CHESS 観劇レポ

【感想】2020ミュージカル『CHESS』を観てきた │ 日本人キャストでは難しい作品かも?

 

東京国際フォーラム@有楽町

 

2020年ミュージカル『CHESS』を観てきました。

結論から先に書くと、ストーリーにはやはり違和感があるものの、ミュージカルとして素晴らしいクオリティ&パフォーマンスで大満足でした。

 

これが噂のめちゃくちゃストーリーか!

 

『CHESS』は作品自体は知っていましたが、実際に観たのは今回は初です。

そして、やっと理解しました。ストーリーがめちゃくちゃだと言われている理由がよくわかった(笑)

 

いや、厳密に言うと別にそこまでめちゃくちゃに破綻しているかと言われると、実際そうでもない。チェスの決戦を軸とした愛憎劇にはやはり見ごたえと迫力があるし、物語としての最終的な決着もある。

それでも感じてしまう・・・なんだろう、このモヤモヤ感は!

 

まず、主人公のアナトリー含め、登場人物たちの心情がよくわからない。観劇後にゆっくり思い返してみると、自分なりに余白を埋めながら徐々に理解・・・いや、やっぱり理解できない。

展開がとにかく急なんですよね。いきなり恋に落ちていきなり亡命していきなりチェス始まって。

 

アナトリーが家族を捨てて亡命したことについても、「きっと最後に明かされるアナトリーの想いや仕掛けがあるのだろう!」と期待してみるも、まさかのナシ。

故郷と家族を捨てて亡命したことだけはまだわかる。でも若い女と不倫して一緒に亡命する必要ある?と、ツッコミたくてしょうがない。

 

最後の最後に大どんでん返しを期待するも、やっぱりナシ。正妻の元にトボトボと帰るアナトリーの姿を見送って終了。一体何だったんだこのストーリー。

 

それでも面白い!圧倒的なパフォーマンス

たしかにストーリーにはいまいちノリ切れなかったものの、ミュージカルとしてつまらなかったのか?と言うと、全くそんなことはない。むしろ最高に面白かった!

やはりミュージカルというエンタメは、圧倒的な歌唱・パフォーマンス・作品の世界観で魅せるものなのだと再認識しました。ストーリー自体の面白さとか整合性ってそこまで重要でもないですよね。

 

最初から最後までノンストップで続く素晴らしすぎる歌唱と、アンサンブルを中心とした圧倒的な群舞。目の前で繰り広げられる舞台に夢中になっているうちに、あっと言う間に終わってしまった!

このストーリー構成でもなお満足度が高いので、よっぽどパフォーマンスのレベルが高いということです。高揚感抜群の公演でした。

 

日本人キャストでは難しい作品かも

しかし、逆に考えると日本人キャストでの上演は難しい作品だろうな...とも思ってしまった。

こんなぶっ飛びストーリーであっても面白いと感じるのは、来日キャストによる日英合同上演というスペシャリティがあったからこそだと思います。多少ストーリーが腑に落ちなくても、スペシャル感のほうが圧倒的に高いため満足できたのだと。

 

海外キャストと日本キャストの優劣の話では決してないのです。今回のように何かしらの特別感がある公演でもない限り、どうしてもストーリー展開への違和感が目立ってしまうだろうと思います。

 

とはいえ、やはり今回の公演は素晴らしかったです。ここからは各キャストについての感想をちょっとだけ。

 

各キャストの感想

ラミン・カリムルー

主役のアナトリー役のラミン・カリムルーさん。世界的に有名なミュージカル俳優です。初めて生で拝見しましたが、やはりさすがの歌唱力と存在感でした。

最初のほうはちょっと抑え気味と言いますか、おとなしめのしっとりとした楽曲が多いので「ん?」と思ってしまうかも。いやしかし1幕ラストのAnthemで全部持っていかれました。ラミンさんのAnthemスゴすぎる!

 

Anthemという楽曲は日本のミュージカル俳優もコンサートやCD音源で数多く歌唱してきたナンバーなので、曲自体はかなり耳馴染みのある1曲でした。しかし、日本人キャストの歌唱とは全然別物でしたね。

「海外俳優が良くて日本人俳優はダメ」という意味ではなく、なんというか本当に全く違う曲のように聴こえます。不思議なんだけど、同じ曲には聞こえない。

単純に言語によるリズムの違いなのかもしれませんが、何かそれ以上のモノがあるような気がします。

 

というのも、ラミンさん自身が特殊な経歴を持っているためAnthemには誰よりも思い入れがあるんだとか。イランで生まれ、家族でカナダに渡り、現在ロンドンに住みながら世界中を巡るラミンさん。

「自分にとっての故郷」について彼自身の人生で何度も考えてきたのでしょう。決して美しいだけじゃない複雑な想いや決意のようなものが伝わってくる鬼気迫る歌唱でした。

 

ラミンさん、歌唱力が高いだけでなく言葉の一つ一つを丁寧に語りかけるような歌い方ですよね。ただ上手いだけじゃないのが人気と実力の秘密なのだなと納得。一音一音がしっかり刺さるような歌唱!

 

 

サマンサ・バークス

映画版『レ・ミゼラブル』のエポニーヌとして認知していたサマンサさんでしたが、ここまで歌が上手いとは。

上手いというか、うーんなんだろう?とにかく聴いていて気持ちいい。どこまでもスコーーーン!と伸びていくような飛翔力のある声質ですよね。

 

どうしてもレミゼのイメージがあったので少女っぽさが残る女優さんだと思っていましたが、時が経つのは早い。キュートで美しい大人の女性になっていました。

ちょっと俗っぽい表現ですが、日本人受けが良さそうな女優さんですよね。愛らしくて親しみやすい雰囲気というか。

 

 

ルーク・ウォルシュ

今回初めて知ったキャストさんです。若さほとばしるようなパワー溢れる情熱的な歌唱です。今まで聞いたことのないようなクリアなハイトーンボイスの持ち主。

ラミン、サマンサと比較すると歌唱パートは少し少な目だったので、もう少し聴きたいと思うところで終わってしまったのがちょっと残念。

 

 

佐藤隆紀

歌唱力と声質の素晴らしさは相変わらずという前提ですが、英語歌唱に全く違和感がありませんでした。たぶん耳と容量がものすごく良いのだろうな...と改めて佐藤さんの適応能力の高さを実感。

審判であり、狂言回しであり、チェスの解説者であるアービターという役どころ。彼のがっしりとした体躯と声質にぴったりですよね。チェスの領域を飛び越えて、まるでこの世界の審判者であるかのような堂々たる立ち振る舞い。

 

これまでは『エリザベート』のフランツや『マリー・アントワネット』のルイ16世など、人当たりは良いが臆病で優柔不断、というイメージの役どころが多かったように思います。

そのため、今回のように体温を感じないソリッドな役は少し珍しいですよね。彼のイメージを覆すような役にも関わらず、ばっちりさまになっていた!

 

最高すぎるアンサンブル

今回のアンサンブルさん、本当にレベルが高い!今まで観たどの公演よりもハイレベルなアンサンブルだったかもしれません。個々人のパフォーマンスのレベルの高さはもちろん、とにかくアンサンブルの魅せ方が上手い演出だなと思います。

 

2幕頭のOne night in bangkokなど一部シーンを除いて、基本的に最初から最後まで統一感のある黒のロングジャケットの衣装で登場します。まるでチェスの駒のように帯を成して動く彼らから人間味は感じません。

一方、一般的なミュージカル作品でのアンサンブルは物語の中で何度も衣装を変えて様々な年齢や階級の人物を演じます。

つまり『CHESS』のアンサンブルは少し特殊なのです。

 

長身に映える黒いロングジャケットを羽織り、軍隊のように統一感とキレのある動きで作品を盛り上げる!とにかくカッコいいんです、アンサンブルが。

 

しかもただカッコいいだけじゃない。この作品はアンサンブルの存在があるからこそチェスの闘いが映えるのだと思います。

チェスってハッキリ言って全くミュージカル向きじゃない活動じゃないですか。体中を動かすわけでもないし、言葉もほとんど発しないし。この可動域の狭さでは大舞台を持て余してしまう。

しかし、実際はまったくそんなことはない。舞台上に張り巡るように配置されたアンサンブルたちの動きや表情によって、チェスプレイヤーたちの火花散る心理戦や緊迫感が伝わってくるんですよね!

 

チェスプレイヤー自体は大きな動きや言葉を発せずとも、アンサンブルの存在が静かなる勝負の緊張感やせめぎ合いを劇場中に響き渡らせる。一見ミュージカル向きではないチェスというスポーツをここまでミュージカル映えさせるとは!

 

 

それでもやっぱり賛否両論かも

2020年の今回の日英キャスト公演は本当に素晴らしかった!プリンシパル、アンサンブルの全員のパフォーマンスが本当にハイクオリティ。

でも『CHESS』という作品として好きか?というと、正直かなり微妙なところです。今回の公演レベルの完成度があってこそ初めて作品として成り立つとでも言いますか・・・

もし、誰かひとりでも歌が上手くないキャストでもいようものなら、途端に崩れ落ちてしまいそうな肌感覚があります。

 

なんにせよ、今回のように世界のミュージカルスターと日本のキャストが合同で公演をするなんて嬉しいことですよね。日本のミュージカルが興行としてますます新展開を遂げていくようなワクワク感があります!

 

 

【補足】ラミンさんのソロアルバムにAnthemも収録されています。会場でCD販売されていましたが終演後に購入している方で列ができていました。

 

ミュージカルに先駆けて制作されたABBAのアルバム版。

 

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