異常なまでの熱狂的ファンを抱える問題作?ミュージカル『フランケンシュタイン』
2020年1月に再演を控えており、2017年の日本初演で見逃した人からの注目度も高い作品です。
『フランケンシュタイン』に興味を持った人向けに、本記事では5分でわかる『フランケンシュタイン』としてサクっと解説していきます。

もくじ
舞台設定
舞台は19世紀ヨーロッパ。
誰もが知っている小説『フランケンシュタイン』が原作のミュージカルですが、かなりアレンジを加えているので原作を知らなくとも問題ありません。
むしろ重要なことは、頭にネジが刺さった有名なアレはフランケンシュタインではないということ。
フランケンシュタインは、フランケンシュタイン博士という人間の名前です。
じゃあ頭にネジが刺さったほうは?というと、あれは”怪物”という登場人物でフランケンシュタイン博士が創り出した存在です。

いらすとやさんにもしっかりと正しい説明が!
戦争や疫病が作品の背景にはなっているものの、ミュージカル自体は現実とは離れた少しファンタジックな世界観なので、史実の予備知識はほぼ不要で楽しめます。
ポイント
19世紀ヨーロッパのお話であり、フランケンシュタインは”怪物”を生み出した博士の名前ということ!
ストーリー
19世紀ヨーロッパ。軍医であるアンリ・デュプレは科学者であるビクター・フランケンシュタインによって命を救われた。お互いの理念に共鳴した二人は固い友情で結ばれ、“生命創造”に挑むビクターに感銘を受けたアンリは研究を手伝うことになる。
しかしある日、殺人事件の容疑をかけられビクターをかばうためにアンリは無実の罪で命を落としてしまう。ビクターはアンリを生き返らせようと”生命創造”に臨む。
しかし誕生したのは、アンリの記憶を失った人とは言えぬ“怪物”であった。怪物となり果てた「アンリであったもの」の姿に絶望したビクターは怪物を射殺しようとするが、逃してしまう。
命からがら逃げた怪物は、自分という醜い存在をこの世に産み落としたあげくに殺そうとした「創造主」ビクターに復讐を誓うのだった。
一言で表現すると、
主人公ビクター・フランケンシュタイン博士と、彼が生み出した怪物(元アンリ)との関係性を描いた作品です。
”生命創造”という人類の禁忌を犯すというテーマ性、怪物による復讐を描いた物語。
もう薄々おわかりでしょうが、めちゃくちゃ暗い残酷なストーリーです。

登場人物
物語のキーになる5人を紹介します。
ビクター・フランケンシュタイン
本作の主人公。
✦死体を蘇らせる”生命創造”に没頭している
✦幼少期から研究に打ち込む天才科学者
✦協調性はないが親しい人との仲は厚い
✦自己中かつかなりのトラブルメーカー
✦だいたいの不幸はほぼビクターがきっかけ
作中で善人たちが次から次へと不幸に見舞われますが、原因はそう、ほぼビクターです。
「♪不幸の始まり」はシシィじゃなくてビクターの曲じゃないのか?
ビクターは幼少期の経験をきっかけに歪んでしまい、死者を蘇らせる”生命創造”に没頭するようになります。
親友になったアンリが己の罪をかぶり処刑されてしまう直前に「アンリを死なせたら僕は殺人者」と嘆きます。
が、そもそもの発端はビクターが怒り狂ってとある人物を殺害してしまったことがきっかけです。
観客の全員がツッコミを入れたはず。お前は既に殺人者だよ!!
とまぁ、良くも悪くも自己中な歪んだ天才科学者ですが、簡単に言うとミュージカル界きってのトラブルメーカー主人公ですね。

日本公演では2017年、2020年ともに中川晃教さんと柿澤勇人さんが担当。
超歌うまの中川さんは天才科学者としてのビクターを、演技力に長けた柿澤さんはお騒がせ主人公としてのビクターをそれぞれ楽しめます。
中盤で披露される「♪偉大なる生命創造の歴史がはじまる」という本作を代表する難曲も見どころのひとつ。
アンリ・デュプレ(のちに怪物)
ビクターの親友で、本作の準主人公。
✦ビクターの活動に協力する心優しき理解者
✦コミュニケーション力と人望がある
✦ビクターの手によって”怪物”として生まれ変わる
✦ビクターを恨み、復讐を誓う鬼と化してしまう
心優しいビクターの理解者で親友。
冒頭時点では荒んだ心情であったアンリですがビクターのひたむきさや熱心さ、信念、情熱に魅せられ、ビクターの研究を手伝います。
ビクターをかばって処刑されたアンリのことをビクターは己の研究の成果を一心に打ち込み、なんとか蘇らせます。
しかし、生まれたのはもはや人とはいえな醜い”怪物”。そう、アンリは物語後半から”怪物”として立ち回ります。
アンリ役は2017年、2020年ともに加藤和樹さんと小西遼生さんが担当。
心優しきアンリから復讐の鬼となった醜い怪物を演じる必要があるので、アンリ/怪物役には相当のスキルが求められます。
そして物語後半はほぼ怪物が主人公になるので、アンリ/怪物は作品の完成度を決める超重要な役柄と言えます。

エレン
ビクターの姉。
✦ビクターと二人で懸命に生きてきた
✦狂気的なまでにビクターを愛するお姉さん
✦姉というよりむしろ母のような存在
✦アンリのことを心から信頼している
ビクターの姉であり、そして母のように母性溢れる存在。
天才ゆえに幼いころから奇妙な言動をしてしたビクターは街の人たちに気味悪がられます。そんなビクターを支え、励ましていたのが姉エレン。
ビクターが珍しく心を開いたアンリに対して厚い信頼を寄せており、家族としてビクターの研究を応援しています。
寂しげで、哀愁があって、淑やかなんだけど、でもどこか少し不気味で。
『フランケンシュタイン』という作品が醸し出す独特の世界観をそのまま背負ったキャラクターとも言えます。
ビクターに対するエレンお姉さんの母性が強ければ強いほど、物語は残酷で辛いものとなります。
だから、”ただの優しい親切な人”で終わらないようなある種の禍々しいオーラすら必要となる重要な役どころ。
2017年公演はミュージカル界の女帝・濱田めぐみさんが担当されていましたが、2020年公演はキャスト変更があり、露崎春女さんという方になりました。
『フランケンシュタイン』に中毒的にハマった人たちの理由の一つは間違いなく、濱田さん演じるエレンの圧倒的な芝居と歌唱力でしょう。
露崎さん、なんとミュージカル初挑戦。うーん、不安です!
ジュリア
ビクターの婚約者。
✦ビクターを一途に追う健気な女性
✦幼少期からビクターと知り合い
✦一応ヒロインだが出番はあまり多くない
✦市長である厳格な父を持つ
ビクターの幼少期からの仲で、婚約者です。一応ヒロイン的な立ち位置なんですが、本作ではヒロインっぽさはほとんどありません。
だって、ビクターとアンリの関係性を描いた作品なんだもの。
特に個性もなければ出番も少ない。韓国再演版では初演のジュリアの歌唱がカットされるなど、少し不遇のキャラクターです。
2017年公演、2020年公演ともに音月桂さんが担当します。
ルンゲ
フランケンシュタイン家に仕える使用人。
✦幼少期からビクターの面倒を見る使用人
✦ビクターを「ぼっちゃん」と呼ぶ
✦作中唯一の笑えるシーン担当
✦ビクターを想う気持ちは誰よりも強い
執事のような服装といでたちのルンゲ。一見気弱に見える彼ですが、銃を扱ったりと意外と武闘派。
暗い世界観の本作で唯一コメディチックに立ち回るキャラクターです。
比較的笑えるシーンが多めですが、ビクターを想う気持ちは誰よりも強い。
ルンゲ自体にスポットライトが当たるシーンがほとんどないため初見では見逃しがちですが、舞台の端のほうでルンゲが密かに見せる微妙な表情の変化や細かな動作から、ビクターへの深い愛情が伝わってきます。
2017年公演、2020年公演ともに鈴木壮馬さんが担当しますが、歌唱はなんと1節のみ。
壮馬さんの無駄遣いである。
公演の歴史

✦2014年:韓国で世界初演
✦2015年:韓国で再演
✦2017年:日本初演@日生劇場
✦2018年:韓国で再々演
✦2020年:日本再演@日生劇場
韓国でミュージカルというとピンと来ない人も多いかもしれませんが、実は韓国はもはや日本を追い越すミュージカル大国です。
国がミュージカルを国家芸術として相当の資金を投資しているので、舞台セットも豪華だし、面白い作品が次々と生まれているんですよね。
『フランケンシュタイン』だけでなく『マタ・ハリ』や『笑う男』も韓国で初演され、日本に輸入されてきた作品です。

『フランケンシュタイン』が”超特殊”な作品である理由
『フランケンシュタイン』はよく「問題作」と言われます。
本作は実はプリンシパルキャストが1幕と2幕で別々の役を演じるという仕掛けがあります。
この仕掛けが2017年日本初演当時に宣伝文句として使われていましたが、箱を開けてみてビックリ。
そんなトリッキーささえ存在感を失う程の物語の奇怪っぷり。

①見る人を選ぶ邪道な作風
この作品は”邪道”です。
ミュージカルと言えば、歌って踊って、キラキラ豪華に・・・というイメージが強いでしょう。
実際、いくら暗い作品とはいえ、そこはあくまでミュージカル。基本的に華々しく爽快なエンターテインメントです。
が、しかし。『フランケンシュタイン』は本当に後味も悪いし、ハッキリ言って登場人物の思考回路や心情は訳が分かりません。
筆者自身もこの作品何がいいのかよくわからなくなることがあります。
2017年初演時には「もう二度と観なくていい」とさえ言っていた観客もたくさんいました。
それほど人を選ぶ邪道な作品です。
でも中には、いやそれがいい!!という人たちがいるんです。一部のミュージカル狂人たちのセンサーにドハマりしたわけですね。
関連記事:フランケンシュタインはなぜ一部に狂信的な人気があるのか解説する
②余りにも少ない情報量
本作は作中における情報量がとーーーーっても少ないです。
初見の場合は展開の速さについていけないことも多いですし、登場人物たちの行動は終始「なんでそうなるの??」という奇怪な言動ばかり。
ミュージカルって本来は歌とダンスと芝居で直感的に楽しめるエンタメですが、本作は真逆オブ真逆。謎が謎を呼ぶ変な作品なんですよ。
ですが、その説明の少なさが逆に考察が考察を呼ぶスルメ作品になってしまったわけです。
創作物のファンは2つに分けられます。
直感的に楽しみたいから全て作品側から説明してほしい人と、自分から考察して足りない部分を埋めたい人。
後者の人には間違いなく堪らない作品です。
だから『フランケンシュタイン』ってファンの人たち一人一人の頭の中でそれぞれ違う作品になっちゃってるんですよね。
まとめ
『フランケンシュタイン』ってどんなミュージカル?というと、ざっくりこんなかんじ。
✦超・観る人を選ぶミュージカル
✦好きな人はとことん好き、嫌いな人は超苦手
✦男同士の復讐を描いた生々しいドラマ性
✦類をみないスリリングで特殊な楽曲たち
「大衆受け」とは真逆の位置に存在するミュージカルですが、ハマる人はどこまでも深く深くハマってしまう泥沼作品です。
決して明るいとは言えない作品が好きな人なら、ハマってしまうかも?
【おまけ】もっと知るための関連商品
今回は『フランケンシュタイン』ってどんなミュージカル?ということがザックリとわかることが目的ですが、もっと知りたいと思った人向けに関連商品を紹介します。
フランケンシュタインの楽曲を聴いてみる
主人公・ビクター役の中川晃教さんのコンサートCDです。
こちらに本作の代表曲である「♪偉大なる生命創造の歴史が始まる」が収録されています。
『フランケンシュタイン』が音源化・映像化されていない作品のため、楽曲を丸々聞こうと思うと今のところはこのCDしかありません。
科学者の心に触れてみる
『フランケンシュタイン』の原作小説を紹介したいところですが、ミュージカル版は別に原作読んでなくても十分理解できますし、楽しめます。
かつ、アレンジが激しいのでぶっちゃけ原作小説は別にオススメしません。
どちらかと言うと、研究に全てを捧げてしまった科学者の心理状態や思考回路を知っておくことが作品を楽しむ手がかりとなります。
常人の視点・価値観では、イカれた科学者であるビクターの気持ちは到底わかりません。
しかし、人体実験に取りつかれた人々の理念や目的について共感はできなくても理解さえできれば、ビクターの行動に対して幾ばくかの納得感が生まれます。