星の王子さま 観劇レポ

【感想】2020『星の王子さま』を観てきた │昆夏美と伊礼彼方が魅せる名作音楽劇

 

東京芸術劇場シアターイースト@池袋

 

『星の王子さま』を観てきました。観劇レポです。サン=テグジュペリの名作小説の音楽劇です。

 

昆夏美×伊礼彼方

東京公演は東京藝術劇場のシアターイーストにて上演されました。全272席のこじんまりとした会場です。

 

一幕モノです

 

普段、大劇場で歌い上げている昆夏美さんと伊礼彼方さんも出演されています。昆さんはわかるけど、なぜ伊礼彼方?という第一印象がありました。

ハードボイルド系の伊礼さんが『星の王子さま』の世界観に果たして溶け込むのだろうか・・・と少し疑問でしたが、結論から言うとめちゃくちゃよかったです。

 

2時間ぶっ通しの3人芝居

左から伊礼彼方、昆夏美、廣川三憲

 

本作は2時間の一幕モノですが、メインとなる出演者はなんとたったの3人。王子さま役を昆夏美さん、飛行士役を伊礼彼方さん、廣川三憲ひろかわみつのりさんは様々な人々を演じます。

2015年にも同じ座組で公演しているので、今回は再演となります。

 

主演の昆さんだけでなく3人とも2時間ほぼ出ずっぱり。最初の1時間ほどは一回も舞台袖に引っ込まずに、ずーっと舞台上のどこかで何かをしています。

休憩もないですし、役者3人がずっと舞台上にいるせいか、物語の世界に没頭できるつくりになっています。舞台というよりもまさに本を読んでいるような感覚になる優しいテイストの作品です。

 

決して派手でも豪華でもないセット

今回の会場はこじんまりとした小さな会場なので舞台セットもかなりシンプルです。劇場に入った瞬間「ちょっと地味だなあ」と正直思ってしまった。

いいやむしろ、そのシンプルさが良かった!見終わったあとに痛感。本を読んでいるように自然と頭の中で情景をイメージさせるような想像力搔き立てるお芝居でした。

 

小劇場にありがちな「シンプルなセットによって想像の幅が広がる」みたいな宣伝文句ってあまり好きじゃなかったんです。それ、予算の少なさを誤魔化してるだけでしょ?と、どうしても思ってしまう。

しかし、今回でやっと本当の意味での”シンプルなセット”に出会えたような気がします。この作品を豪華絢爛なセットで大劇場で上演してもきっと面白くない。このサイズの劇場とセットだからこそ映える作品なんだなあと思います。

 

「この作品観たいけど会場が小さすぎるなあ」と思ってしまってパスした作品が今までたくさんありました。今思えばもったいないことした・・・

 

各キャストの感想!

 

本物の少年にしか見えない昆王子さま

なんといっても昆さんやっぱりスゴい!超実力派女優なんだと再確認しました。というのも、とにかく最初から最後まで本物の少年のように見える。良い意味で女性っぽさがほとんど感じられない。

星の王子さまって純粋で可愛い少年というだけでなく、ちょっと小憎たらしいところがあるというか、言葉を選ばずに表現するとウザいところがあるのが王子の良さじゃないですか。そこに飛行士もだんだん疲弊していくし、ついにキレてしまう。

そこの微妙な塩梅がさすがだなと。可愛いだけでも愛らしいだけでもない、本物の人間の子供っぽいけたたましさが良い。

 

ところで今回の『星の王子さま』の公演の公式HPに昆さんの紹介文がありますが、「ミュージカル界のシンデレラ」と書かれています。プリンスや貴公子は大量発生していますが、シンデレラという表現は初めて見ました。

パリの貧民やら何やら、最近はシンデレラとは程遠いような役ばかりですが、いつか本当にシンデレラのように華麗で美しい役も観てみたい。

 

 

自然体が魅力の伊礼飛行士

かつてハプスブルクの皇子さまを演じた伊礼さんですが、今作では奔放で純粋な星の王子さまに翻弄されている姿がなんとも愛らしくも勇ましい。

 

飛行士役が伊礼さんだと初めて知ったとき、正直「え?それはちょっと違うんじゃない?」と違和感を抱いたことを覚えています。

2017年の『星の王子さま』では飛行士役は井上芳雄さんが登壇しており、ストレートプレイにも”普通の人っぽさ”にも長けた井上さんにはぴったりのハマり役。

一方、伊礼さんには申し訳ないけどストレートプレイも一般人のイメージもなし。エキゾチックでハードボイルド、派手な印象がどうしても強かったのです。もっとハッキリと言うと、『星の王子さま』という作品には少しクセが強すぎるんじゃないの、と。

 

いざ蓋を開けてみれば、実に素晴らしかった!伊礼さんが演じる飛行士って、とにかく自然体なんですよね。演技っぽさがないというか。

 

しつこすぎる王子さまに対しては、いかにも伊礼さんらしい渋面で「なんだコイツ?」というしかめっ面をするし、飛行士が死への恐怖を感じるシーンでは焦燥に満ちた本気の表情で王子さまを怒鳴りつける。

良い意味で、童話っぽさとか子供向けっぽさが一切ないんですよ。どこまでも大人向けの鋭い芝居。だからこそ、ラストシーンでの王子さまと心を通わせたシーンに底知れぬリアリティがある。

 

 

伊礼さんって最近、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍してますよね。もはや帝劇常連メンツの一人にまで上り詰めています。

なかなか他の役者とバッティングしないような独特の個性が寄与したことも大きな要因ですが、決してそれだけでなく、役者として着実に進化しているのだなと改めて実感。

 

 

作品の隠し味、廣川三憲さん

廣川さんはこの作品のストーリテラー、キツネ、ヘビ、などなど様々な役で登場します。劇団ナイロン100℃に所属されている役者さん。生で拝見したのは今回が初めてです。テレビではよくお見かけしますが。

 

とにかく穏やかで温かい声質の持ち主。大人向けの示唆や皮肉を含む『星の王子さま』も、本来は児童書籍であることを思い出させてくれます。

大人向けになりすぎず、子供向になりすぎず。この絶妙な塩梅を操作していたのがこの方。伊礼さんが飛行士役なら、廣川さんは

 

ストーリーテラーとしての立ち振る舞いも好きです。完全な傍観者ではなく、ストーリーテラーも一人の人間として王子さまと飛行士の行く末を心配しているんですよね。

声や動きで大きくハッキリ表現するわけではないんだけど、慈愛に満ちた表情で暖かく二人を見守ります。王子さまを見つめるお顔なんてもはや、元気に遊びまわる孫を見ている表情ですよ。

 

大人になってからもう一度読みたい

『星の王子さま』はジャンルとしては児童書籍なので、子供の頃に触れたことがある人は多いかと思いますが、大人になってからもう一度読んでみた人はなかなか少ないはず。

筆者自身も内容自体はなんとなく覚えていましたが、「不思議な王子さまが宇宙を旅するお話」という、やはりメルヘンで子供向というイメージでした。

 

観劇後に色々と調べてみたのですが、この作品には奥深いメッセージ性やアイロニーが数多く含まれています。知らなかったし、知れてよかった。

観劇していなかったら、この名作が名作たる理由が一生わからないまま終わってしまったかもしれません。

 

例えば、王子さまが一生懸命抜いてたバオバブの芽はファシズムの例えなんだとか。早めに摘んでおかないと取り返しのつかないことになる。この世界を丸のみしてしまう、ということ。

他にも、星の数を数える「実業家」が唱える50162731という数字は、第二次世界大戦に巻き込まれた人の5億162万2731人という数であったり。

 

これらは作者のサン=テグジュペリ自身が明示したものではなく、後世に議論された考察なので諸説あります。しかし、第二次世界大戦で疲弊してしまった大人たちに向けたメッセージがあることは間違いありません。

 

決して戦争を肯定するわけではないのですが、戦争があったからこそ誕生した名作って本当に多いですよね・・・

 

HARI
色んな意味で考えさせられる作品でした

 

【補足】文庫版です。時間があるときに読み直してみようかなあ。

 

王子さまグッズが潤沢。フィギュアちょっと欲しい。

 

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