先日、漫画『イノサン』のミュージカル化のキャスト発表が行われました。
人気・実力ともに兼ね備えたキャストが様々なジャンルから集まったこともあり、イノサンという作品がいまだかつてないほど注目されているはず。今まで知らなかった人もミュージカル化をきっかけに興味を持ったでしょう!!
私自身、イノサン原作愛読者でもありますし、ミュージカル自体も好きです。そして、その中でも特にフランス革命ものは大好物。
何が言いたいかと言うと、
原作イノサン。めーーーちゃくちゃ面白い漫画!!
ミュージカル化で興味を持った人はぜひ、原作も手に取って読んでみてほしい!
フランス革命ミュージカルが好きな人は絶対に気に入るし、「ミュージカルなんて普段見ないわ」という人でも歴史漫画として楽しめるはず。
なので、キャストがきっかけでイノサンミュージカルに興味を持った人にもイノサンミュージカルだけでなく、ぜひぜひ原作漫画をオススメしたいのです!
✦追記✦初日公演観てきました
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もくじ
漫画『イノサン』とは?
坂本眞一先生によって連載中の漫画。2013年から年まで連載された無印『イノサン』と、続編『イノサンRouge(ルージュ)』の2つがある。
『イノサン』の方は生涯で2700人以上の処刑を取り仕切った実在の処刑人シャルル=アンリ・サンソンが主人公。
『イノサンRouge』はその妹で処刑人のマリー=ジョセフ・サンソンが主人公。
時系列は『イノサン』から『イノサンRouge』にあまり時間を空けることなく自然と繋がります。続編というより、主人公を変えてリニューアルという感じ。
なので、ミュージカル観劇に向けてのざっくり予習であればマリーが中心の『イノサンRouge』のみでもOKですが、イノサンの世界をガッツリ楽しみたいなら無印も読んでおくことを強くオススメします!
どんな漫画かざっくり解説
簡単に言うとフランス革命を扱った歴史漫画に分類されるんだけど、この作品の面白いところのひとつは、主人公がフランス革命の表舞台を彩った歴史的'主役'とは言い難い人物であるところだと思う。
というのも、主人公は国王でもなく王妃でもなく、「処刑人」
これまで散々、漫画化・映画化・舞台化....などなどとにかく題材にされてきたフランス革命という有名な歴史的事件。
そのほとんどの主人公は王族or平民のどちらか。革命を起こす方と、起こされる方。つまり、フランス革命の主役とも言える存在。
でもこのイノサンという漫画はなんと処刑人の視点からフランス革命を描いてます。これまでいなかった第3者から語られるフランス革命漫画なのです!
なので、フランス革命作品はもう見飽きたよというフランス革命マニアの人でも新鮮な気持ちで楽しめるはず。
そして、今回そんな漫画がミュージカルになります。ミュージカルでのダブルキャストの主役2人を紹介。
シャルル=アンリ・サンソン
『イノサン』の主役はフランス革命時の国王ルイ16世やマリーアントワネットを含む2,700人以上の処刑の指揮を執ったシャルル=アンリ・サンソン。通称シャルル。
フランス革命~ロベスピエールの恐怖政治時代に処刑された歴史上の有名人のほぼ全員の処刑に携わってます。
そして、なんと実在の人物。
歴史上、世界で2番目に多くの罪人の処刑を取り仕切った処刑人です。恐怖政治時代には1日で30人以上の処刑を執行したと記録されています。ちなみに1位はドイツ最後の処刑人で3,165人。
しかし、生涯にわたって死刑廃止論を訴えたほどの死刑反対派。
ミュージカル化のキャストはLeadの古屋敬多さん。Leadのことは超ざっくりで申し訳ないんですが「歌・ダンス・ルックス・性格」全部いいダンスボーカルユニットっていうイメージです。
古屋さんはミュージカル『プリシラ』にも出演されていたんですね。
今日はツアーパンフレットの撮影でした♪
— 古屋敬多 [Lead] (@Keita_Lead) 2019年6月8日
昨日髪さらさらにしてもらったと^ ^ pic.twitter.com/pIBzLx7cDm
古屋さんといえば明るい髪色に短髪っていうとにかく明るいイメージがあるんだけど、イノサンで演じる役のシャルルは黒髪の超ロング長髪。イメージ柄っと変わるよねえ!
ただ、顔立ちすごく整っているし、切れ長っぽい涼しげな目元がちょっとシャルルっぽいんじゃないかなあと期待してます。
マリー=ジョセフ・サンソン
そして続編の『イノサンRouge』の主人公はシャルルの妹のマリー=ジョセフ・サンソン。女処刑人で、通称マリー。
ミュージカル化のキャストは中島美嘉さん。ビジュアルはもう文句なしに似合ってるよね!
マリーは実在の人物ではないです。女処刑人という異色の職業と、もうはちゃめちゃなヒャッハー!な性格。簡単に言うと少年漫画によく有りがちな俺強えー!系のキャラクターなので、正直ちょっと浮いている。
本来男の職業である処刑人という血生臭い職業に自ら望んで従事するようになるマリー。
処刑人デビューは12歳。シャルルの処刑人デビューが16歳なので、その才能と狂人ぶりがわかる。
『イノサン』では、子供の頃のシャルルが処刑人の家系に生まれてしまったことを嘆きながらも、処刑人としての役割と自覚に目覚め成長していくストーリー。こちらにもマリーは少女期を中心にガッツリ登場します。
『イノサンRouge』はシャルルとマリー両方の視点から激動のフランス革命を処刑人の視点から描いていくストーリー。
フランス革命が本格的に始まるのはRougeからなので、Rougeのほうが歴史漫画の要素が強いです。
そして、今回ミュージカル化するのはRougeの方。
ただ、キャスト一覧を見ると無印イノサン時代にしか登場しないキャラクターも登場するようなので、ミュージカルではおそらく無印イノサン、Rouge、両方のストーリーをマリー中心に追っていく構成になるのかなと予想しています。
つまり、しっかり予習するのであれば無印とRouge両方読んだほうがいいです。絶対に!
当時のフランスはどんな時代だったかと言うと
生まれで決まる一生
イノサンの世界は18世紀末のフランス。歴史の授業で習うフランス革命が勃発する1789年前後のお話です。
フランスってずっと華麗でオシャレな国だったイメージがあるかもしれませんが、シャルルとマリーがまだ幼かった頃の時代のフランスは血生臭いどころの話ではなく、もはやこの世の地獄。
まず明確な身分制度があり、全国民は僧侶・貴族・平民という3つの身分に分けられます。
そして、全国民の98%は平民。平民と言っても現代の日本人がイメージする"一般人"ではなく、この時代の平民のほとんどは飢えと貧困に喘ぐ貧民層。
つまり、国民のほとんどが今日生きていくためのパンすら手に入らないかもしれない、という状態だったわけです。
フランス革命期のフランス王妃マリー・アントワネットの有名な言葉として「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃなぁ~い」というものがあります。しかし、実際はこんな発言はしていないそうです。
僧侶や貴族は贅沢三昧の毎日なのに平民はパンも食べれない!と叫ぶ平民に対して無知で愚かな馬鹿王妃が発言した、と王妃アンチがでっちあげた訳です。
現代でも有名人のアンチが発言でっちあげたりなんてしょっちゅうあるので、いつの時代も同じような構図ですね。
ちなみに処刑人であるシャルルとマリーの身分は?というと一応平民にあてはまるのですが、処刑人家業だけでなく代々医師としての役割も持っているので衣食住は貴族とほぼ同じです。
処刑方法
そして、もう一つの特徴としてあげられるのが処刑制度。この時代の処刑方法は罪人の身分によって決定しました。
貴族は斬首刑、平民は絞首刑や車裂き刑となります。
※ただし、貴族でも罪の重さによっては絞首刑や車裂きになるパターンもあり。
車裂き刑とは
車で轢き殺す訳じゃないです。車輪に罪人を仰向けにくくり付けて胸や手足が粉々になるまでこん棒で叩きつぶします。そして、その後車輪に体をくくり付けられたまま頭を逆さにした状態で街中に放置され、見世物になります。
絶命するまで下手すると数日かかるため、罪人は耐え難い苦痛と羞恥に襲われます。
要するに、身分によって処刑方法が異なっていたわけです。
貴族は苦しまずに一瞬で死ねる斬首刑。一方平民は長い時間苦痛が続く絞首刑や車裂き刑。
※当時の絞首刑は現代のように頚椎を骨折させるのではなく窒息させることによって絶命させるため、10分~20分間苦しむこととなります。早く絶命できるように罪人の家族にはロープで吊るされた罪人の体を下から引っ張ることが許されていました。
そして、フランス革命期になるとギロチンが主流となります。ギロチンという単語だけ聞くと「ひぇ~~怖い!残酷!」と思うかもしれませんが、ギロチンは"人道的な処刑道具"として発明されます。
現代人の私たちからすれば「どこが人道的なの?」という感じですが、前述したとおり従来の処刑方法は、同じ罪であっても身分や性別など生まれ持った要素で処刑方法が異なります。
しかしギロチンであればどの罪人も苦しまずに一瞬で死ぬことができる。
ギロチンの前では貴族だろうが平民だろうが、同じ人間として皆平等に扱われるのです。
これがギロチンが人道的と言われる所以です。
イノサンの世界では、シャルルとマリーは途中までは処刑人として車裂き刑や絞首刑を取り仕切っていますが、ギロチンが発明された以降はギロチン刑を取り仕切きるようになります。
なので、イノサンミュージカルでも確実にギロチン台は登場するでしょう。でも大丈夫、ギロチンはフランス革命ミュージカルでは見慣れた常連の舞台セットです。
昨日から、稽古場を引っ越して本番道具を持ち込んで稽古してます。フェンシングブレードを使ったアクションはさらにパワフルに磨きがかかりました!そして、マダム・ギロチンさんもいらっしゃいましたー◎ pic.twitter.com/brMZlxUt2k
— 「スカーレット・ピンパーネル」公式 (@pimpernel_2017) 2017年10月25日
こんな感じ。
フランス革命ってどんな革命?
前述したとおり、飢えと貧困に苦しむ第三身分である平民たちが贅沢三昧の貴族たちへの不満がたまりにたまって爆発したのがフランス革命。
ようは、生まれや身分で一生が決まってしまう身分制度への訴えでもあったわけです。「人は皆生まれながらにして平等である」というのがフランス革命の基本的な理念。
その中でも特に悪目立ちしていたのがフランス王妃マリー・アントワネット。もちろん、漫画にも登場します。
国民たちを顧みない贅沢三昧の生活をしていたことだけでなく、実はオーストリア出身の外国人王妃であったことも平民たちの不満を買う大きな要素になってました。
アントワネットは実は最期はギロチン刑で生涯を終えます。そして、刑を取り仕切ったのはシャルル。これは実話です。
2019年6月現在はまだアントワネットの処刑は漫画では描かれていませんが、ミュージカルではおそらく描かれるはず。
そして、もちろん国王であるルイ16世もフランス革命によってギロチン刑に処されます。
さて、ここまでがイノサンの世界の当時のフランス情勢についての解説でした。
色々書いてますが、結局のところ原作イノサンの面白さってなんなのよ?というと、
①超美麗イラスト
②オリジナリティの塊
③処刑人視点の物語
の3つです!
イノサンの魅力①:超美麗イラストの数々
作画3日目。カラー原稿。
— 坂本眞一 (@14MOUNTAIN) 2019年2月9日
Marie Antoinette and Marie Joseph Sanson pic.twitter.com/e7FeeNqWbh
坂本眞一先生のTwitterで、完成までの加筆の様子を見ることができます。そして、完成した原稿のひとつが上図のイラスト。これを見てもわかる通り、とにかく絵のクオリティと緻密さがハンパないです。
「えー、どうせ表紙とかカラーイラストだけで、漫画本編は別に普通なんでしょ?」と思うかもしれませんが、全然そんなことありません!!全部のコマがこのクオリティなのです!
処刑人の漫画なので当然、処刑シーンが数多く登場します。そして、行われていることは結構グロい。
なんだけど、絵が美麗すぎるのでなんだかそこまでグロく感じないんですよね。首が吹っ飛んだり、四肢が引き千切れたり、たしかにやってることは相当グロいんだけど、グロさの前に美しさを脳が感知するというか。
闇金ウシジマくんみたいな読んだら夜寝れなくなるような、あの手の残酷さとは全く違う尾を引かない残酷さというか。
そして、舞踏会のシーンなんかは1ページ読むのに10分くらいかかりそうなくらい、圧巻の緻密さ。
コミックス1冊読むのにめちゃくちゃ時間かかる。たぶんBLEACHの5倍かかる。
イノサンの魅力:②オリジナリティの塊
作画3日目。
— 坂本眞一 (@14MOUNTAIN) 2018年11月30日
Marie Antoinette pic.twitter.com/TkoMyWbv4r
なんとスマホをいじくるマリー・アントワネット。
作画1日目。
— 坂本眞一 (@14MOUNTAIN) 2018年12月13日
Marie Antoinette
『ロココの葬列 ヴァレンヌ逃亡事件編』 pic.twitter.com/nZx6BGsLcO
SNOWとLINEを嗜まれるマリー・アントワネット。
『イノサンRouge』期間限定無料公開中です。18世紀の社交界を現代のSNSで表現してみました!是非!#少年ジャンププラス https://t.co/63pqfE5b0m… pic.twitter.com/aA5ofbOA5n
— 坂本眞一 (@14MOUNTAIN) 2017年12月30日
Twitterまで始めちゃう。(最新刊ではInstgramやってます)
作者の坂本先生は作中で当時の社交界をSNSで比喩してます。笑いのない重厚で世界観の漫画でいきなり登場するのでインパクト特大。タピオカが登場する日も近そう。
「上辺だけの薄っぺらな関係」「服装や髪型を競い合って見せびらかす」などなど、まさに現代にも通ずるような当時の貴族たちとアントワネットの愚かさをSNSで表現。
例えば、アントワネットと母であるマリア・テレジアのLINEのやりとりは、手紙でやりとりされていた史実の内容なんです。娘の愚かしい行動を諭す母親。
史実通り手紙でやりとりするシーンで描くのではなく、LINEで表現しちゃう・・・大胆すぎる。でも、これだとすごくわかりやすいし、アントワネットが感じていた貴族社会の息苦しさがよりリアルに伝わってくる。
アントワネットがTwitterのフォロワーである数百人の貴族たちのアカウント全員に
「ありがとうございます♡♡♡今度ぜひご一緒しましょう」
と、一言一句同じ文言でリプライしまくるシーンがあるんだけど、これもまた面白い。
これだけでも体面上の上っ面の関係に辟易しつつも王妃としてしっかり対応しなきゃいけないアントワネットの嫌気さがわかるし、フランス革命勃発直後にアントワネットのフォロワーである貴族たちが一斉にフォロー解除しだすんです。
これも、革命が勃発して貴族たちが自分たちの命と立場を我先にと、すたこらさっさと亡命していく史実を現代風に表現してます。
それを「一斉にフォロー解除される」っていう表現方法にしているわけです。
歴史漫画にSNS登場されるなんて発想。独特で奇抜なのに読み手にダイレクトに伝わってくるオリジナリティ溢れる表現方法。
これがイノサンという漫画をただの歴史作品に足らしめない理由のひとつだと思います。
イノサンの魅力:③処刑人視点の物語
前述したとおり、この作品は「貴族vs.平民」というフランス革命作品でありがちな構図とはまた違う視点で物語が進みます。
処刑人一族は当時、国家によって委託された職業であったためシャルル自身、国王ルイ16世とは面識はあります。しかも、ルイ16世がシャルルにギロチンの歯の形の改良案を提案したこともあったほどです。
また、医師としての一面も持っていたため衣食住には困らない貴族と同等の暮らしでした。が、身分自体は第3身分の平民です。
しかし一方で、シャルルやマリー含む処刑人一族は代々人々から忌み嫌われる存在であり、当然平民たちからは忌避され、学校に通うこともできず街を歩けば糞尿をぶつけられる始末。
つまり、貴族たちにも平民たちにも属することのできない存在だったわけです。
フランス革命を扱った作品の主人公は大体が平民か貴族。平民の場合は「金持ち貴族共!今に引きづりおろしてやる!」という革命運動だし、貴族の場合は「革命なんて起こさせない!平民がおとなしく納税してればいいのよ!」という感じ。
しかし、イノサンではシャルルやマリーは明確にはどちらの立場でもなく、ただ互いの痛み・悲しみ・主張を理解している立場。革命を処刑という額縁を通して眺めている。
だからシャルルやマリーはこれまでのフランス革命作品の主人公たちとはまた違った想いや信念を持っているわけです。
フランスという国がもっと幸せで平等な場所になればいいのにとひたすら願う一方で、一族が生きていくために処刑人家業を背負うものとして毎日人の首をはね続けなければならないという矛盾に苦しみながらも懸命に生きていく。
「処刑人が見た革命」という切り口が他のフランス革命漫画や映画にない、イノサンの醍醐味だと思います。
フランス革命作品を読みつくしている人でも、イノサンの主人公の視点は新鮮に感じるはず。
まとめると
冒頭書いたとおり、様々なジャンルで活躍する人たちがミュージカル化のキャストとなったので、イノサンという作品は今、これまでないほどに注目を浴びていると思います。
だからこそ、この機会にぜひ原作漫画を読んでみてほしい!絶対に面白いと感じるはずなので!
いきなり漫画を購入するのがハードル高い方は公式ファンサイトで少しだけ試し読みできるので、ぜひ読んでみてください。
『イノサンRouge』はミュージカルの予習としてぜひ読むべし!時代背景がわかっていると演出やセリフ回し、さらには役作りへの理解が深まります。
『イノサン』も余力があれば読んでおくことをオススメします。筆者的にはRougeよりこっちのほうが面白い。
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