ダンス・オブ・ヴァンパイア 山口祐一郎

人心掌握の天才・クロロック伯爵が狙い撃つ「若さ」というプレッシャー

2020年1月7日

 

2019年公演 帝国劇場

 

ミュージカル『ダンス・オブ・ヴァンパイア』。2019年公演はついに2020年に突入し、まもなく大千秋楽を迎えます。

 

この作品の大きなテーマはクロロック伯爵が掲げる欲望とアブロンシウス教授が信じる理性。つまり欲望VS.理性の物語です。

しかしその他にも様々なテーマ性が散りばめられており、筆者はこの作品には若さという要素も大きなテーマなのでは?と思っています。

 

というのも、この物語はザックリ言うとクロロック伯爵が思春期真っ盛りの若者ふたりを上手いこと操って思い通りにことを運ぶストーリー。

伯爵がサラとアルフレートを操ろうようとチラつかせる物語の鍵こそ”若さ”だと思うのです。

 

 

若さというプレッシャー

若いっていい!一般的には若さは問答無用で素晴らしいものであることは間違いありません。

しかし、当の本人たちからしてみればある意味厄介な足枷なのかもしれない、ということをこの作品を観ているとしみじみ感じてしまう。

 

伯爵は手を変え品を変えサラとアルフレートをヴァンパイアの世界に誘惑しますが、誘惑の根底には「その若さを無駄にしてもいいのか?」という若さに対するプレッシャーが潜んでいるように聞こえます。

「素晴らしい世界に一緒に行こう!」という100%ポジティブな誘い文句ではないところに面白さがあると思うんです。

 

 

サラを襲う若さという呪い

ガーリック♪ ガーリック♪

 

まずサラへの誘惑について。

サラは窮屈で閉鎖的な田舎暮らし呆れ、あたしもう18歳なのに!まだ恋もしてない・・・とフツフツとした不満感を抱く少女。そんなところに「ごきげんよう。怖くはない」とモーゼの如くじゃじゃーーん!と現れるのがクロロック伯爵。真っ裸の少女の前に、しかも風呂場で。

怖くないわけないだろ!と初見ではツッコまざるを得ませんが、実は結構奥深いシーンです。

 

というのも、サラが住む村ではヴァンパイア対策として普段からニンニクを食べまくり、ニンニクのアクセサリーを付け、とにかく全身ニンニク臭。

だから何も付けていない全裸で体をスポンジで洗うという行為は自殺行為にも近いんですよね。身体からニンニクの香りを一切そぎ落とす行為ですから。そりゃパパも大激怒する。

物理的にも精神的にも緩み切った無防備な少女の前に欲望の権化が現れる。そういうちょっと禁忌を感じさせるシーンです。

 

その若さが枯れてもいいのか
それで満足か この村でくすぶって
(クロロック伯爵)

 

サラに永遠の若さの魅力を伝える伯爵。しかしこの誘惑の根底にあるのは前述した”若さへのプレッシャー”である思います。

まだ自分はこんなに若いのに。何十年もある長い人生の中で許された美しい僅かな時間に何もしなくていいの?自分は毎日毎日ただ若さを消費しているだけでは?

 

神田さんと桜井さんのサラ@帝国劇場前

 

若さという呪いに囚われ続けていたであろうサラにとって、伯爵という存在はただ若さを消費するだけの生活の打開策を提示してくれた救世主なのかもしれません。

伯爵の「私こそ待ちわびた天使」という言葉は一見すると天使というワードチョイスに違和感を感じますが、こういった背景を考えると納得感がありますよね。

 

参考

ちなみに20代後半~30歳までの期間で襲われる人生における焦りや不安にはクォーターライフ・クライシスという名称がつけられています。なんだ名前が付くほどみんなが陥る現象なんだ~と思えればちょっとは楽かも?

 



 

実はストレスフルだったアルフレート

アルフレートの十字架であっさり撃退される伯爵ちょっと可愛い

 

一方で、伯爵にとってもこの物語にとってもキーマンとなるのがアルフレートという青年。

作中のセリフでは直接的な表現はありませんが、アルフレートは自分の意志で自分の運命を決めることへの欲望を潜在的に抱き続けていたのだと思います。

 

アルフレートは最初から最後までアブロンシウス教授に「何もできないグズめ!お前は私の背中を見てればいいのだ!」と叱咤激励。

愛を感じる指導かつコメディタッチなので観ていて違和感や不快感はありませんが、アルフレートの中にはフツフツと不満や疑念の芽が育ってたのではないか?と思います。

 

それは決して教授自身に対するものではなく、自分の運命を自分以外の他人に手で決めさせていいのか?という自分自身への疑念。

 

いいかね 君の若さこそ特権だ
信じて自分の道を行くがいい
(クロロック伯爵)

自由を掴め 束縛を離れろ
すべては叶う 信じれば現実
逃げろ逃げ切れ 奪われるな夢を
(ヴァンパイアたち)

 

アルフレート本人すら気づいていないその不安感を見抜いた伯爵に激励されたら、そりゃもうイチコロでしょう。大学の人間も誰もかれも、周りの大人は教授の背中に付いていくことを彼に勧めたはず。お前はまだ若いのだから、と。

そんな日々にアルフレートは潜在的にかなりストレスフルな生活を送っていたのでは?と思うのです。そんなときに突然、自分の人生は自分の手で決めろと言われれば心をグっと掴まれてしまうのも無理はない。

 

相葉さんと東さんアルフレート@帝国劇場前

 

 

「解き放て今つかめ自由をその手で!」と力強く伯爵に鼓舞されたアルフレートは、それまで見せたことのないような自信にも不安にも似た複雑な表情を残して1幕は終わります。

ここ大好き。何か大きな歯車がガグッ!と動きを変えてしまったような感覚になります。

 

 

ちなみにですが、アルフレートも実は元から”永遠”というものに何かしらのロマンを抱いていたのでは?と思います。「ずっとそばにいたいこのまま死ぬまで」というセリフって、いくら恋心とはいえ彼の陽気さにしてはちょっと不気味なんですよね。

 

 

ついでに教授まで誘惑しちゃう伯爵

欲望VS.理性! 実は大人同士の渋い作品かも

 

人心掌握に長けた伯爵の手は食べても美味しくない老いぼれの教授にまで伸びます。

 

こいつこそがヴァンパイアのボスだ!と心の中の激しい気持ちを抑えつつ、伯爵に対してあくまでも紳士的に振る舞う教授。

しかし、アナタが書いた『蝙蝠の研究』愛読しました。ご著書にサインしてくれないかしら?と意外過ぎるオファーを受けた教授はどっからどう見てもめちゃくちゃ心躍ってますよね。多少は演技かもしれないけど、一瞬フワッ!なったことでしょう。

 

この老いぼれの心の隙間に入り込むのは”自分の研究に理解を示す論理的思考のできる人間”であるということを見抜いていたという暗示でしょうか。伯爵スゲーッ!

若者も老いぼれもニンゲンたちみーーんなヴァンパイアのもの!さぁ諸君良い知らせだー!と言わんばかりの人心掌握術に惚れ惚れします。

 

真面目な顔してスッ・・・と胸ポケットから本を取り出す伯爵といい、セリフのといい、めちゃくちゃシュールなシーンですよね。本人たちは至って迫真なのがこれまた。これがシリアスな笑いってやつなんでしょうか。

 

 

還暦を迎えた山口祐一郎にこそ出せる魅力

 

これまで様々な記事でも書いてきましたが、クロロック伯爵はやっぱり山口さん以外の役者はなかなか考えられません。

基本的には特定の役に絶対的に必要な身体的特徴がないことがお芝居の世界の面白さだと思っているのですが、クロロック伯爵だけは身長・体格・美貌・年齢の全てのパラメータが大きくないとさまにならない特異なキャラクターだと思います。

 

ホントに古代エジプトくらいから生きてるんじゃないの?と思わせるような異世界感のある山口さんだからこそ「世界中の全てを理解した」というヴァンパイアらしい言葉に説得力が湧くなんじゃないかなあ。

不安定な若者を誘惑する永遠を生きるヴァンパイア役。山口さん以外思いつきません!

 

次回の再演は早くても3・4年後ですよね。その時は山口さんもう古希が迫るご年齢です。なんとか続投してくれたとしても、シングルキャストはまずないかと推測します。

ん~、いやでも伯爵って主役のわりに実は登場時間かなり少ないし、とくに大きなアクションもないし。市村正親さんのモーツァルトパパだってずっとシングルキャストだからまだまだいけるんでしょうか。

 

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