ダンス・オブ・ヴァンパイア

山口祐一郎によるクロロック伯爵の魅力の謎 │2020年以降のTdVは一体どうなる?

2019年11月28日

 

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』2019年公演@帝国劇場

 

ミュージカル『ダンス・オブ・ヴァンパイア』2019年の帝国劇場全公演が昨日終演しました。

 

何度か劇場に足を運び、ダブルキャストと一新した豪華セットを堪能しました。

が、やはりなんといっても山口祐一郎さんによるクロロック伯爵の素晴らしさよ!

 

今作は2006年日本初演から約3年おきに再演されていますので、次回再演はおそらく2023年頃。そのころ山口さんは60台後半です。

お歳を考えると次回はダブルキャスト、いや、もしかしたら2019年公演が最後かもしれない。

 

そう考えると悲しくなったきた。

 

だから、今のうちに山口クロロック伯爵の感動を残しておこう!!と本記事を書きました。

 

まず第一にビジュアルが天下一

歌唱やお芝居はもちろんなんですが、山口さんの伯爵はやっぱりまず第一にビジュアルが最高にヴァンパイア。

 

ヴァンパイアの”ホンモノっぽさ”って、もちろん外見だけじゃなくて所作や喋り方によるところも大きいんだけど、ルックスが大前提中の大前提であるはず。

2m近い体躯、堀の深い目鼻立ち、三白眼気味の鋭いセクシーな目元。

 

2019年公演のフライヤー

 

普通こんな格好したら気合の入ったコスプレにしかならないはずですよ。一流の舞台芸術の衣装やカツラをもってしてもコスプレチックになってしまっている役者さん多い。

 

伯爵はサラとアルフレートのデュエットの後半部分で、1階席後方の扉からゆっくりと歩を進めて舞台まで歩いてきます。

伯爵が通る近く席にいると、結構ぎょっとするんですよね。なんかスゴいの来た・・・って。伯爵登場までは終始コメディっぽい作風だから。

 

伯爵が歩みを進めれば進めるほど、舞台の空気がどんどん変わっていく緊張感と期待が募っていきます・・・!

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の情景を漢字3文字で表現すると、雪・夜・城の3つだと思っています。そして、山口祐一郎さんの伯爵はこの3つがとにかく似合いすぎてる。

極寒のトランシルヴァニアの寒々とした雪がとにかく似合う。あんなに熱気あふれる舞台上にいても、全く体温がなさそうに感じるんですよね。心臓が脈打って全身に血が巡っている生命体って感じが全然しないというか。

 

ミュージカルってもちろん、生まれ持ったルックスじゃなくて歌やダンスつまりパフォーマンスによって評価されるべき。頭ではわかっているけど、いやでもルックスも重要だよなぁ・・・と思わせられてしまうよ。

まるで風すら操っているかのように華麗にるマント・・・!恐ろしく整った造形美。優雅かつスリリングな目線の動かし方。それくらいの完璧な”架空の創作物ヴァンパイア”っぷりよ!

 

興奮して派手なルビをふってしまいました。

 

 

ゆっくりと、しかししっかりと舞台に歩を進める畏怖の存在を見て、何が始まるのだろう?この物語はどう動いていくのだろう?と冷や汗にも似た期待が胸を駆け巡る。

 

 

TdVの世界観を発揮する「神は死んだ」

伯爵の一発目は「神は死んだ」というナンバー。

 

「時は遂に訪れ・・・」で始まる怪しげなウィスパーボイスで劇場中の視線と集中が一斉に高まる雰囲気感じません?伯爵の登場とこの曲から、これまでコメディテイストのドタバタ要素が強かった本作に一気に深みと影が増します。

 

近年ミュージカル人気が高まってきているとはいえ、やはり未だにミュージカルは”女性が楽しむきらびやかなもの”というイメージを抱いている人も多いはず。

そんなレッテルを真っ黒に溶かし落とすような「神は死んだ」の伯爵のオーラと威厳。これまでの面白おかしい雪山ドタバタ劇が一気に暗闇と艶に包み込まれます。

 

「ミュージカル=女子供が楽しむもの」という皮肉にも似た期待を、墨汁が浮いてくるようにゆっくりとしかし真っ黒に打ち消す存在こそ、山口祐一郎という役者だと思うのです。

 

さぁ、トランシルヴァニアは雪山コメディから一転してヴァンパイアの夜の世界へ。

 

 

ちなみにハケるときも通路を通って帰られるんだけど、登場よりも素早く歩くせいかマントを内側に抑え込むようにして歩いていくんですよね。風を受けたマントが通路席の人に当たってしまわない配慮です。当たったらそれはそれでラッキーだと思うけど。

 

 

惹き込まれる魅惑の所作

そして物語はサラが迷い込んだ伯爵の城へと移ります。

ヴァンパイアの牙をモチーフにした城門から伯爵が出てきます。黒とも紫とも言えない不思議なオーラと威圧感をまとった伯爵の姿を見て、観客もアルフレートたちもゴクっと息を飲む・・・

 

と、思いきや。アルフレートたちとコミュニケーションをとる伯爵のなんとひょうきんなことよ・・・!独特の間といい、喋り方といい、動きといい。次は何がくるのだろう?と挙動のひとつひとつに期待が高まっていく。こんな感覚になるのはダウンタウンのまっちゃんと伯爵くらいですよ。

 

ヴァンパイアの魅力といえば一般的には怪しさや恐ろしさ。おぞましいオーラをまといながら城門に佇む伯爵の姿に息を飲んで身構えていたのに、とうの本人は独特のコミカルさとシュールさで観客をジワらせてくる。

 

そこでなんだか安心するんですよね。なんだ、意外と親近感あるじゃん、と。

詳しくは後述しますが、このギャップに魅力を感じてしまったが最後!!もう伯爵のてのひらの上なのです。

 

 

アルフレートたちを城に迎え入れ、伯爵の不気味な笑みとともに1幕終了。

伯爵のロングトーン、劇場を圧倒するオーラ、ダークな魅力に拍手喝采で幕間に突入です。

 

 

最高のアンサンブル「夜を感じろ」

2幕はサラと伯爵のデュエットから始まり、そのあとすぐに「♪夜を感じろ」というダンスナンバーに突入します。

筆者は本作のアンサンブルキャストのレベルの高さとパフォーマンスが大好きです。アンサンブルにここまでスポットライトを当てる作品、なかなかないんだもの

 

アンサンブルには作品の世界観を構築する重要な役割がありますが、やはりどこか”脇役”という印象を抱かれがちです。でもこの作品のアンサンブルは一味違う。

「夜を感じろ」はアンサンブルキャストによるシーンであるにも関わらず、作中No.1、2を争う屈指の名ナンバーです。この作品の大きな魅力である”倒錯とうさく”を惜しみなく表現しまくっているシーン。

 

墓場から出てきたヴァンパイアたちが踊り狂う「♪永遠」というナンバーもアンサンブルキャストによるものです。『ダンス・オブ・ヴァンパイア』からは、絶対にアンサンブルたちをただの背景で終わらせないという意地にも似た情熱を感じるんですよね。

 

 

山口祐一郎とその他大勢

この作品でこれほどアンサンブルが輝く理由ってなんだろう?単純に出番が多いから、だけではないんじゃないかな?

 

この奇妙な感覚に対して、自分の中でなんとなく答えがでてきました。

つまりは、「山口祐一郎によるクロロック伯爵とその他大勢」という印象を持つからじゃないかな。

 

なんだか語弊がある書きっぷりなのでもう少し詳しく。

山口さんのクロロック伯爵って、山口さん自身のキャリアの長さや華々しい経歴、そして伯爵としての圧倒的な存在感で構成されています。

 

そのせいか、山口さんの伯爵の前では皆等しく平等、というほどのカリスマ性がある。

どのヴァンパイアも人間も全員伯爵の巨大なマントにすっぽりと包まれてしまっているのだ!!って思うんです。

 

 

伯爵という超圧倒的すぎる存在がいるからこそ、伯爵以外はみーんな平等。これは役者としてのスキルとか人気の話ではないです。

上手く説明できないけど、山口さんの伯爵の存在こそアンサンブルがプリンシパルと同じようにギラギラ輝ける理由なんじゃないかな。

 



 

「抑えがたい欲望」

さて物語はずんずん進みます。

「♪永遠」で大暴れしたヴァンパイアたちが去っていった後の墓場にひっそりと姿を現す伯爵。

 

ここから本作最高のソロナンバー「♪抑えがたい欲望」。ヴァンパイアとして永遠の命を生きる孤独や虚しさをとつとつと独白するナンバー。

 

突然だけど、ヴァンパイアってかっこいいじゃないですか。

創作上の生き物だけど、今も昔もずっと世界中で人気がある。ヴァンパイアをモチーフにした楽曲、料理、仮装、グッズ、イベント、とにかく愛されている存在。

そして、ヴァンパイアとして魅力的に描こうとすると、普通はいきなり牙を向く残酷な獰猛どうもうさとか、真っ白な肌に真っ赤な血が流れる耽美な様子だとか。人間離れしたゴシックさが売りの”商品”ですよね。

 

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』で描かれるヴァンパイアの魅力はそれとはまた違う。それが最も顕著にあらわれているのがこの「抑えがたい欲望」だと思うんです。

というのも、この曲には人間らしいダサさとか恥じみたいなものがある。

 

 

このシーンの山口さんによる伯爵ってとても人間らしくて。

表現はあまり適格ではないんだけど、なんだかカッコ悪いんですよ。今まで、THEヴァンパイア!って感じのオーラと勢いだったのに、急にしおらしくなっちゃって。

この曲ってある意味伯爵の失敗と過ちの歴史だと思っています。葛藤して、苦しんで、もがいてあがいて・・・

それまでは背筋をぴんと伸ばして堂々としていたのに、墓石にちょこんと腰かけて、あんまり人に聞かれたくないような過去を途切れ途切れに語る哀愁漂う姿。

 

山口さんの伯爵って、このナンバーだけはちょっとドモるような、言葉に詰まるような歌い方に聞こえます。60年以上も生きて酸いも甘いも経験してこられた山口さんだからこそできる芝居なのかな。

こういう、なんていうのかうまく表現できないんだけど、作品を代表するヴァンパイアソングに人間臭いダサさみたいなものを感じるところが本当に好きなんですよね。

 

人間の心なんて全部お見通しの伯爵にやられっぱなしだったのに、急に聞いているこちら側が伯爵の心の奥に侵入する立場になってちょっと焦る。

城に住まうヴァンパイアたちだって滅多にみれない伯爵の珍しい姿をこっそり覗いているような、そんな気分になります。

 

 

 

ところでこの曲だけやたら歌詞を間違える作詞されているような気がするけど、覚えずらいのかな?

間違えても歌詞の意味が違和感なく通るように見事に軌道修正するのも、ある意味見どころだけど。

 

 

フィナーレ!観客すらTdVの世界へ

話は少し変わりますが、伯爵は本作の人間たち、つまりサラ・アルフレート・教授、それぞれ全員に対して違う誘惑の仕方をしていますよね。

サラに対してはあでやかな世界と永遠の美、アルフレートには若者である自分への期待と自信、教授には教授自身の研究への賞賛。何百年も生きているだけあって、どの人間にはどのような誘惑が効果的というノウハウが大量に蓄積されているんでしょうね。

 

そこでふと気づくんだけど、最終的に観客も伯爵にたんまり魅了されるじゃないですか。登場人物だけでなく、客席にいる観客すら伯爵ワールドのとりこにしてしまう。

先ほど軽く触れたとおり、観客がシュールでお茶目な伯爵のギャップに魅力を感じてしまうのは、もはや必然なのです。伯爵の誘惑の手は登場人物だけじゃなくて、観客にまで伸びている!

ここがホント好きなんですよね!ちょっとメタっぽけど。本作の味噌です。間違いなく。

 

この作品ってフィナーレの歌詞のとおり、まさに世界中を吸い尽くせ!全員ヴァンパイアなっちまえ!って終わるじゃないですか。

最後にはサラもアルフレートも観客も、誰もかれもがTDVの世界にすっかり入り込んでしまう。このトリックはまさに山口さんの伯爵の魅力があるからこそ成せる仕掛けだと思うんです。

 

「客席も一緒に楽しむ」は本作のテーマのひとつ。これは単純に皆で踊るカーテンコールだけでないそれ以上の何か熱いものを体感せずにいられません。

 

 

リアルヴァンパイア永遠に続いてー!

さて、山口祐一郎さんのクロロック伯爵について色々書いてきました。

 

次回の再演は2023年頃になるだろうけど、まだまだ山口さんの伯爵でこの作品を観たい!

松本白鴎さんの『ラ・マンチャの男』だって77歳現在まで続いているんだから、63歳の祐さんだってまだまだいけるはずさ。

 

筆者は別に山口祐一郎さんが特段好きってわけでもないんですが、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』のクロロック伯爵はこの人しか考えられません。

 

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』はこの後どうなっていくんだろう?いつかは山口さんの後継者が現れるわけですよね。順当に考えると岡幸二郎さんとか、石井一孝さんとかかなぁ。

それか、いっそ若手のトリプルキャストとかになるんですかね?でも皺ひとつないツルツルしたイケメン俳優じゃ全然物足りないよ!

 

まだまだ全国公演が続きますが、本作を観たことがない人にはぜひ見て欲しい!

 

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