コロナ騒動で演劇界はバタバタしてますが『サンセット大通り』はなんとか上演されました。
できる限り万全の対策で観劇してきたので、感想を書きます。
徹底した感染対策の中での上演
本来は3月14日(土)が初日公演でしたが、コロナ騒動の影響で1週間ほど公演中止となり、3月20日(金)にようやく初日を迎えました。
決死の上演となったため、入場から退場まで劇場内ではとにかく徹底した感染対策が実行されていました。
まず入場の際にサーモグラフィーでの体温検査が一人一人確実に行われます。高体温の観客はそもそも劇場に入場できません。
筆者が見る限りは入場を拒否されている人はいませんでしたが、一定の体温以上のお客さんは容赦なく追い返すような厳格な緊張感がありましたね。
物販は前後のお客さんと必ず1mほど距離を開けなければいけません。詰めてしまうとスタッフの方がやってきて「距離を開けてください」と声かけされます。
また、ロビーでの私語は最小限に抑えるようにお願いされます。大きな声で盛り上がっちゃってる数名のグループがいましたが、スタッフさんに注意されていましたね。
厳戒態勢は劇場サイドのみでなく、観客も細心の注意を払っていたように見えます。マスクの装着率は9割ほど。ノーマスクだとかなり浮きます。
また、お手洗いでは手洗い場がいつもよりも少し混雑していました。何度も入念に手を洗っている人も多かったのだと思います。
しかし客入りに関しては正直かなり厳しい現実をみました。
日曜とは思えないほど空席が目立ちました。たった2,3人しか座っていない列も多かったです。
そんなこんなの中での上演でしたが、公演自体は素晴らしい完成度でした。
濱田めぐみ×平方元基の公演
筆者が観た回は濱田めぐみ×平方元基さんの公演でした。安蘭けいさんの回も観劇予定でしたが、中止期間に被ってしまい断念。
『サンセット大通り』は世界的に超有名な映画です。映画が元ネタのミュージカル。BLVD.とは「●●通り」を意味するBoulevardの略です。
ちなみにトランプ大統領はこの映画が大好きみたいです。
やっぱり濱田めぐみはスゴい
作品の脚本の巧妙さや音楽の素晴らしさ・・・などなど『サンセット大通り』には様々な良さがあります。
しかし、観劇後の感想は「やっぱり濱田めぐみはスゴい」のたった一言に集約してしまう。それほど素晴らしいパフォーマンスでした。
もうホントね、宇宙そのものみたいな女優さんですよ。永遠に膨張し続ける無限の大宇宙みたいな不思議な空間を彼女の中に感じてしまう。
まず登場から他の女優さんとは一味も二味も違うんですよね。
大女優のオーラを纏った濱田めぐみによる大女優ノーマ・デズモンド役。最強ですよ、最強。大階段を上がったり下がったりするだけで目線や仕草の全てが”女優”なんだもの。
『サンセット大通り』に限った話ではありませんが、彼女が舞台上に現れて言葉を発すると、劇場の空気が一変するような感覚になります。
一瞬ヒヤッとした冷気のようなものを感じたと思いきや、身体が少しだけ熱くなる。寒いとも暑いとも言えないような、不思議な感覚というか。
どこまでもノーマありきの作品
そして、『サンセット大通り』はやはりノーマ・デズモンドという存在ありきの作品だと思います。
他のパーツがどれだけ素晴らしくても、ノーマに強烈に惹かれなければ全てが台無しになってしまうような作品。
ミュージカルは総合芸術、いわば総力戦のエンタメだと思っています。
普通の作品は主演の役者さんがちょっとアレな感じだとしても、他の要素が素晴らしければ全体のクオリティとしては高水準を保ちます。
『サンセット大通り』は作品としての出来の9割がノーマにかかっていると言っても過言ではないと思います。そして、濱田めぐみのノーマは本当に素晴らしい!
ちなみにミュージカル『サンセット大通り』の日本上演の版権は劇団四季が持っていましたが、長らくノーマ役に相応しい女優が見つからなかったため版権を手放したそうです。それほどの難役ということですね。
痛々しい少女らしさが見事
濱田さん演じるノーマには怪しげな少女らしさがあります。ここが最大の魅力であると思う!
オバサンと呼ばれてしまう年齢であるにも関わらず、まるで自分は16歳のサロメを演じる資格があるのだと信じてやまないような素振りが随所に散りばめられています。
ほんの小さく甘い声を出してみたり、子供のようにはしゃいだり。
しかし、濱田さんの本当にスゴいところは「少女そのもの」に見えるように演じているのではなく、ちゃんと「少女らしさを捨てきれない痛々しい中年女性」として見えるように演じているところだと思うのです。
これって地味にスゴい技術じゃないですか?2重構造の芝居、とでも言うんでしょうか。
濱田さん演じるノーマってなんだか可愛らしいところがありますよね。でも、ただ可愛いだけじゃなくて、ズシッ・・・っと来るような痛々しさや哀れさが含まれているのが流石だなと。
50歳になったときに再演してほしい
濱田さんは2020年現在、47歳です。ノーマは50歳の設定なので、あと3年でノーマと同じ年齢を迎えます。是非そのタイミングで再演してほしい。
ノーマという役は年齢を重ねれば重ねるほど光る役だと思うのです。
ミュージカルの作品では相当レアな主役じゃないか?死ぬ間際のシーンで50歳以上になっている作品は多々ありますが、最初から最後までアラフィフ女性が主人公の作品はほとんどありません。
小娘は門前払いの、年齢を重ねた女優にしか演じられない役。ノーマ・デズモンドという役は、彼女自身だけでなくミュージカル作品の主役としても珍奇で貴重な人物なのです。
そんなノーマと現実の役者が同じ年齢になったとき、ピースがバチッとはまるような伝説的な怪演の始まりになるのでは・・・!と期待せざるを得ません。
いやむしろ、今後10年以上演じ続けて欲しいです。濱田さんのライフワークとも呼べるような役になってほしい。
まとめ
アンドリュー・ロイド=ウェバーの楽曲の素晴らしいだとか、主演を取り巻く役者陣の安定感抜群だとか、色々と言いたいことはもっとあったような・・・
でもやっぱり、思い返そうとしても最終的には濱田めぐみスゴいしか出てきません。日本のミュージカル界の宝の一人ですよね、間違いなく。
濱田めぐみさんのアルバムに「♪With one Look」と「♪ As If We Never Said Goodbye」が収録されています。音源版も良いですけどやっぱり生歌唱のド迫力のほうが好きです。
余談ですが、石丸幹二さんのアルバムに収録されている「♪Sunset Boulevard」が超オススメです。是非聴いてみてほしい。ここまで邪悪で毒気のある石丸幹二はなかなかお目にかかれませんよ。