エビータ 観劇レポ

【感想】劇団四季『エビータ』│ つまらないという噂は本当か確かめてきた

2019年8月29日

劇団四季ミュージカル『エビータ』

 

ミュージカル『エビータ』とは

実在したアルゼンチン大統領夫人エバ・ペロンの人生を描いた作品。

私生児として生まれながら、その美貌と社交力で大統領夫人にまで上り詰めた彼女の野心に満ちた33年間の生涯をリアルに描写しています。

 

実際のエバ・ペロン(1919-1952)

 

「エビータ」とは彼女の愛称で”小さなエバ”という意味。

貴族でもなく教養もない彼女であったが国民からの愛情を一心に受け、女神とまで呼ばれた。しかし聖女のような顔をした美しい彼女の中には燃え滾る野心と欲望が渦巻いている・・・!

 

2019年末まで全国ツアー中!

8月28日カルッツ川崎 (ソワレ)

 

2019年8月25日公演を皮切りに年末まで全国ツアー中です!

北海道から九州まで。ヨーロッパ中を訪問したエバそのものみたいなツアー。

 

そして、今回は浅利慶太追悼公演という位置づけでもある。

浅利慶太さんは四季の創設者の一人で、長年四季で演出家を務めた、いわばレジェンド。2018年に他界されました。

 

劇場に飾られた追悼の作品

 

そして筆者が観たのは8月28日カルッツ川崎のソワレ公演。

キャストはこんな感じです。

 

8月28日ソワレのキャスト

 

作品の存在自体は知っていましたが、実は『エビータ』は初めて観ました。事前知識ゼロに観たので、今回は超純粋な感想になります。

 

輝かしい人生を描いた作品・・・じゃなかった

 

まず何よりも驚いたのは、こんなに薄暗いミュージカルだったのかということ。

 

てっきり偉大な女性の栄光と情熱の歴史の激動の人生を描いた作品だと思っていた。いや、実際たしかにそうなんだけど。栄光の裏に隠された生々しい女性の野心を描いている。

リアルで薄暗い。まさに一人の人間の人生のリアリティを追求した作品。

 

もちろんミュージカルなので、基本的には歌とダンスを交えて楽しく進んでいきます。たしかに構成はミュージカルそのものなんだけど、なんだか小説を読んでいるような気分だった。

そして、正直言ってこの作品は後味が悪い。

 

「エビータはつまらない」という感想を聞いたことがあった。

”つまらない”とは決して思わなかったものの、心にわだかまりが残る作品であることには間違いない。

 

ミュージカルには歴史的に有名な女性たちの人生を描いた作品が多い。必ずと言っていいほどラストは天に召されるシーン。

もうひとつ共通していることは、みなそれぞれに何かしらの充実感を得ながら死んでいくこと。

 

『マリー・アントワネット』のマリー。処刑という残酷な人生の終わり方ではあったものの、最後まで王妃たる堂々とした姿を民衆に見せつけて死んでいった。

もう一人の主人公。彼女を恨んでいた平民のマルグリッドも、処刑の直前に初めてマリーに跪いた。物語の最後の最後に二人はやっと、国民を愛する王妃と君主を敬う平民という関係性を築くことができたのだ。

 

『マタ・ハリ』のマタ・ハリ。彼女もまた処刑という残酷な最期。だが、天国で愛する人の姿を見つけてホッとした表情で物語は終わる。

 

『エリザベート』の皇后エリザベート。長く辛い孤独な人生の結末は刺殺。沈む世界に別れを告げて、死に抱かれることで初めて本当の心の自由を手に入れたエリザベートを描いて物語の幕が落ちる。

 

マリーも、マタ・ハリも、エリザベートも、皆実在の人物。

『エビータ』のエバも実在の人物。だが彼女だけは異質。本当に悔しそうな表情で救いのないままに死んでいく。しかもラストは語り部のチェによる「エビータの遺骸は17年にわたって行方さえ知れなかった」というゾッとするようなセリフ。

 

まだまだやり残したことがあるという悔い。自身の体が病魔に打ち勝つことのできない怒りや苦しみ。そういった負の感情をこれでもかという程にぶちまけて死んでいくエバ。

 

エバの偽りないリアルな激情を描いているけれども、実在の女性の人生を描いたミュージカルとしては相当異例の薄暗さだと思う。『エビータ』は大統領夫人の輝かしい太く短い人生を情熱的に描いた作品だと思っていたので、いい意味で裏切られた。

 

偉大な存在は必ず聖女である必要はない

とはいえ、物語の中盤は野心家としてのエネルギー溢れるエバを描いています。

 

エバは国民の幸福を第一に考えていたのは間違いないのだろうけど、その原動力はきっと誰にも馬鹿にされない地位に就くこと。

私生児の娼婦であるという事実が彼女のコンプレックスであり、そのコンプレックスをなんとか払拭するために上へ上へ登りつめようとしていたんだと思う。だから彼女にとって大統領夫人という座は、国民のために何かをなせる役職というよりかは、貴族階級を見返すことのできる頂点だったのかもしれないなと。

 

こういったエバのどろどろとした恐ろしいほどの野心を描いているところが『エビータ』が一線を画す作品である理由のひとつなのかもしれません。まさに『聖女の顔を持つ悪女』というキャッチコピーの通りです。

 

偉大な女性ってイコール聖女じゃないんだよ、みな心の中には人間らしい野望や欲望が渦巻いているし、それで何か問題あるの?

聖女のように清く正しい心を持っていることってそんなに重要?

どんな考えがあっても人のためを思って懸命に行動してるんだから、それでいいじゃない。

 

『エビータ』という作品からは、なんだかこんな主張を感じます。「女性は聖女であるべきである。野心なんて下品なもの」という抑圧を跳ね除ける力強さがある!

 

実際のエバの映像をつかった演出

 

2幕の「虹の歴訪」というナンバーでは、ヨーロッパ中の国を巡り、国際親善に勤しむ本物のエバ・ペロンの映像が背景に映し出されます。この演出本当によかったです。みんな食い入るように映像を見ていたと思う。

 

白黒映像だし画質も荒いんだけど、まさに虹のように輝きながらヨーロッパ大陸をエネルギッシュに横断していく彼女のパワーをびしびしと感じる映像でした。

 

このシーンを見たら「あぁ、エバってこんなに強くて美しい女性だったんだ」と、ふつふつと実感が湧いてくる。

コロコロと変わる豊かな表情。上品かどうかはわからないけれど、活発でチャーミングな所作。舞台上の役者も観たいけど、実際の映像のエバから何故か目を離すことができない。

歴史の傍観者であった観客たちが次々とエバの熱烈な支援者に変わっていくような空気感で劇場が満ちるような錯覚に陥る。

 

こういう実際の映像を使う演出いいなぁ。他のミュージカル作品でも使ってほしい。

 

裏主人公?狂言回しのチェ

さて、『エビータ』の裏主人公といっても過言ではない存在のチェ。実在の革命家であるチェ・ゲバラをモデルとした人物で、ゲバラのようなベレー帽と軍服を着ています。

 

チェって裏主人公では?と思います。

狂言回しとしてエバ並にステージ上に出ずっぱりであるだけでなく、登場人物の中で最も作品を美味しく仕上げている役どころ。

 

そして、結局チェってなんだったの?ということを考えることが『エビータ』という作品の面白さの一つであると思う。チェという存在についての感想は人それぞれかと思いますが、筆者的には答えが出ています。

国を動かす革命家としてのエバの良心の具現化だったのだと思う。

 

2幕の「エビータとチェのワルツ」というナンバーで、それまで重なり合わなかった二人が初めてお互いの想いをぶつけあう。チェはエビータに「なぜ目先のことばかり考えている?100年先のアルゼンチンを考えた行動をしろよ」

そんなチェにエビータは「もし100年あったらなんでもできる。でも体はもう病魔に蝕まれているのよ」

 

このナンバーを聞いて、エビータは本心ではチェ・ゲバラのごとく100年以上先の未来を見据えた活動に注力したかったんじゃないかなと思いました。立派な君主としての理想と、自分が生きている間に功績を残して全身で賛美を浴びたいという欲望の葛藤が彼女の中に渦巻いていたんじゃないかな。

一度豪華すぎる称賛を感じてしまった彼女は「どうしても死ぬまでに認められたい、国民からの圧倒的な愛を感じたい」という欲望を抑えることができなかったのかもしれません。

 

承認欲求という感情にここまでフォーカスを当てたミュージカルってあまりないような気がします。

 

そして、こういったエバのリアルな感情を次々と引っ張り出していくのがチェという役。最近まで『エリザベート』ばっかり観ていたからかもしれませんが、チェってトートとルキーニを混ぜたような役じゃないですか?

エバの死後のシーンから物語は始まり、「彼女の人生を見せてやる」と観客に訴えかける。そして、エバのことを悪態つきつつもなんやかんやで常に陰からこっそり見守っている。

なんか可愛い役ですよね。可愛いっていう表現はあまり良くないかもしれないけど。

 

裏主人公のような存在だなぁと思った反面、チェはエバにとってどんな存在だったのかがもっと描写されていればもっといいのになぁと思ってしまった。実は心の拠り所?それともただの解説者?実況者?もしくは、エバの中に渦巻く葛藤の具現化?

他の人はどう思ったんだろう。気になる。

 

 

余談ですが、

会場の中で2,3回「このチェってキャラクター、モデルがいるらしいよ」という会話が聞こえました。え??

チェ・ゲバラって超有名人じゃないんですか・・・何をしたかはよくわからなかったとしても、あの顔写真はものすごく有名では・・・

 

ぜひ東宝版を観てみたい

劇団四季もいいけど、東宝ミュージカルファンとしては東宝版『エビータ』を観たい!

劇団四季の『エビータ』は舞台セットも衣装もちょっと地味に感じてしまいました。だから東宝版を観たい。キャストを勝手に配役してみました。

 

妄想配役!

◆エビータ
・新妻聖子
・濱田めぐみ

◆チェ
・伊礼彼方
・上原理生

◆ペロン
・川口竜也
・福井昌一

 

個人的にエビータは新妻聖子さんしかいないんじゃないかなと思っています。国民に向かっていくら微笑んでも顔に野心が滲み出ちゃってしょうがないような感じ。

濱田めぐみさんは『エビータ』の象徴的ナンバー「共にいてアルゼンチーナ」をはまめぐで聴きたいだけ。圧倒的なカリスマ性という意味でも。

 

チェについてはルックスがチェ・ゲバラっぽい熱い二人を。

ペロンは正直誰でもいいんだけど、「実は全然自信ないんだオレ・・・大統領なんて無理・・・」と、エバに言いように動かされる役柄が似合いそうな二人を(褒めてますよ!!)

 

あぁ、東宝版で観たいよ・・・

 

ちなみにワールドツアー版の映像。

エバ役の女優の歌唱力ハンパないですね!

 

まとめ

正直、もう一度今すぐ観たいか?と聞かれるとウーンという感じですが。良い意味でも悪い意味でも絶対に記憶から消えない鮮烈な作品だと思いました。

2019年12月まで全国ツアーやっているので、迷っているなら観て欲しいかな。アルゼンチンの勉強になるし!

 

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