NINE(ナイン) 観劇レポ

【感想】ミュージカル『NINE』好き嫌いがハッキリ分かれそうな作品

 

この作品は夜のほうが雰囲気でるかも

 

2020年11月赤坂ACTシアター公演『NINE』を観てきた感想です。若干辛口になってしまったので苦手な方はご注意ください。ネタバレはありません。

 

ミュージカル『NINE』とは

上演の歴史

1963年公開の『8 1/2 (はっかにぶんのいち)』という映画をミュージカル化した作品です。

ブロードウェイやロンドンなどで上演されたのち、日本でもこれまで3回ほど上演されています。2004年の日本初演では主演を中井貴一さんが務め、その後の翌年2005年版は別所哲也さん、2009年版は松岡充さんが主演となっています。

そして今回2020年版は城田優さん主演にて上演されました。

 

ざっくりあらすじ

映画監督のグイド(城田優)は次回作のクランクインが迫っているのにまだ一行も脚本を書けていない。おまけに妻のルイザ(咲妃みゆ)に離婚を切り出される始末。

妻との関係を修復しようと休暇に出かける二人。しかしグイドの愛人や映画関係者まで二人のあとを追ってきてしまう。

映画のインスピレーションも湧かず、実生活も上手くいかない。追い詰められたグイドは彼が愛する8人の女たちに救いや安らぎを求めるが…

 

え?これだけ?という感じですが、本当にこれだけです。妻や母、そして愛人や娼婦など、グイドと深い関係になった8人の女たちに現実とも空想とも言えない世界で翻弄されるストーリー。

一見すると全然中身のないの物語に見えますよね。そう、本当に中身空っぽの作品です。詳しくは後述します。

 

観劇前はメインビジュアルの印象から「重くて暗い話なのかな?」と予想していましたが、実際はそこまで暗い内容ではなかったことが少し意外でした。

決して明るい作品でもないですが、観る前に多少の覚悟がいるようなタイプの公演ではないです。

 

タイトルの「ナイン」の意味

タイトルの「ナイン」は主人公グイドになにかと関係する9という数字のこと。

グイドの母の9番目の子供であり、わずか9か月で生まれた赤子であった。そして9歳のときに衝撃的な体験をし、大人になった今現在9作目の映画製作に行き詰っている。

ただし、今作の肝となる彼の周囲を取り巻く女性たちは8人です。なぜもう一人足して9人にしなかったのか個人的な疑問です。

 

公演の感想

斬新な演出と世界観を楽しむ作品

今回の演出を手掛けるのは気鋭の演出家・藤田俊太郎さん。最近では『ジャージー・ボーイズ』『VIOLET』『天保十二年のシェイクスピア』などを演出しています。

今作は藤田ワールド炸裂とでも言うんでしょうか。現実と空想の世界の狭間を彷徨うグイドの視点から幻想的な世界観で物語が進みます。

それぞれ別の魅力を持った魅惑的な女たちと、彼女らを想うグイドの頭の中を具現化したような浮遊感が特徴的。

 

一方で、ストーリーに期待すると拍子抜けします。作中でグイドの撮った映画が「映像美は圧倒的だが中身がない。プロットの強化が必要」と評されるシーンがありますが、ミュージカルもまさにこの言葉の通り。

グイドの行動は全てにおいてツッコミどころ満載で、ストーリーとしての整合性や起承転結はあまり求めないほうがいいかも。

でも実はストーリーに関する大雑把さは観ていてさほど気になりません。他の作品では見られないような斬新な演出と美しさを堪能する公演なのだと思います。

まあミュージカルってどれだけ名作でも「で、結局なんだったんだ?」ってなっちゃう作品多いですかね。それでも圧倒的な総合芸術に惚れ惚れして満足できるところがミュージカルの魅力でもあります。

今作は特にその側面が強く、ミュージカルというよりも一つの芸術作品という表現のほうがしっくりくるかな。

 

日本語で聴きたかった歌唱パート

今作は英語歌唱のナンバーが約半分を占めます。舞台の上のほうに字幕が表示されるので英語が聴き取れなくても大丈夫。

もちろん英語の楽曲やメロディも好きなのですが、日本制作の作品はやはり日本語で歌ってほしいかな、と正直思ってしまった。本場の言葉は来日公演でたっぷり味わうことができますから。

例えば、その言語でしか表現できない韻踏みや言葉遊びがふんだんに取り入れられているようなナンバーの場合は原語でもいいんです。その味を活かしたまま翻訳することはなかなか難しいはずなので。

ただ今回のようなメロディアスでゆったりとしたテンポの楽曲であれば日本語にして欲しかったかなあ。

ミュージカルはただ歌うだけでなく想いを歌に乗せる必要があるので、初見の曲が英語だとあまり心に響かないというか。やはり自身の母国語である日本語のほうがどうしてもグッとくるものがあるんですよね。

 

好き嫌いがハッキリ分かれそう

まずハッキリ断言できることは、大衆向けの作品ではないということ。

ストーリーに派手な起承転結や納得感を求める人にはまずオススメできません。そして先ほども書いた通り、日本語で歌を聴きたい人にもちょっと難しいかも。

一方で、本作が持つ独創的な世界観が刺さる人にはとことん魅力的な作品であることも間違いありません。『NINE』に似た作品を挙げるのが困難なほど個性的で際立った公演だと思います。

 

筆者は残念ながら今回はあまりピンとこなかったのですが、この手の独自の世界観の攻めた作品自体は大好きです。

100人全員が頷くミュージカルよりも、80人には刺さらずとも残りの20人が大絶賛する作品を常に求めています。今回の『NINE』もハマれさえすれば凄く興奮できる作品だったんだろうなあ。

 

まとめ

ちょっと辛口になってしまいましたが、キャストのお芝居と歌唱はさすがのレベルでしたよ。それだけでも十分満足できたので観に行ってよかったのですが、リピートはないかな・・・

考察のしがいのある意味深な演出や作品に秘められた背景をすべて理解すればもっと入り込めるのかな?

いづれにしても、何度も咀嚼して落とし込んでいくことで更なる魅力に気付ける、そんな大人な作品なのでしょう。

 

ミュージカル映画版はかなり高評価の様子です。映画版も見れば何かヒントを得られるだろうか・・・

 

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