イノサン

舞台『イノサン』初日感想 │ 原作ファンにはがっかり説教ミュージカルにしか見えない

2019年11月29日

 

イノサンミュージカル 2019年公演感想です

 

漫画『イノサン』ミュージカル化

 

『イノサン』はもともと漫画原作の作品です。

筆者は原作漫画の大ファンかつ、ミュージカルも大好き。つまり、好き×好きの超期待ミュージカルでした。  

 

『イノサン』という作品は18世紀のフランスのお話です。当時の時代背景や人々の価値観をざっくりとでも知っておくと、ミュージカルもさらに面白くなるはずです。

その辺の話は以前まとめているので、ぜひご参照ください。

 

 

HARI
さあ待ちに待った初日公演です!

 

劇場はヒューリックホール東京

劇場は有楽町駅から徒歩3分ほどのヒューリックホール。

近くに帝国劇場や日生劇場があるエリアなので、普段から日比谷界隈でうろうろしている人ならピンとくる場所のはず。  

   

 

初日公演の感想

ハッキリ言ってかなりガッカリだった・・・

ここからはかなり辛口になるので、ご注意ください。  

 

舞台は高校?謎の追加演出

まず原作との大きな違いは、イノサンの物語は現代社会の高校生たちの歴史の授業から始まるということ。学生たちはまるで刑務所のような現実離れした厳しい環境の中、学んでいる様子。  

そして、ミュージカルのラストも学校のシーンに戻ります。ここのシーンがかなり違和感があった・・・

 

マリーの生まれ変わりのようなヤンキー女子高生が「お前らの人生それでいいのか!?自分の人生は自分で決めろ!」と教師たちの言いなりになっている生徒たち、そして観客に向かって強く叫ぶ。

それを見た学生たちも奮い立ち、自分の人生の主役は自分だ!と一列に並んで叫んで終了。舞台背景には満員電車や国会などの現代社会の映像が流れています。  

 

この終わり方、本当に意味が分からなかった。  

別に、原作にないシーンや演出を追加することそれ自体はなんの問題もないんです。舞台化やメディアミックスの醍醐味の一つであると思うから。  

ただ、こんな説教臭いシーンは観たくなかった。古臭い学生ヤンキー漫画でもないようなクサい演出。

 

先公どもの言うことなんか聞くな!って叫んでいたけど、先生たち、何も間違ったこと言ってなかった。たしかに厳しすぎる感じではあったけども。

 

作品に強いメッセージ性があることはいいんです。問題なのは、あまりにも押しつけがましく、表現と言葉がストレート過ぎること。

作品を通して社会や観客に伝えたいメッセージって、本来はお話の中の人物たちの生き様や信念を通じて、観客側から自ら受け取りにいくものでは?

豪速球でボール投げられたような気分になりました。受け止めきれないし、受け止めたいと思わない。

 

しかも現代学園シーンで終演するのでカーテンコールのキャストは全員制服姿です。なんじゃそら・・・

 

   

 

ミュージカルではなく漫画ダイジェスト版

そして、肝心の本編はというと、現在も連載中の原作漫画のダイジェストのような構成でした。  

原作愛読者としては次から次へと「おぉ、あそこの場面か!」とピンとくるシーンの連続だったので、飽きはしなかったものの、なにせ物語に一貫性が全くない。

一体何の話だったのか、何を伝えたい作品なのか全然よくわからないまま終わってしまった。

 

 シャルルとマリーのダブル主人公のような構成だったせいか、シャルルの精神的成長もマリーの心情の変化も、どちらも繊細に描いている時間がない。

そのせいか、ミュージカルにおいて最も重要とも言える主人公の心情の変化がほとんど伝わってこなかった。  

 

あれじゃあ何故シャルルが処刑人として目覚めたのかもよくわからないよ。情けなかった半人前のシャルルが一流の処刑人として成長していく過程を描いた作品なのに。  

そのため、原作の「シャルル=アンリ・サンソンの物語」ではなく、フランス革命期を生きた若者たちの群像劇という印象でした。  

 

 

全員の物語をダイジェスト風に全て描くのではなくて、例えば

 

・マリーとシャルル兄弟の対立と絆の物語

・アランとの関係に沿ったマリー目線の物語

・一流の処刑人になるシャルルの精神的成長

・歴史的史実である死刑囚奪還事件の全貌

 

こんな感じで、何か1つ大きな主題を立てて、それに沿って展開してほしかったかなぁ。

 

 

ただのヤンキー女だったマリー

何よりも残念だったのは、マリーがまるで不良のヤンキー女のような描かれ方だったこと。

たしかにマリーというキャラクターそのものは相当イカれ狂っている設定とはいえ、それでも「マリー、かっけぇ・・・!」と惚れ惚れしてしまうのが原作のマリー。  

今回のミュージカルのマリーはなんだかただの不良みたいだった・・・  

 

これは中島さんが悪いと言っているわけではなく、単純に3次元化するのが極めて難しいキャラクターだったのだと思う。

男以上に汚い言葉づかい、男勝りの腕力と剣術、それでもなお見るものを魅了する美しすぎる容姿。冷静に考えると極めて現実離れした2次元キャラクターですよね。

というか、漫画のなかですらちょっと浮いてるし。

 

だから、3次元化されたマリーが「てめぇ!」「オラァ!!」とか叫んでるのを見ると、なんか違うんだよなぁ・・・と少し冷めた気分になってしまった。  

 

ちなみにさっき中島さんは悪くないと言ったけど、お芝居の面では正直もう少しなんとかならなかったのか・・・という印象でした。  

 

え?そこで終わる?

原作の漫画はまだ未完結です。そのため、ミュージカルにおける物語のクライマックスはどこになるのだろう?と期待していました。

シャルルの物語はルイ16世の処刑で終わります。原作でいうとイノサンルージュの9巻ですね。  

 

とはいえ、ミュージカルとしてのクライマックスはこのシーンではありませんでした。どこかというと、民衆がオリビエを処刑台から奪還すること。たしかに原作でもめちゃくちゃ盛り上がる面白いシーンです。

貴族の味方でも平民の味方でもない自由人であったマリーが初めて民衆の力と情熱を思い知るシーン。これまで見せたことのないような穏やかで柔らかな表情をするコマが印象的です。

 

でもあのシーンって、たった数十秒を何十枚も何百枚も使ってドラマチックに描いてあるんですよ。処刑台という国王の権力の象徴に初めて平民が反旗を翻した実在の歴史的事件なんです。  

 

それを、あんな感じで旗とちょこんと刺すだけなんて。運動会じゃあるまいし。  

 

キャストのファンなら楽しめる

ツッコミどころが多すぎてもう書き切れません。  

 

でも特定の好きなキャストがいるなら楽しめると思います。

客席をふんだんに使った演出が多いですし、一人一人必ず見せ場があります。  

 

本当にパリでやるの?

これホントにパリでやるの?今からでもいいからやめたほうがいいんじゃ・・・

いや、筆者が原作のファンだからギャップが多かったのかもしれない。原作を知らない初見の人なら楽しめたのかもしれない。  

 

原作原作ってうるせぇ!ミュージカルとして楽しめればいいんじゃ!という意見もあると思います。

たしかにそれは間違いないです。でも、ミュージカルとしてもひどかったです。    

 

 

とはいえ原作イノサンの素晴らしさには変わりありません。今回のミュージカルとは別次元の面白さです。1巻だけでもいいから読んでみて欲しい!

 

中島美嘉さん歌唱のミュージカル主題歌がCD化されます。この曲普通にカッコよかっただけにもったいない。

 

 

 

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