『天保十二年のシェイクスピア』を観てきました。観劇レポです。決定的なネタバレはありませんのでご安心を。
というより本記事は後半に書いた東宝演劇部初のBlu-ray化が最も気になるポイントなので、そちらについての感想(?)も書いています。
もくじ
ミュージカルではなく音楽劇
今作はタイトルの前に「絢爛豪華 祝祭音楽劇」と銘打っています。ミュージカルではなく音楽劇というカテゴリーになります。ミュージカルらしく歌って踊っての華やかなシーンもあるっちゃあるのですが、基本的にはほぼストレートプレイです。
次から次へと楽曲が押し寄せるようなミュージカルらしいミュージカル作品が好きな人にもあまりオススメできませんが、じっくりとしたお芝居が好きな人には超オススメできます。10分以上セリフだけのシーンも結構ありました。
また、上演時間は休憩を含めて合計3時間35分とかなり長丁場。正直なところ結構キツかった・・・
今回で3度目の再演
本作は故・井上ひさしの戯曲のひとつで、初演は1974年。それ以降2002年、2005年にも上演されています。今回の2020年公演で実に15年ぶりの再演となったわけですね。
Wikipedia先生によると、上演時間が長いためなかなか上演するのが難しい作品なんだとか。初演は4時間あったので終電に間に合わない観客の途中退室があとを絶たなかったとか(ホンマかいな)
今回高橋一生さんが演じた主役・佐渡の三世次は過去には川上隆也さんや唐沢寿明さんが演じていたようです。驚き!
シェイクスピア作品の壮大なオマージュ
本作は作中でシェイクスピアの37作品を彷彿とさせるようなセリフや設定が多数存在します。例えば、登場人物たちはそれぞれシェイクスピア作品に登場する人物の特徴を持っています。
主役の佐渡の三世次は、『リチャード3世』+『オセロー』+『ジュリアス・シーザー』+『リチャード2世』の4作品の設定を持った役です。他にも浦井健治さん演じる、きじるしの王次は『ハムレット』+『ロミオとジュリエット』+『間違いの喜劇』の3作品の設定を持った役。
シェイクスピアの全37作品を元にした壮大な物語であるわけです。そりゃ3時間35分もかけなきゃ収まりませんよね。
つまり、『天保十二年のシェイクスピア』ってどういう意味?と言いますと、”江戸末期の天保十二年に再現されたシェイクスピア全37作品”というニュアンスです。
要は、シェイクスピア作品を知っていれば知っているほど「あ~、このセリフはあの作品のオマージュなのね!」とピンと来るシーンの連続になります。
一方でシェイクスピア作品を全く知らない人にはただの江戸の物語にしか見えません。
感想!
シェイクスピア作品を知らないと正直キツい
前述した通り、本作はシェイクスピア全37作品を元にした構成・人物設定になっています。そのため、シェイクスピア作品についての知識が全くない状態だと、正直かなりキツいかもしれません。
例えば、前提知識があれば「ああ!あの作品のアレね!」とピンと来て面白い一方、知識がなければ「このシーンいる?」と思ってしまってつまらないかも。
もちろん前提知識がなくとも物語を理解し楽しむことができますが、やはり知識量によって面白さが上下する作品であることには間違いないです。何も考えずに笑って泣いて楽しめる作品もありますが、本作はそれとは真逆ですね。
筆者自身は、有名な作品くらいはわかったのですが、正直ピンと来なかったシーンやセリフも多かった...だからちょっと悔しかったです。
自分に知識があればもっと楽しめただろうな、と思ってしまった。『間違いの喜劇』なんて今回で初めて知りましたし。シェイクスピアマニアになった状態でもう一度観たい!
本作の目玉?主演の高橋一生さん
主役の佐渡の三世次役の高橋一生さん。最近はテレビで見ることのほうが多いですがもともと舞台にもかなり出演されている俳優さんです。ミュージカル好きには『レ・ミゼラブル』のガブローシュ(子役)を演じていたことでも有名ですよね。
今回演じる三世次という役は、女・金・権力に飢えた醜い顔をした不気味な男。足が悪く常に引きずるような歩き方ですが、とにかくずる賢く、出会う人全員を言葉巧みに操っていく策士。
本作は乞食同然の三世次が言葉の力を使って成り上がっていく物語です。「醜い見た目」なのでお顔に少し特殊なメイクをしていますが、ダークヒーロー感があってむしろちょっとカッコいいですけどね。
歌唱している姿を初めて拝見しました。歌唱力についてはだいぶアレな感じでしたが、音楽劇なので三世次のナンバーも2曲ほどしかありません。そのため、歌唱よりもむしろ捲し立てるような超長文の早口セリフが聴きどころです。
1幕までは「ホントに主役?」と思ってしまうほど出番が少ないです。正直、客寄せパンダのハリボテ主人公だと勘違いしてしまった。でも大丈夫!三世次は2幕から本領発揮していきます。
かなり癖がある役なので、演技が”上手い”のかどうかは正直よくわからなかった...でも三世次の独特の不気味な雰囲気や気味の悪さはかなりハマり役だと思う!
三世次は表面的には笑顔を見せていますが目は一切笑ってない。心に深い闇と野心を抱えていそうな怪しい目付きです。そこがめちゃくちゃ高橋一生っぽい。ネタバレになるので詳細は伏せますが、特にラストシーンは圧巻のお芝居ですよね。
ただやはり、群像劇のような構成なのでTHE・主役!という感じではないです。
さすがプリンス、浦井健治さん
きじるしの王次役の浦井健治さん。さすがにミュージカルスターだけあります。浦井さんの登場で一気に華々しいミュージカルの世界に様変わりしました。
役の写真だけ見ると何やら凄腕の剣豪のような禍々しいオーラを放っていますが、実はただの女好きの色男役です。それも浦井さんの演じる役っぽさがあってハマってました。
ただ、実は登場時間が短いです。具体的には伏せますが、出番がある一か所に集中しているような役なので、浦井さん目当てで行くとちょっと物足りないかもしれません。
この人が実質的な主役!唯月ふうかさん
ヒロインポジションかな?くらいの予想で観に行きましたが、唯月さんがたぶん主役です。いちばんカッコいい。
ただの可憐で美しい少女かと思いきや、本作の大キーマンです。彼女の存在によって『天保十二年のシェイクスピア』の世界は面白おかしく、奇妙に捻じ曲がっていきます。この壮大な物語の運命の歯車を握る女性!
でも王次の叔母というポジションはさすがに無理があるような(笑)だって浦井健治の叔母が唯月ふうかですよ。まあ演劇の世界なので多少の無茶はよしとしよう!
圧巻のラストシーン
高橋一生演じる佐渡の三世次と唯月ふうか演じるおさちのラストシーン、これめちゃくちゃ圧巻です。観た人はわかると思いますが、ラストシーンのとある舞台セットと演出がスゴいです。観劇していて鳥肌が立ったのは久しぶり。
4時間弱にも及ぶ物語は全てこの瞬間のためにあったのか!とハっとするとき、感動にも身震いにも似た衝撃が走り抜けます。ここの演出ホントにカッコいい。
このシーンを観るためだけにリピート観劇しようかなあ・・・と考えてしまうほどです。観に行こうか迷っている人には、ぜひ観て欲しい!と思ってしまう圧倒的なシーン。
情事シーンが苦手な人は注意かも?
たいした話ではないですが、全編に渡って男女の情事シーンがものすごく多いです。情事の比喩や演出ではなく、かなりモロです。最初から最後までとにかく男女がおっぱじめます。
時代劇モノには付き物ですし、そもそもお芝居なので別に気になるほどでもありませんが・・・「そういうの苦手よ」という人はちょっとキツいかもしれません。
色々と感想を書きましたが、実は一番の驚きは悲しいかな本編ではないのです。
というのも、なんと今回Blu-ray化が決定しました。
東宝演劇部初?まさかのBlu-ray化
なんと今作、東宝演劇部初のBlu-ray化が発表されました。東宝演劇部さん初のBlu-ray化です。本公演そっちのけでBlu-ray化が気になってしょうがない。
嬉しい!間違いなく嬉しい!でも天保のひとつ前の公演ラインナップで合った1月の『フランケンシュタイン』がギリギリ間に合わなかったのが悔しすぎる。高画質でフランケンが見たかった・・・
しかし、東宝さんが今後の作品ラインナップをBlu-rayの美しい画質で映像として残してくれることがほぼ決定したも同然。喜ばしいことです。いやーありがたい。
ちなみに気になるお値段ですが、
● DVD:9,900円
● Blu-ray:11,000円
これまで東宝さんで発売されてきたミュージカルのDVDは11,000円前後でした。つまり、これまでのDVDの料金でBlu-ray版が購入できるということです。これめちゃくちゃ良心的じゃないですか?
個人的には、DVDはこれまで通り11,000円、Blu-rayは13,000円とかでも全然良かったと思います。東宝さん太っ腹。
なぜ天保からBlu-ray化されたのか
なぜ今作からBlu-ray化が始まったんでしょうか?単純にこれまでのBlu-ray化の要望を実現できるタイミングだったから?
実際の事情は観劇ファンにはわからない範囲ですが、もしかして高橋一生主演でBlu-rayでも確実に一定枚数が売れると見通しが立ったからでしょうか。
たしかに高橋さんはめちゃくちゃ売れっ子俳優です。実際に観劇した一生ファンの方は「高画質で何度も見たい!」と思ってBlu-rayを買うでしょうし、劇場に足を運ぶことのできなかった全国の一生ファンも「せめて映像で見たい」と、購入するでしょう。
しかし一方で、
もし仮に、”Blu-rayでも一定枚数売れる見通しが立つ役者がいる公演だからBlu-ray化に踏み切った”ということが本当だった場合、今後全ての作品がBlu-ray化されるとは限らないわけです。
となると、今後の映像化のパターンは3つになりますよね。
①そもそも映像化されない
②DVDだけで映像化
③DVD/Blu-rayで映像化
①は作品や役者の人気に関わらず版権の問題で映像化できない作品もあるのでいったん置いておきますが、問題は②です。②のパターンが今後発生した場合、「天保はBlu-rayになったのになんで今回はDVDだけなの?」という議論が絶対に起こります。
良い悪いは別として、②のパターンになってしまった作品が好きな観劇ファンにとってはなかなか辛いものがあるだろうなぁ、と思います。
なんにせよ、Blu-ray化できるようになったこと自体とても喜ばしいことです。技術として実現できるのかはわからないですが、これまでDVDで発売された作品もBlu-rayリマスター版として発売してくれたらもっと嬉しいなあ。
【補足】川上さん版も唐沢さん版もDVD化されているようです。