組曲虐殺 井上芳雄 観劇レポ

2019年『組曲虐殺』感想!ミュージカルでは見られない井上芳雄の魅力

2019年10月16日

 

 

井上芳雄さん主演の『組曲虐殺』を観てきました。

観劇レポです。

 

作品概要

『組曲虐殺』とは、2010年に亡くなった作家井上ひさしによる音楽劇。

 

”音楽劇”とは、ミュージカルとストレートプレイの中間のようなつくりの作品。

派手なダンスや歌唱はないけれども、少しばかり歌と動きがあります。

 

『組曲虐殺』の場合は、地のセリフと歌の割合は8:2くらいかな?ほぼストレートプレイという印象でした。

 

キャストと劇場

キャスト&製作

製作:

作:井上ひさし
演出:栗山民也
主催:こまつ座/ホリプロ

出演:

井上芳雄
上白石萌音
神野三鈴
土屋佑壱
山本龍二
高畑淳子

音楽:

ピアニスト:小曽根真

 

作は2010年に亡くなられた日本を代表する作家の井上ひさしさん。

 

井上ひさしさんの言葉

 

入り口で名言ステッカー貰いました。名言すぎる・・・!

 

本作の音楽は小曽根真(おぞねまこと)さんによるピアノひとつのみ!

ちなみに、ふじ子役の神野三鈴さんの旦那様です。

 

劇場

劇場は、天王洲アイル駅直結の銀河劇場。

え?ホントにここに劇場あるの?というオシャレな商業建物の中にひっそり潜んでいます。

 

 

遠目からでもわかる祝い花の行列。

 

 

美川憲一さん、谷原章介さんなど、著名人からも多数届いているようでした。

 

 

上演時間は休憩ありの3時間15分。

 

18:30開始の回だったので、劇場を出れるのはほぼ22時近かったです。

 

HARI
ストプレ寄りなので体感時間は4時間程でした

 



 

感想!

必見!井上芳雄の芝居

東京@銀河劇場公演は10月27日まで!

 

『組曲虐殺』という作品自体の魅力の前に、井上芳雄という役者の魅力と底力にとにかく脱帽。

 

実は、井上芳雄さんのストレートプレイ寄りの芝居は初めて観ました。

 

井上さんと言えば、情緒たっぷりの歌唱・観るものを魅了する所作・スターとしての存在感、、、などなど、ミュージカル俳優が持つべきスキルをまんべんなく備えた、”THEミュージカル俳優”

どこか異世界の、どこかキラキラした世界。そんなところで長いマントを華麗にばっさばっささせているイメージがどうしても強かった。

 

ですので、正直『組曲虐殺』を観る前まではあまりピンとこなかった。だって、なんだか地に足のついた渋い作品に思えたから。

魅力を飼い殺しにしているのでは?なんてことすらちょっと考えていた。

 

28歳の小林多喜二/wikipediaより

 

ふたを開けてみれば、なんとまぁ魅力的か。

小林多喜二。日本を代表する文豪といえど、普通の人間で普通の若者。

これまで井上さんが演じてきたような代表役とは全く性質が違うのに。20世紀初頭の若者をここまで自然に、生き生きと、しかし妖艶に表現していた。

 

つい先日まで黄泉の帝王の役をやっていたんなんて全く想像もできない。

普段は満天のオーケストラに囲まれて絶唱しているのに、今作はピアノ一本。一つ一つの言葉に喜怒哀楽や魂を込めるように歌う姿がなんだか物珍しくて、ついついジーーッと見入ってしまった。

 

「普通の人間」力

私は『組曲虐殺』の井上さんの普通の人間らしさがものすごく好きです。

 

改めて考えてみると、舞台やミュージカルにおいて最も難易度の高い役って「普通の人間」だと思う。

大げさな動きや表情をすると違和感があるし、かと言って本当の一般人のように振る舞うと舞台作品として成り立たなくなるし。

だから、普通っぽい動作を普通にやらないテクニックが必要なんじゃないかなと思っています。

 

井上さん演じる多喜二は、所作・表情・話し方、そのどれをとっても普通の若者で、普通の人間。

それでも、小林多喜二として真面目で素直で優しい(時にセクシー)魅力的な人間として観客の目に映る。

 

「井上芳雄って、どんだけオールラウンダーなの?」

と、井上さんの表現力の広さを改めて実感する作品だと思います。

 

言論統制のとの闘いを描いた日々

さて、井上芳雄さんキャー素敵!なんて思っているのもつかの間。

物語の主題はプロレタリア作家として言論統制と戦った小林多喜二の鮮烈な人生です。

 

政府にとって都合の悪い文章は、検閲を経たのち黒塗りされて出版されていた時代です。

労働者の就業環境向上のために筆を執る多喜二。次第に政府や警察の弾圧が増していきますが、多喜二は己の信念の曲げずに隠れ家を転々としながらも執筆活動を続けていきます。

しかし、最期には逮捕され、3時間におよぶ拷問の末の弱冠29歳での死。タイトルの『組曲虐殺』とはまさにこの多喜二の最期を表現しているものです。

 

プロレタリア文学とは

1920年代~1930年代に盛んとなった、労働者の厳しく貧しい生活や労働を描いた作品。小林多喜二の『蟹工船』はプロレタリア文学の最高傑作との声もあるほど。

ちなみに最近、「時代は変われど現代のフリーターだって『蟹工船』の漁夫たちと何も変わらないだろう」とちょっと話題になっていました。・・・そう?

 

【参考】松田龍平主演の2009年映画版

 



 

カタカタ回る 胸の映写機

”カタカタ回る 胸の映写機”という、物語のキーになる歌詞があります。

 

かけがえのない瞬間、その素晴らしい時を刻もうとして胸の中にある映写機が自然と回る。

多喜二は、彼を取り巻く仲間たちが何気ない暖かな日常を過ごしているシーンを見て、この歌詞を呟きます。

 

金ローおじさんが操作してるやつが映写機

 

金曜ロードショーのオープニングでおじさんが操作していますが、この時の音はまさに「カタカタ」としています。

 

『組曲虐殺』の曲中の歌詞「カタカタ回る旨の映写機」は、ちょっとぎこちない感じの、でもそれがなんだか愛おしいような、そんな映写機が奏でる独特のカタカタなんですよね。

一口に「カタカタ」と言っても、地震による振動のカタカタでもなければ、エアコンの不快なカタカタでもない。それが役者の歌い方によってしっかり伝わってくるのが本当によかった。

 

 

ミュージカルや舞台のファンは、観劇中にこの胸の映写機が回っているときがあると思う。

 

ものすごく素晴らしい作品や歌唱を観たときに、

「この感動や心の高鳴りを忘れたくない。保存して、いつでもまた味わえるようにできたらなぁ」

なんて思うことがあります。

 

これってまさに胸の映写機がカタカタ回っている瞬間なんだなと、ふと思った。

 

井上さんって、舞台に熱心に足を運ぶ観客たちのこの気持ちを本当に理解してくれている方だと常々思います。

役者にとっては何十・何百ある公演でも、観客にとってはその日だけかもしれない。もしかしたらこの日を最後に入院してしまうかもしれないし、遠い外国で暮らすのかもしれない。

 

多くの役者が1公演1公演本気で挑んでいるとお話しているし、実際そうだと思う。

でも井上さんほど、観劇ファンにとって観劇というものが単なる趣味ではないことを本当に理解してくれている役者はいないと自信を持って言える!

そういった姿勢がパフォーマンスから滲み出ているところも大きな魅力のひとつなんだろうな、と再認識しました。

 

多喜二をとり巻く愛くるしい仲間たち

この作品のキャストは6名。井上さん演じる多喜二を取り巻く5人の人間たち。

彼ら彼女らが本当に人間臭くて好き。全く気取らない、いい意味で全然かっこよくない人たち。

 

確実に楽ではないはずの厳しい毎日を過ごしているのに、それでも明るくチャーミングな人生を送ろうとあがく姿が可愛くすら見えてくる。

多喜二という人間がこうも魅力的な人物として映るのは、彼の周りの人間たちによるところも大きいんだろうなぁ。

 

とくに、高畑淳子さんと神野三鈴さんが素晴らしかった。

高畑さんってバラエティで拝見する機会がどうしても多かったので、舞台女優としての迫力と存在感に圧倒されました。

”明るく優しい多喜二像”をつくっていたのは、実は多喜二本人ではなく高畑さん演じるチマではと思います。

 

神野三鈴さんはドラマで見たことあるかな・・・?くらいの認識だったのですが、これまた凄まじい舞台女優。

『組曲虐殺』ってある意味、神野さん演じる伊藤ふじ子の闘いの物語だったのでは?とも思えるほど。

 

最初は”ちょっと変わった面白い人”くらいの印象であったふじ子が、物語が進むにつれて誰よりも熱く激しい信念の持ち主であることがわかってくる。

信念のある女性は、古今東西ありとあらゆる作品に登場します。しかし、信念に錆びた鉄が入り混じったような、じっとりとした少し不気味な魅力をある人物はふじ子が初めて。

「あの作品のあの人みたい」と言えない、なんだか不思議な役柄でした。

 

こうして考えてみると、『組曲虐殺』の多喜二の魅力って多喜二本人によるところももちろんあるけど、一番はもしかすると多喜二の周りの人たちが形成しているのかもしれない。

 

多喜二の人生の描写

シーンの転換が少ない作品なので、ひとつの場面や出来事に20分も30分も使っています。

その間、登場人物たちはほとんど喋りっぱなし。一人静寂に包まれることなんてない実際はほとんどない私たちの現実世界と同じ。

 

そのせいか、ずーーーっと観ていると、タイムスリップして20世紀の日常を覗き見ているような錯覚に陥るんですよね。

余計な装飾のない、まるで日常を切り取ったミニチュアのようなリアルさ。

 

しかもこの作品のスゴいところって、実在の人物を扱った作品なのに実際に起きたセンセーショナルな事件の描写はほとんどないこと。

あくまで多喜二の日常の連続で作品が進んでいきます。

 

普通、伝記作品ってここぞとばかりに実際の事件を描いたシーンがあるじゃないですか!

マリー・アントワネットが主役の作品だったら、首飾り事件・ヴァレンヌ逃亡事件・ギロチンによる処刑などなど、彼女の人生の目玉と言える出来事が必ず登場する。

 

小林多喜二といえば29歳という若さで3時間にも及ぶ拷問による死であることは有名ですが、このシーンはない。あくまで後日談として最後に語られるだけ。

これ、ちょっと驚きました。絶対にあると思っていたので。

 

派手な事件やターニングポイントをあえて描写せず、日常の描写のみで文豪の人生を描く。

中学の美術の時間に「肌色を使わずに肌を表現する」という課題があり、クラスの皆でウーンと唸ったことを思い出しました。まさにそんな感じです。

 

『組曲虐殺』を観れるのは12月1日まで!

HARI
まとめ!

 

東京公演は10月27日まで、そのあと福岡、松本、大阪、富山、名古屋と全国を回ります。

 

グランドミュージカルのような派手さはないですし、正直なところ観ていて心が飛び上がるようなシーンもないです。

が、普段ミュージカルで活躍する井上芳雄さんを知っている人にはもちろん観てほしいし、言論統制と戦った人たちの歴史モノとしても一人でも多くの人が見れるといいなぁと思います。

 

余談ですが、天王洲の銀河劇場は一階席をぜひおすすめします。

たしか、2階、3階はへたすると前の人の頭で舞台の8割方見えないことがあります。。。

 

 

過去公演はDVDになっています。劇場の物販でも売っているけどたぶんAmazonのほうが安い。なんと石原さとみさん出演してます。

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ポニーキャニオン

 

「ミュージカル俳優」という特異な職業や、ファンとの接し方について語ったインタビュー本。結構読み応えあります。

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