十二人の怒れる男 観劇レポ

【感想】舞台『十二人の怒れる男』これまで観たストプレでNo.1かも

 

 

普段はミュージカルばかり観ている筆者ですが、今回はストレートプレイ『十二人の怒れる男』を観てきました。

 

<公演情報>

■日程:2020年9月11日(金)~10月4日(日)
■会場:Bunkamuraシアターコクーン

■作:レジナルド・ローズ
■翻訳:徐賀世子
■演出:リンゼイ・ポズナー
■衣裳・美術:ピーター・マッキントッシュ

■出演:
陪審員1番:ベンガル
陪審員2番:堀文明
陪審員3番:山崎一
陪審員4番:石丸幹二
陪審員5番:少路勇介
陪審員6番:梶原善
陪審員7番:永山絢斗
陪審員8番:堤 真一
陪審員9番:青山達三
陪審員10番:吉見一豊
陪審員11番:三上市朗
陪審員12番:溝端淳平

 

会場は渋谷にあるシアターコクーンという劇場です。コロナ明けのシアターコクーン復帰作だったとか。

 

感染症対策バッチリです

 

ざっくりあらすじ

舞台は20世紀半ばのアメリカ。スラムに住む16歳の少年が実の父親を刺殺する事件が起きた。集められたのは12人の陪審員たち。少年が有罪となるか、はたまた無罪となるかはこの男たちの手に委ねられた。

条件は「12人全員の意見の一致」のみ。

有罪=電気椅子送りとなるにも関わらず、男たちは即座に有罪に票を入れた。しかし、陪審員8番だけが無罪に投票したのだ。

唖然とする11人の男たち。しかし、陪審員8番の言葉によって男たちの信念が揺らいでいく…

 

原作は1957年公開の映画

『12 angry men』

 

原作は1957年公開のアメリカ映画です。

全編にわたって一つの密室で交わされる議論のみで展開していきます。途中で何か事件が起きるわけでもなく、ただただ男たちが激論を交わす。

にも関わらず、圧倒的に面白すぎる脚本によって観る人を引き込む作品です。「密室劇の金字塔」なんてよく言われています。

 

実はあまり観劇する気はなかった

筆者は相当昔に原作の映画版を見たことがありますが、舞台という形式では見たことがなかったので今回劇場に足を運ぶことに。

とはいえ、実はあまり乗り気ではありませんでした。というのも、あまりにも舞台映えしなさすぎる作品なのでは?と考えていたからです。

 

人によって「舞台の魅力」の定義は異なりますが、筆者としては"日常にない高揚感"や"非現実的な世界観"を堪能するものだと思っています。

普段ストレートプレイではなくミュージカルを中心に観ているという背景もありますが、端的に言うと派手な衣装と派手な音楽で目くるめく展開を繰り広げていく作品が好きなのです。

 

一方、今回の「十二人の怒れる男」は、登場人物は全員普通の男たちで服装もいたって日常的。場面転換どころか、舞台上には長テーブルと12個の椅子と、少しばかりの小道具のみ。

つまり、舞台化によって引き出される魅力が少ない作品になるのでは?と予想していたのです。だから当初はあまり観劇する気にならなかった。

 

感想

結局どうだったか?という話ですが、素晴らしすぎました。

当初の筆者の予想など微塵も心配いらないほどの完成度と迫力でしたね。いやー、観てよかった!

 

というのも、むしろ舞台化によってこそ引き出される魅力が最高に詰まっていたのです。2つあるので順番に書いていきます。

 

①観る人によって主役は変わる

本作は堤真一さん演じる陪審員8番が主役です。唯一無罪に投票した人物。

陪審員8番が残りの11人たちの心に訴えかけていくストーリー展開なので、映画版ではどうしても8番の顔のアップが多いのです。そのせいか、どうしても8番=主人公という印象が強くなります。

 

一方、舞台という形式にはカメラはありません。観客は好きなところを見ることができます。終始退屈そうな7番に着目してみるもよし、冷静で論理的な4番の視線を探ってみるもよし、正義感溢れる紳士な11番の細かな表情の変化を追うもよし。

12人全員を主人公として観ることができるのです。つまり、観る人によって主人公が変わるのです。

 

12人の男たちは性格も仕事もポリシーも全く違う人間たち。全員が異なるバックグラウンドと人生を抱えています。物語の展開を見ていると、「この人の意見はよくわかるけど、こっちの人の意見には共感できない」ということが多々起こります。

徐々に、自分ともっとも意見や想いが似ている陪審員を探してしまいます。探そうとしなくとも、自然と「自分だったらこの陪審員と同じ立場だ」と思う陪審員が絶対に見つかるのです。

つまり、観る人によってはあまり議論に参加しない1番や6番すら主役になりえるのです。ここが面白い!

 

※映画版の場合は、8番と3番が言い争っているときの他の10人全員の表情や反応が見たいと思ってしまうんですよね。舞台という形式ではそれすらできるわけです。

 

②陪審員をズラリと囲む陪審員たち

中央にステージがあります

 

上演されたのは渋谷にあるシアターコクーンという劇場です。今回は劇場中央に舞台を設置するというセンターステージ方式を採用しています。

つまり、12人の男たちの周りを360度ズラリと観客が囲うスタイルです。まさしく陪審員たちをジャッジする陪審員(観客)たちという図式です。

 

これは公演前から見どころとして公式的に紹介されていたので、筆者も楽しみにしていたポイントです。

しかし実際にはもっとシビアなものでした。約350人の観客の目が舞台上に突き刺さるような錯覚に陥ります。一点に見つめる目力と熱量でステージ上のどこかから発火してしまいそうなくらい。

観ている観客サイドですらそんなことを感じてしまうのだから、ステージ上で芝居をする役者たちの緊張感と熱さはただならぬものだろうなぁ…

 

一人の少年の命運をジャッジする権利があると思っている人間たちが、実は何十倍もの人間によってジャッジされている。

少し皮肉を感じさせるようなステージ構成だと思いましたね。

 

激論を繰り広げる名役者たち

今回の出演12人の陪審員たちは全員男性です。平均年齢は55歳くらいじゃないかな?

出演者全員が男性の舞台といえば、若くキラキラしたイケメン俳優たちが薔薇のような香りをまき散らしながら華麗に歌って踊る作品たちを連想していまいます。

今回のように出演者ほぼ全員が中年以降の男性役者の作品はかなりレアじゃないでしょうか。興行として相当攻めていると思います。

 

男性同士が激論を繰り広げる物語やシーンは世に無数に存在しますが、仲介してくれたり場をなだめてくれる美女もいなければ、場面展開もありません。男たちの憤りと額から噴き出す汗はやがて行き場を失い、密室に溜まる一方です。

つまり簡単に言ってしまうと、相当むさ苦しい作品です。だがこれが良い!人間の泥臭いリアリティをこれでもかというほどにビシビシ放ってくるのです。

 

12人の陪審員の席順

 

陪審員8番を演じる堤真一さんはもちろんのこと、残りの11人も本当に良かった。

特に印象に残っているのは3番の山崎一さん、4番の石丸幹二さんのお二人。

 

 

3番:山崎一さん

舞台では初めて拝見する役者さんでしたが、凄い役者さんです。いや本当に。

 

突然ですが、筆者は今まで「心を揺さぶられる芝居」というものにあまり出会ったことがない気がします。心を揺さぶられる歌唱には数多く出会ってきましたが。

やはりミュージカルを贔屓にしているせいか、感動が歌やダンスありきのものになってしまっていたんですよね。お芝居だけだとどうも物足りないというか。

それが今回、3番演じる山崎さんのお芝居を通して初めてストレートプレイが持つ凄みを体感しました。ストレートプレイの魅力がわかってきた気がします。それほどのお芝居でした。

 

話は戻ります。3番は最後まで少年の有罪にこだわった人物です。映画版も舞台版もついに3番が無罪に変えるところで物語は終わります。

 

この男、本当にクズで。すぐ怒鳴る理屈の通じないオッサンでさぁ、現実に身近にいたらたまったもんじゃないよと思っていしまうタイプの人間。

でも実は彼なりに心に闇を抱えていて、それが最後のシーンでブワッと滲み出てくる。どうしようもない男ですが、純粋悪ではないということが本作の肝です。

つまり、3番がただの悪者や小物になってしまうと8番による勧進帳悪ストーリーになってしまう危険性があるんですよね。そうならないように3番に潜む哀しさを表現する必要がある作中イチの難役だと思っています。

 

そして、筆者は3番こそこの物語の主役だと思っています。

おそらく彼のひねくれ切った性格そのものは変わらないでしょうが、この陪審が彼の人生に与えた影響は計り知れないものであるはずです。

 

3番はこの後何を思うのか?息子との関係はどうなるのか。厚顔で恥知らずな男が抱える悲哀の行方は?

密室に入室する前と後で、今後の人生観が変わる可能性を最も秘めた人物ではないしょうか。

 

 

4番:石丸幹二さん

冷静でインテリオーラ溢れる4番を演じるのは石丸幹二さん。ミュージカル作品ではもう何度も拝見していることもあり、この12人の役者さんの中でやはり注目して観劇していました。

 

4番もかなりの重要人物です。最初に無罪を唱えた8番に強く反論するのは主に大声で相手を威圧するタイプの人間ですが、この4番だけは論理と頭脳で8番と対峙します。

とはいえ、4番は別に8番を言い負かそうだとか論破してやろうなんて気は毛頭ありません。そこがカッコいいんですよね。そう、4番ってめちゃくちゃカッコいいんです。

 

特にラストシーン近くで4番が無罪に主張を変えるシーンは必見。8番に論破されて渋々無罪にするわけでもなく、悔しそうな素振りも一切ありません。

ただ、自分の中で"少年は有罪である"という確信が持てなくなってから。それだけです。誰に言い動かれされたわけでもなく、自分で考えて自分で納得した結果だから。

 

作中で最も強い信念を持っているのは実はこの4番ではないでしょうか?自分自身に対して最も素直で忠実な男です。

4番は笑顔を見せない冷静な人物である一方、石丸さんは常にニコニコとした物腰柔らかでおっとりとした方です。一見すると真逆の役柄のようにみえますが、実は人間としての根っこの部分はかなり似ているのではないでしょうか。

 

ファンの方に怒られてしまいそうですが、石丸さんは譲れないと思ったことは絶対に譲らないし自分のこだわりを貫き通すタイプだと勝手に思っています。(もちろん道徳と常識の範囲内でね)

パッと見は全然違うタイプの4番と石丸さんご本人に通じ合う共通点を感じましたね。

 

ぜひオススメしたい作品!

予定さえ合えばリピート観劇しようと思っています。これまで筆者が観たストレートプレイの中でNo.1かも。

そもそも原作の脚本自体が抜群に面白いという背景もありますが、それにしたってここまでハイレベルなお芝居はなかなか出会えない。

 

当サイト『ミュージカル主義』ではあまり面白いと思わなかった作品に対しては正直に微妙でしたと書きます。自分で言うのもアレですが、本当に自信を持ってオススメできる作品です。

迷っている人はぜひぜひ観に行ってほしい!

 

 

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