花總まり エリザベート 観劇レポ

【エリザベート2019感想】 花總まりの真骨頂は2幕である

2019年6月30日

 

2019年公演 帝国劇場

 

ウィーンミュージカルの金字塔『エリザベート』

言わずと知れたオーストリア皇后エリザベートの数奇な生涯を美しい世界観と音楽で紡ぐ作品。

2019年公演も何度か観劇し、相変わらず物凄い作品だとしみじみ感じています。

ただ、筆者自身は正直に言うとエリザベートはそこまで思い入れのある好きな作品というわけではないです。

もちろん、音楽・ストーリー・舞台セット・演出、そのすべてにおいて減点のしようのない完璧な作品であることには間違いなし。

それは今回の2019年公演でも感じましたが、とくに言及せざるをえない進化があった。

それが、花總まりの2幕の魅力

 



 

花總まりの「枯れ力」

『エリザベート』はざっくりと1幕と2幕を分類すると、1幕は天真爛漫な少女から圧倒的な美とオーラを放つ皇后に変貌を遂げる話。2幕は年齢とともに美貌も精神も枯れていく話。

そして『エリザベート』は皇后エリザベートの生涯という側面だけでなく、ハプスブルク帝国の滅亡という大きなテーマがある。

2019年公演を観て思った。この作品、1幕より2幕がめちゃくちゃ重要だ。2幕の皇后の芝居で作品の方向性が大きく変わってくる。

 

沈みゆく帝国とともに沈みそうになった皇后が、最後は自分の心だけは自分だけのものであることを体現するかのように、ただひとり羽根が生えたように飛びたち自由になる。

だから、彼女の窮屈な生涯からの旅立ちとも言えるこのラストシーンがことさら際立つためには、このシーンまで皇后エリザベートの暗い人生が帝国の終焉とともに沈んでいくかのように見えることが超重要なんだ。

皇后が「あーし、帝国が滅亡しようが関係ないし」みたいな渋谷のギャルみたいな女だったら台無し。

 

花總さんの2幕の皇后は、沈みゆく帝国という足枷に捕われて引きづりこまれそうになっている芝居が凄まじかった。

そして、2幕で心も体も枯れ果てていく芝居が堂に入っている。年々と老い芝居のキレが尋常ないほど増している。これは他の女優じゃなかかなか表現できないな。枯れ力みたいなものがすごいね!

1つの作品の中で満開に咲き誇る花のような姿から枯れる寸前の姿まで表現できるのは、何年間にわたってエリザベート役を務めてきたことももちろんあるだろうし、何よりもご本人が年齢を重ねてさらに磨きがかかってきたのかな。

2019年公演の2幕の花總さんの皇后の姿から、『エリザベート』は決して黄泉の帝王とプリンセスの少女漫画のようなキラキラした作品ではなく、終焉・滅亡の作品であることが改めてビシビシ伝わってきた。

 

エリザベートは悲劇のヒロインなんだろうか

突然だけど『エリザベート』ってホント難しくて繊細な作品だと思う。

皇后を演じる女優によって作品の印象が随分変わる作品だなと改めて思った。

 

というのも、エリザベート皇后って冷静に考えたら結構ひどい皇后なんだ。いや、結構どころじゃないかも。

皇后の務めからも、母の務めからも全てを放棄してヨーロッパ中をあてもなく旅する生活。何かの役割を背負うことから逃げ出しつづけた人生。

派遣社員なら許されるかもしれないけど、一国の皇后ともなるとさすがに許されない。だから皇后を演じる女優によっては正直、「なーに、悲劇のヒロインぶってんだ」と思われてしまいかねないこともある。

それを、「可哀想・・・大変だったね(号泣)」ってさせる悲劇力っていうのかな。そういう力がめちゃくちゃ重要だ。

でも観客の同情を誘うのって難しい。

皇后がただの悲劇のヒロインとして見えてしまったら、なんだか自分勝手な人の生涯だったな。と思っちゃうよ。悲壮なんだけど、それでもなお観客を圧倒する力強さが大事だね!

 

不思議なことに花總さんの皇后はこれでもかってくらい可哀想で悲劇的なのに、それでもめげずに力強く人生を生きていく姿に感動させられる。

『エリザベート』は決して死に魅了されるだけの物語ではなく、最後の瞬間まで必死に生き抜いたうえで死と結ばれるということがよく伝わってくる。

これはもう花總さんの生まれ持ったものなんじゃないかな。普通の女優には備わってなし、多少の努力じゃ絶対備わらないよ。

悲壮さと力強さと美しさの3つが完璧なバランスだから花總さんの皇后はこうも魅力的なんだろうか。

 



 

チラ見えする傲慢さが最大の魅力かもしれない

花總さんの皇后像が他の女優の芝居とは一味ちがうと思ったのがもうひとつある。

花總さんの皇后は、なんというか、絶妙なさじ加減で傲慢さがチラ見えするのがなんとも魅力的だった。脳が認知するかしないの絶妙なチラ見え加減。

 

自慢の美貌で周囲の人物を思うがままに動かす。

家族をかえりみずに気の向くままに年がら年中旅して暮らす。

「誰ひとりとして私を思い通りになんてさせないのよ私は常に決める側なの」という圧倒的な君主たる豪然なオーラが素敵すぎた。

とくに精神病院のシーンなんて、皇后としての威厳に潜むエリザベート自身の高慢さが絶妙にチラリ。

 

悲劇的で孤独な美貌の皇后なんだけど、決して聖女とは言えない人間味のある姿。近寄りがたいようで、親近感のあるようで。でもやっぱり神秘的で。

浮世離れした美しさにチラっと見え隠れするエゴが、もうなんともいえない花總さんの魅力だね!

 

シシィと井上芳雄トート

花總さんについて色々書いてきましたが、二人のトートについても触れます。

 

井上さんと古川さんのトート像として筆者が思う一番の差は人間味の有る無し。

外見だけでいえば古川さんのほうが圧倒的に人間離れしているんだけど、歌唱と芝居が加わればそうとも言えなくなるのがミュージカルの面白いところ。

井上さんのトートの凄いところは、芝居や歌唱はあれほど激熱な熱量なのに、人なるざる「死」の役として体温や質量をほとんど感じないような錯覚に観客を陥れるところだと思う。

例え熱唱していても手を触ったら驚くほどひんやりとしていそうだし、体格はがっしりとしているのに突然ふわっと浮き出しそうな浮遊感すら感じる。

そのせいか井上さんのトートによる『エリザベート』は謎多き美貌の皇后と人ならざる異形の存在の愛を描いた作品として、これ以上ないほど完璧なミステリアスが成立しているんですよね。

『エリザベート』という作品の魅力のひとつは(いい意味で)なんだか少し居心地の悪い浮遊感とか不思議な心地に陥るところだと思うんです。どこか異世界に迷い込んでしまったような不安こそこの作品の魅力。

井上さんのトートはこれを見事に再現しているんですよね。

 

シシィと古川雄大トート

一方、古川さんのトートです。

あくまで個人的な感想ではありますが、古川さんのトートはすごく人間らしい。人間味のあるトートだ。

いや、正確に言うと冷徹な黄泉の帝王がただの人間に恋をしたという物語の始まり方が最高に輝くトートだと思います。こうも麗しい人間離れしたルックスから繰り出される人間味溢れる「死」・・・素敵じゃないですか!

井上さん含めてこれまでのトートのシシィに対するアタック(?)は本当にシシィを愛しているのかちょっと疑うような姿勢でしたが、古川さんのトートは本当にシシィが愛おしくてしょうがない存在なんだということがビシビシ伝わってくる。

もちろん『エリザベート』は”ラブストーリー”と一言で形容できるような作品ではないけれども、こういう心がじんわり暖かくなるような『エリザベート』もあっていいよねと思ってしまった。

 

今風に表現すると「ヤンデレ」なんて言うんでしょうか。古川さんのトートはちょっと執着の度合いが怖いですよね。

井上さんのトートって手に入りそうで中々手に入らないシシィとの攻防すら楽しんでいるように見えます。だって最後には俺の腕の中に落ちてくることは決まっているんだもの、という自信ゆえ。

一方古川さんのトートは、いつになったら振り向いてくれるの?という本気の本気の執念を感じます。シシィからすれば怖くて仕方ないと思う(笑

 

シシィとの攻防を楽しむ井上トートと攻防に苦しむ古川トート。

どっちもいいですよね。でも筆者はどちらかというと前者のほうが好きかな。

 

このまま滅亡の物語を楽しみたい

2015年公演

2019年公演

 

最後にまとめ。

キラキラ少女漫画になるか帝国の滅亡の物語になるか。この2択も皇后役の女優によって大きく印象が変わる。そして、皇后と「死」の愛の形も二人のトート像によって大きく変わります。

そして帝国劇場の『エリザベート』用の装飾を見てもわかるとおり、年々シックで薄暗いイメージカラーになってきている。

筆者は正直、この作品の少女漫画っぽさがどうも少し苦手だったんですが、帝国の終焉という要素が強くなってきた『エリザベート』は大歓迎。

このまま滅亡の物語としてさらに進化してほしい。と、強く思うのです。

 

 

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1998年宝塚公演の『エリザベート』は実はBlu-ray化されているので、より美しく楽しめます。

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