レミゼラブル

【感想】『レ・ミゼラブル』の”異端者”だった斎藤さんテナルディエの評判の結論はいかに

2019年9月20日

2019年公演(帝国劇場)

 

2019年4月より帝国劇場を皮切りに全国を回ったミュージカル『レ・ミゼラブル』

1年おきに上演される老舗中の老舗作品であるにも関わらず、2019年公演にはかなり特殊な要素がありました。

それが、お笑い芸人である斎藤司さんによるテナルディエの参戦。

 

発表当時から札幌の大千秋楽公演まで、良い意味でも悪い意味でも大きな話題をかっさらっていった異例の起用でした。

せっかくなので、発表時、公演期間、千秋楽まで、それぞれのタームでの評価を振り返っていきたいと思います。

 

発表直後のレミゼファンの反応

 

斎藤さんがテナルディエとして発表された当初、レミゼファンの間でかつてない程の盛り上がりとなりました。

濱田めぐみさんのファンテーヌ抜擢よりも目立っていた印象です。

 

何かの間違いでは?

本当にオーディションしているんですか?

もう見る気が失せた。

 

そこまで言う?(笑)というレベルの手厳しい言葉を書き連ねている人もたくさんいました。

もちろん、面白い試みだ!と好意的に捉えている人もいましたが、好意的な人もそうではない人も共通して持っていた感想は

 

「東宝さん、どうしちゃったの?」

 

という起用サイドへの疑問符であったと思う。

 

 

知っている人も多いかと思いますが、『レ・ミゼラブル』という作品は毎年全キャスト必ずオーディションで選抜されます。

舞台経験のない一般人も、ベテランキャストも。みな平等にジャッジされます。

 

 

応募条件は「歌唱に秀でた男女である」ことのみ。

そして、応募する音源の楽曲は指定されていません。もちろんレミゼの曲でなくても問題ない。

ミュージカルの世界を未だ知らない新たな才能も発掘すべく、間口を広げている。

 

レミゼファンは当然このシステムを知っているので、斎藤さんが発表されたときに、この平等オーディションの仕組みを疑う人が多かったことを覚えています。

 

本当は「有名タレント枠」があるんじゃないの?

話題性重視の起用なんじゃないの?

東宝さん、本当に実力で選んだんですか・・・?

 

このような懐疑的な意見が非常に多く見られました。

 

もちろん、全キャスト平等オーディションと言えど、大人の世界の大人の事情が様々に多少は絡んでいるはずです。それはレミゼファンもわかっている。

しかし、ここまでのTHE・お笑い芸人の起用には驚いた。

 

そんなこともあって、ガヤガヤと落ち着かないまま初日公演を迎えることに。

 

初日公演の様子

斎藤さんのデビューを間近で見届けたよ

 

斎藤さんの初日は帝国劇場での4/16のプレビュー公演でした。

詳しい感想はプレビュー公演感想の記事で詳細に書いていますが、簡単にまとめると斎藤さんテナルディエは想像よりもずっと良かったと思った。

 

かなり緊張している様子ではあったけど、レミゼの世界観にしっかりと溶け込み、テナルディエを演じ切っていた。

歌唱力も申し分なかったと思います。何より声質がとにかくクリアで聞きやすい。

 

テナルディエの♪Master of the Houseは、単純に曲の時間も長いし、セリフも多いし、舞台上にいる役者の人数も多い。

一言でいうと、とにかくわちゃわちゃしたナンバー。

そんなこともあってかテナルディエの役者によっては、初見の人はあんまり歌詞を聞き取れないだろうな・・・ということが結構ある。

 

斎藤さんのテナルディエはかなり聞き取りやすいと思いました。

普段漫才をやっているだけあってか、ここぞというセリフと、ちょっと控えめに言う、という丁寧なセリフの緩急が付いている感じ。

 

そして、斎藤さんだと言われなかったらわからないという感想が多かった。

私自身もまさにそう思いました。ちゃんとミュージカル俳優してた。

 

他のテナルディエと比較して動作や所作がかなり小さいシーンが多かったので、舞台を意識した動きではないかもと感じてしまう箇所は多少あったものの、ほとんど気にならないレベル。

 

つまり、筆者も含めてなんだ意外といいじゃん派が圧倒的だった印象です。

 



 

大千秋楽公演を終えて

稽古が始まった2019年1月から、半年以上にも及ぶ戦いの終結地は北の大地・札幌。

斎藤さんの千秋楽でのコメントはレミゼ公式ブログで文字に起こしてくれていますので、ぜひ。

 

 

 

斎藤テナルディエに対する筆者の感想

率直に言うと、筆者は斎藤さんテナルディエが結構好きなんです。

確かに舞台経験という意味では、他の3人のテナルディエキャストにはやはりどうしても劣ってしまいます。

いや、もしかしたらオーディションに落選した人の中にも斎藤さん以上のツワモノがいたかもしれない。

 

筆者が斎藤さんに対して好意的に思っているのは、お笑い芸人という素性を隠すかのようにレミゼの世界に溶け込もうと努力していることが伝わってくること。

テナルディエは笑いの少ない重厚な世界観であるレミゼの中でも異彩を放つ、コメディリリーフの登場人物。

だから、初日公演を観る前までは「お笑い芸人ならではのテナルディエ像をつくっているんだろうな」と予想していました。

 

しかし実際にところは、笑いの下地がある芸人としてではなく、一人の役者としてテナルディエという人間になりきろうとあがいていた印象を受けました。

その芝居に対する真摯な姿勢に素直に感動しました。だって、ミュージカル畑出身でも自分自身の色を出しまくる役者って結構いるんだもん・・・

 

話は少し変わりますが、お笑い芸人がミュージカルに参加することは最近多いですよね。

そして、ほとんどの芸人さんからはお笑い芸人として参加”させて頂いている”遠慮を感じました。

 

あくまで本業はお笑い芸人。だから歌唱や芝居は多少劣っていても、観客の笑いをとることが自分ができる唯一かつ最大限の貢献。

なんだかこんな雰囲気を感じることが多々ある。

 

しかし斎藤さんからは、大舞台に登壇する役者として歌唱や芝居もなんとか皆の肩を並べられるように頑張ろうとする気合を感じた。

笑いはあとで。まずは基礎を固めること。

芸人としての飛び道具を捨てて裸で挑んだということは、物凄く男気がある挑戦だと思うんです。

 

(初日はガチガチに教科書通りのテナルディエでしたが、公演が重なると慣れてきたのか笑いの要素をかなり濃く入れてきたことはあったけど・・・)

 

インタビューやコメントでは角が立たないように「お笑い芸人であるわたしが・・・」と控えめな様子でしたが、胸の奥底では他の役者も食ってやろうとするくらいの意気込みがあったはずです。

その飄々としながらも虎視眈々としている様がテナルディエ本人と重なることも面白い。

 

作中ではコメディリリーフとして面白可笑しく振る舞うテナルディエも、本当は19世紀初頭の薄暗い激動のフランスを生き抜こうと必死になる”哀れな人々”の一人である。

飄々と軽やかに立ち回る彼も、胸のうちには尖ったナイフを仕込んでいる。笑うなら笑え金持ちども、今に出し抜いてやるぞ、と。

腰を低く参加しつつも、今に見てろいつか俺がこの舞台の中心になってやる、という気概を放っている斎藤さんとテナルディエという人間の立ち位置がすごく似ていると思うんです。

 

役者と登場人物の生き様が似ているって、なんだかとても面白い。

そういった意味では斎藤さん以上にテナルディエそのものであったキャストはいないんじゃないでしょうか。

 

今後のレミゼキャストの行く末は?

ミュージカル俳優、舞台俳優以外のタレントも続々とミュージカルの世界に飛び込むこのご時世。

一昔前は話題を呼ぶためのスパイスとして一人二人が”色物キャスト”担当として登壇していたものの、もはや最近では生粋のミュージカル畑出身ではない役者が半数以上を占めている公演も珍しくなくなってきている。

このミュージカル界の流れに対して最後の砦のような役割をしていたのが『レ・ミゼラブル』という作品だったと思うのです。

 

『レ・ミゼラブル』だけはちゃんとした経験や実力のある役者をしっかりと選定してくれる。

『レ・ミゼラブル』だけは安心して観れる。

『レ・ミゼラブル』だけは・・・

 

と、厳格なミュージカルファンにとっての最終兵器のような作品だったと思います。

 

しかし、歌手でもドラマ俳優でもないお笑い芸人である斎藤さんが参戦したことによって、この最後の砦は崩れ去ってしまったように感じます。

レミゼにすら”部外者”が参加できるなら、もうなんでもあり。そんな空気感。

 

この新たな流れに対して好意的に思っている人もいれば、あまり嬉しくない人もいるはず。

ただ、個人的にはWelcome!とまでは言わないものの、別にいいんじゃないかな?と思っています。

 

ミュージカルという敷居の高いエンタメがより身近なものに感じる人が増えるかもしれないし。

なんにせよ決まりきったキャストで業界を回していくと、この世間狭いね状態になるし。

より新しい風があったほうがファンとしても面白いし、ワクワクします。

 

もちろん、歌も芝居もダメダメなキャストを話題目的で起用するのは私もイヤですが。

 

ただ、斎藤さんテナルディエの本当の評価は2021年公演のキャストが発表されたときだと思います。

もし2021年公演に斎藤さんがいなかったら、あぁやっぱり話題目的の起用だったのね、と思ってしまう。

タレントとしてのキャリアにレミゼを利用されたような気持ちになるかもしれない。

2019年公演に出演した既成事実があれば、今後一生プロフィールに「レミゼラブルにも出演するなど、お笑いにとどまらないマルチな才能を発揮する」なんてカッコいいことが書けてしまう。

 

なんにせよ、2021年も続投してほしい。

Bring him lesmiselables。

 

もし2021年公演にも続投すれば、当然批判する人もやはりいると思います。

でもいいんです、絶対トリプルキャスト以上なんだから斎藤さん以外のキャストの日を見ればいいだけです!!落ち着いてください!!

 

本当の地獄は、あらら?なキャストがよりによってシングルキャストの演目のときなのだから・・・

 

 

とにかく、斎藤さんのテナルディエはよかった!!

お疲れ様でした。

 

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