ミュージカル『フランケンシュタイン』
2014年韓国で初演され、2017年に日本初演を迎えました。そして2020年1月に日本再演を控えている。
韓国では国をあげて舞台芸術を盛り上げる活動が盛んで、当然『フランケンシュタイン』にも多額の費用が投資されました。
その結果、作品が持つ魅力だけでなく豪華キャスト陣・精巧かつ荘厳な舞台セットのおかげもあり大盛況となりました。
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そして、2017年日本キャストでの日本公演が決定し、日本のミュージカルファンは韓国版フランケンシュタインの舞台映像やビジュアルを事前に見て予習をしながら
「この世界観を日本のキャストで観れるのか!」
と心待ちにしていました。
韓国版の舞台セットは日本では考えられないほど精巧で迫力があります!
しかし蓋を開けてみれば、たしかにキャストの歌唱・芝居は凄まじいものでしたが
韓国版に比べて舞台セットしょぼすぎじゃない・・?
ストーリー展開急すぎない・・?
よくわからん演出多くない・・?
正直、観客に親切な作品とは言えないつくりだったと思う。
事実、チケットを事前に数枚購入していたが手放した人も結構いた。
しかし一方で、何度もチケットを買い足し、ズブズブとフランケンシュタインの世界にのめり込んでいった人もいた。
つまり、
①「もう観なくてええわ」
②「何回見ても面白い、もう一回観たい」
というパターンに大きく2極化した作品だった。
どの作品でも多少は2極化するものの、フランケンシュタイン程まっぷたつに割れた作品は今までないんじゃないだろうか。
私自身後者の人間なので、この作品は本当に好きだし2017年公演時は何度も何度も観にいった。
ただ正直、少なくとも2017年日本で上演されたフランケンシュタインは名作とは言えないとも思う。
いや、もっと正確に言えば良作とは言えない、が正しいかもしれない。
(※この話は日本版フランケンシュタインに限定しています)
『フランケンシュタイン』は"良作"とは言えない?
というのも、前述したとおり観客にかなり不親切な作品だったのです。観た人しかピンと来ないかもしれないけど、不親切ポイントは結構たくさんある。
・ストーリー展開があまりにも急で、話についていくのが難しい
・時系列がややこしく、かつ時間軸が切り替わった瞬間が不鮮明
・登場人物の心情がいまいちわからない
この作品はストーリー展開がジェットコースター並みの速度で進むので
「え?え?なんで?いきなりなんでこうなった?」
となるポイントが作中何度かある。
かつ、時系列も少し複雑であることに加えて、"今から過去の話になるよ"、"今から話は現在に戻るよ"という合図も不鮮明。
そして、1度観ただけでは登場人物の心情を読み取るのも難しい。1
幕ではジュリアに対してそっけないどころではない冷たい態度をとっていたビクターが2幕頭で突然ジュリアとの永遠の愛を語ることには違和感しかない。
このシーンだけでなく主人公であるビクターが何を思ってその行動を起こしたのかわからない、というシーンが結構ある。
つまり、簡単に言うと説明がとにかく省かれている。
なので、一部の観客は「もう観なくてもいいや」となってしまった。
いや、気持ちは大いにわかる。金返せ、とまでは言わないものの、初見のときは観た後になんだかモヤモヤしてしまう作品なのだ。
そして、舞台セットがしょぼかったり全体的にお金がかかっていない匂いがすることはさておき、"わかりづらい"というのは致命的であったと思う。
しかし、一部のミュージカルファンにはめちゃくちゃ刺さった。
ハマるというレベルを超えて熱狂していた人たちがたくさんいた。なぜここまで一部の人がドハマりする作品なんだろう。
あくまで個人的見解ではあるが、理由は以下の3つ。
3つの理由
①想像を掻き立てる余白まみれのストーリー
②尖り過ぎた世界観
③あるようでなかった男同士の友情ミュージカル
ひとつずつ解説します。
①想像を掻き立てる余白まみれのストーリー
ハマった人たちがどういう人たちであったかと考えると、説明されていない隙間を想像で埋めることが好きな人たちだったと思う。
観るたびに、
「なぜビクターはこのときこんな行動をとったんだろう?」
「ビクターって実はこういう性格なんじゃないの?」
「怪物はもしかして最初からビクターに●●しようとしてなかったんじゃないの?」
などなど、自分で仮説を立ててその仮説が正しいのか検証していくわけです。
つまり、未完成の作品を自分の脳内で完成に向けてピースをはめていく作業がこれ以上なく楽しい作業だった。
観るたびに新しい発見があって、それを元にまた自身で考察を組み立てていく。そして次の観劇で検証する。
作中、ビクター自身も博士として失敗と考察と実践を何度も何度も繰り返しますが、同時にフランケンシュタインにハマった観客たちも観劇のたびに考察と検証をしていたのだと思う。
②尖り過ぎた世界観
フランケンシュタインといえば、ストーリー展開・登場人物・演出すべてにおいてとにかく尖りまくった作品だと思う。
はっきり言って問題作。
どう尖っているかと言うと、全体的に全く容赦ないほどエグい。とにかくエグすぎる。
主要登場人物全員が死ぬ(※諸説あり)作品なんてミュージカルではなかなかない。
どんなに暗いミュージカルでも、"ほとんど死ぬけど最後生き残った人物が未来への希望を匂わせて終わる"、みたいな終わり方がほとんど。
そして、暗く重厚な作品と言えど、やはりそこはミュージカルという興行形態なので、後味が悪くならないように決して"やりすぎないように"している。
フランケンシュタインは最初から最後まで夢も希望も救いもない、ただ絶望に向かってひた走るのみ。
(いや、一瞬楽しげで幸せそうなシーンはあるんだけど、直後に例のメロディーが唐突に始まって逮捕されたりしちゃう)。
こんな悲しすぎる作品どこがいいの?と思う人がほとんどだと思う。でも世の中には必ず一定層いる。
こういうのを待っていたんだよ!という人たちが。
そして世界観も他のミュージカルの追随を許さない。イギリス発の原作小説の土台の上に韓国ミュージカルらしい激情さとパニック要素がエッセンスとして加わっている。
つまり、ウィーンミュージカルに代表されるような原作の切ないゴシックロマンの魅力と韓国ミュージカルの特徴が化学反応を起こしているのだと思う。
日本で人気のある作品はブロードウェイミュージカル、ディズニーミュージカル、ウィーンミュージカルが多く、そのほとんどは喜怒哀楽の感情表現に高低差はない。
しかしフランケンシュタインのような韓国ミュージカルは特に怒りや憎しみなどのマイナスの感情の表現が激情的でドラマチックであることが特徴のひとつとしてあげられる。
フランケンシュタイン作中でも実際に、これまで日本で上演されてきたミュージカルではなかなか見れないような激しい感情表現のシーンがある。
怪物が物語の佳境で歌う「俺は怪物」では、もはや歌唱というより咆哮・魂の叫びのように人間への恨みと怒りをこれでもかというほどに激しく表現している。
また、作中何度か登場する半狂乱状態の群集たちも独特の存在感を放っていた。もはや集団ヒステリーや集団パニックに近いように思う。
この尖りすぎた激しい世界観にハマらない人も多々いる一方で、ハマる人はどこまでも深くハマっていったのだと思う。
③あるようでなかった男同士の友情ミュージカル
フランケンシュタインは主人公ビクターと軍医アンリの友情が主テーマ。
男同士の友情を描いた漫画や映画は世に多数存在するが、ミュージカル作品では意外と少ない。
(『スリル・ミー』も主人公ふたりの関係性を描いた作品だけど、友情とはちょっと違うし)
もちろん作中で男同士の友情が描かれることは多々あるが、あくまでもメインテーマではない。
男同士の友情をテーマとしたミュージカルは、実は今まであるようであまりなかったのです。
そして、いつの時代も男同士の友情に女性は惹かれるもので、それこそ源氏物語ですら男同士の友情を描いたシーンが多数ある。
決してBL的なものではなく、純粋な男同士の熱い関係性に憧れるもんです。
もうこれはDNAに刻み込まれてるとしか思えない。女性がハマりやすい"男同士の友情もの"×女性客が圧倒的に多い"ミュージカル"。
この2つを掛け合わせてウケないわけがない。
逆に言えば、ビクターかアンリのどちらかが女性の恋愛ものであったら、全く売れなかったと思う。
ヴァンパイアと美しい女性のストーリーなど、「異型×人間」の男女の恋愛作品は世にあふれかえっているが一歩間違えれば陳腐でありきたりな作品になってしまいがちである。
まとめ
前述したとおり、2017年に日本で上演されたフランケンシュタインは急すぎる展開、わかりづらい演出など正直アラだらけでした。
ただ、フランケンシュタインらしさを残したまま2017年公演の課題点を解消すれば、今以上にものすごい魅力的な作品になると強く思います。
再演で改悪されてしまうことも稀にはありますが、ほとんどの作品は再演のたびに改善されていくと思っています。
フランケンシュタイン2020年公演はどのように進化しているか今からとても楽しみです!