(オルレアン公は踊りません)
そのため、オルレアン公も絶対に彼ならではのお芝居と歌唱で観客を魅了してくれること間違いなし。上原さんとはガラッと違う役のイメージになりそうです。
脇を固めるシングルキャスト陣
ルイ16世
アントワネットの夫でありフランス国王であるルイ16世を演じるのは原田優一さん。前回公演は佐藤隆起さんとダブルキャストでしたが、今回はシングルのようです。
ランバル侯爵夫人
アントワネットを最期まで傍で支え続けた心優しい女性のランバル侯爵夫人。演じるのは彩乃かなみさん。
ネタバレになるので詳細は省きますが、彼女がアントワネットにとって献身でひたむきな友人であり心の支えであったがゆえに、物語後半でアントワネットは絶望のふちに叩き落されることになります。
ランバル侯爵夫人は出番自体はそこまで目立ったものではありませんが、アントワネットの悲しみと革命に燃える市民たちの狂気を際立たせる影の重要人物です。
レオナール
アントワネットお抱え結髪師のレオナール役を演じるのは駒田一さん。本作ではローズ・ベルタンとペアのような立ち回りをします。
物語の本筋には大きく絡みませんが、彼のひょうきんさと奇抜さが無ければ暗すぎる作品になってしまうため、作品のバランサーのような役どころでもあります。
ローズ・ベルタン
アントワネットお抱えの衣装係ローズ・ベルタン役を演じるのは彩吹真央さん。レオナールの相方のような役どころですが、ベルタンのド派手すぎるヘアメイクとドレスを美しくもカッコよく着こなす彩吹さんを堪能できます。
帝劇、ではなく東急シアターオーブ
前回2018年公演は帝国劇場でしたが、今回の2021年公演は2012年にオープンした渋谷にある東急シアターオーブという劇場になりました。
帝劇の座席数1897に対し、東急シアターオーブは1972席です。ただし東急シアターオーブは3階席まであるので上に広い劇場です。
個人的には『マリー・アントワネット』は帝国劇場で観たかった・・・この手の歴史モノって帝劇がいちばん似合うというかしっくりくるんですよね。
東急シアターオーブは席によってはかなり見ずらい位置もあるので、もしまだ行ったことのない方はどの席を狙うべきか事前に調査しておくことをオススメします。