『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の2019年公演を観劇してきました。
もくじ
豪華な劇場装飾たち
”帝国劇城”と題しているだけあって、帝国劇場内も作品の世界観に合わせて装飾されています!
わかりやすい場所から、そんなところまで?というマニアックな場所まで、いたるところにヴァンパイア風の装飾があります。
お手洗いの男女も地味に装飾されています。気づきました?
と、このように”帝国劇城”として細部にわたって装飾されています。
見慣れた景色とちょっぴり違う劇場を歩く楽しさがあることも『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の特徴のひとつです。
ざっくりあらすじと作品の特徴
2006年初演から何度も再演されている作品なので、1度は観たことのある人も多いかと思います。
まだ観たことないよ!という人向けに軽く説明します。
✦ジャンルはゴシックホラーコメディ
✦ヴァイパイア発祥の地トランシルヴァニアが舞台
✦博士と助手が繰り広げるドタバタ劇
✦スリリングで激しいダンスシーン満載!
✦マニア向けと見せかけて大衆向けの人気作
ざっくりと表現すると、ヴァンパイア城にさらわれた少女サラを助けるために奮闘する青年アルフレートとその教授の物語です。
一見するとおどろおどろしい雰囲気ですが、実はドタバタ劇のかなりコメディタッチな作品です。
キャストへの感想
今回は筆者的にビビッ!と来た3名についての感想を中心に書いていきます。
神田沙也加さん、東啓介さん、植原卓也さんです。
完成され尽くした神田サラ
前回再演から続投しているサラ役の神田沙也加さん。
サラ像として完璧すぎるサラだと今回実感しました。
閉鎖的な環境で育ったサラはゴシックでスリリングな危うげな世界に憧れる少女。伯爵が魅せるその世界観に陶酔しきっているとろ~んとした感じ。
そして18歳。少女から女性になろうとしているなんとも表現しがたい境目の年齢。
”ちょっと危ないゴシックな世界に憧れる神聖で透き通った少女”。
このイメージに神田さんってぴったり過ぎると思うんですよね!
伯爵からプレゼントされた真っ赤なブーツが本当に本当に似合う。神田さんの真っ白な肌に真っ赤なブーツが映えすぎです。
そして、神田さんの澄んだ歌声はこの作品の世界観をよりミステリアスに装飾しています。
ただ澄んでいる美声なんじゃなくて、どこか異世界から響いているような無機質で不思議な声質。
カーテンコールで神田さんはこの作品の世界観が大好きと熱弁していましたが、本当に好きなんだと伝わってくるような芝居と歌唱です。
サラって純粋無垢な少女として登場するけれども、実は人間としての奥の根っこの部分では実は誰よりもヴァンパイアとしての素質があったような気がするんです。
元々欲望にまみれた生き物だったけれども、純真なベールで隠れていただけ。なんだかそんな役だと思っています。
そういった生まれながらのヴァンパイアの素養みたいなものがビシビシ伝わってくるのが神田サラ。
筆者的には神田さんは本作のサラ役以上のハマり役ってないんじゃないか?と思うくらい好きです。
ミュージカル俳優へと変貌していた東啓介
東啓介(ひがしけいすけ)さんは2019年公演から初参加です。
もともとは2.5次元系のいわゆるイケメン若手俳優のような立ち位置でしたが、2017年の『スカーレット・ピンパーネル』をきっかけにグランドミュージカルにもキャスティングされるようになってきました。
スカピンのときは正直、THE・2.5次元俳優という印象でした。
ピンパーネル団自体が石丸幹二とイケメン集団みたいになっちゃってたから別に浮いていたわけではないけど、やはりまだ「ミュージカル俳優」というイメージはありませんでした。
それが今回、2018年公演の『マタ・ハリ』よりもさらにさらに進化している!!
めちゃくちゃ「ミュージカル俳優」になってる!!
驚きました。
歌唱も上手くなっているし、所作も大劇場向けの大きな動きになっているし、何よりアルフレート役に超合ってる。
東さんって、自分から物語を動かしていくスーパーヒーローよりも、アルフレートのような巻き込まれ型のドタバタ系がすごい似合うと思うんだ。
2.5次元からグランドミュージカルという路線変更は、これまで加藤和樹さんや古川雄大さんなど、数多くの役者が通ってきた道です。
大体、30歳前後にグランドミュージカルへの露出が増えていく印象ですが、東さんはまさかのまだ24歳。
末恐ろしい。てっきり28,9くらいかと思ってました。
あの落ち着きとドッシリした構えは一体どこから。
スカピンへの出演からボイストレーニングにも熱心に通っているんだとか。
そのおかげか、純粋な歌唱力もグググっと上がっているのはよくわかるし、かつ、声質もミュージカルっぽくなってきてるよね!
『ダンス・オブ・ヴァンパイア』は上演前にアルフレート役による音声案内が流れるんですが、東さんの音声はまるで声優のようなクッキリとした聞き取りやすい声でした。
「グランドミュージカルに出演してみたら、なんとなく人気でちゃって、なんとなく出演作増えて、いつの間にかそこそこの実力ついてました」
ではなくて、自分からスキルを伸ばそうと必死に努力していることがすごく伝わってきた・・・
そのうち『レ・ミゼラブル』のマリウスとかアンジョルラスみたいな大役を掴むんじゃないかな。
スカピンのひょろひょろした落ち着きない東さんのイメージが脳みそにこべりついていたから、本当に驚いたよ。応援したくなる役者さん。
ダークホース?一皮むけた植原卓也ヘルベルト
伯爵の息子のヘルベルト役の植原さん。2019年公演の初参加組です。
個人的にはまさかのダークホースでした。
後半、植原へルベルトから目が離せなかった。トキメキとかじゃなくて、なんか気になって見ちゃう感じ。不思議な生き物見てるみたい。
植原さんと言えば、2019年『エリザベート』でハンガリー貴族のエルマー役に抜擢されたことで一躍有名になりました。
エルマーとしての植原さんは、とにかく「自分が作品の世界観を壊してはいけない」というプレッシャーや緊張が露骨に伝わってきました。
一方、今作のヘルベルト役はむしろ自分から積極的に『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の奇妙で奇抜な世界観をつくりあげていた印象です。
作品の世界観に溶け込む役から、作品の世界観そのものを作り込む役へとチェンジしたという印象を強く持ちました。
植原さんって正統派の役どころが多いイメージだけど、ヘルベルトみたいなクセのある奇人役のほうが植原さんの本領を発揮している気がします。
思いっきり全力投球で演じていてなんだか見てて気持ちよかった(笑
日本初演から続く山口伯爵の後継者は果たして・・・
若手キャストへの感想を中心に書いてきましたが、やはり山口祐一郎さんの圧倒的オーラのクロロック伯爵あっての本作だと思っています。
城の主であるクロロック伯爵は一応主人公ではありますが、実際のところ登場時間は短かめ。
むしろ、終始出ずっぱりのアルフレートのほうがよっぽど主人公らしく立ち回ります。
その少ない登場時間の中で、圧倒的な印象とオーラをほこる山口伯爵。
山口伯爵が舞台上に現れると「で、でた・・・!(ゴクリ)」ってなるんですよね。本物の吸血鬼に出会ってしまったような気分。
決して手の届かないところに怪しく君臨しているかと思っていたのに、まるで耳元で囁かれているような錯覚に陥るほどの徳永ウィスパーボイス。
ものすごく遠いようで、超近くて。劇場中が伯爵の掌の上のようです。
でも実は結構お茶目で抜けてる伯爵。
恐怖の大魔王かとビクビクしてたら結構いい人じゃん。伯爵自ら城の入り口でお出迎えしてくれるし。
このギャップになんとも言えない愛着を覚えます。もはやマスコット。
と、思いきやラスト近くの「♪抑えがたい欲望」でヴァンパイアとしての本領を発揮します。
筆者はこのナンバー、本当に好きです。数多くあるミュージカルソングの中でも好き好きナンバーです。
ヴァンパイアとして何百年も生きながらえる孤独と苦しみを吐露する曲ですが、伯爵が何百年も前に封印した心の奥底の扉をちょっとだけ開いて、そっと見せてくれるような感覚になるんですよね。
この曲本当にスゴい曲だと思います。
ミュージカル史の中でもかなり特異なナンバーであることは間違いありません。
ヴァンパイアの後継者不足問題
ところで、
果たして山口祐一郎さんからクロロック伯爵役を引き継げる役者さんっているんでしょうか?
山口さんくらい強烈なインパクトがないと
「あのヴァンパイア主演じゃないの?なんかあんまり出てこなかったけど」
ってなっちゃいますよね。
クロロック伯爵を演じられる役者。うーん、うーん・・・・
少なくとも筆者は思いつきません。ヘルプミー!
というか、ミュージカル界における山口祐一郎後継者不足問題は由々しき問題ですよ。
『モーツァルト!』のコロレド大司教、『レベッカ』のマキシム、今作のクロロック伯爵も、みんな10年以上山口さんが初演から演じ続けている役です。
これまで山口さんが演じてきた役って一体誰が引き継ぐのだろう。
歌い方も独特だし、なんだか不思議ちゃんっぽいところもあるし、63歳とは思えない程ガタイが良すぎるし・・・
100人いたら100人がベタ褒めする役者かと言われると、そうでもないと思います。
それでもやっぱり、良い意味でも悪い意味でも唯一無二すぎる役者さんですよね、ホント。
まとめ
なんだか全体的に上から目線の感想になってしまいました(ごめんなさい)
ゴシックな世界観の作品は本作以外にも数多く存在しますが、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の魅力はただのゴシックホラーで終わらないハイレベルなエンターテインメント性があること!
一見すると小難しそうに見えて、難しい内容やシーンは実は一切なし。
頭を空っぽにして楽しめるのに、深読みしようと思えばいくらでもできる。この相反する二面性がなんとも魅力的!
おまけ
ウィーン版の音源です。本場のクロロック伯爵の迫力よ。
上原理生さんのソロアルバムに「♪抑えがたい欲望」が収録されています。
タイトルは日本語ではなく原作版の”Die unstillbare Gier”
『ダンス・オブ・ヴァンパイア』って魅力的なナンバーの宝庫だと思うんですが、ミュージカル俳優のソロライブとかCDとかではあまりピックアップされないですよね。
テレビのミュージカル特集じゃ絶対採用されないし。