エリザベート

『エリザベート』から学ぶウィーン独特の死生観と"死"との踊り方

2019年7月3日

 

 

ミュージカル『エリザベート』

ウィーンミュージカルを代表する作品であり、日本では今もっともチケットが取れない公演と言われている。

音楽・ストーリー・演出、そのどれをとっても減点する余地のない素晴らしい作品です。

皇后エリザベートの数奇な生涯を幼少期から晩年まで描いた作品ですが、ただの伝記物とはいえないエッセンスがあります。

それは、「死」そのものを具現化した存在「トート(死)」というキャラクターが登場すること。

 

 

なんだただのイケメンか・・・

 

ではなく!

"死"という概念そのものを登場人物にしてしまうことからもわかるとおり、『エリザベート』はウィーン独特の死生観が凝縮された作品なのです。



死が寄り添う街、ウィーン

ウィーンにおける「死」への考え方は世界でも特異といえます。

ウィーンでは死という存在は人々に身近に寄り添うものなのです。

日本では、墓場というのは用事がなければ決して立ち寄りはしない、精神的に距離のあるロケーションですよね。

しかし一方ウィーンの墓場はまるで公園のような雰囲気。緑豊かで爽やかな空気が流れて、市民の憩いの場になっています。

ウィーンでは墓地巡りは定番観光コースであり、中でもウィーン中央墓地はモーツァルトなど著名な音楽家や芸術家の墓碑があります。

 

ウィーン中央墓地(wikiより引用)

 

ただしモーツァルトは実際はどこに埋葬されたのか記録上不明のため、本物のモーツァルトが眠っているわけではなく、墓碑があるのみですがね・・・

まさにミュージカル『モーツァルト!』の冒頭での墓堀りシーンですね。

 

ウィーンの死に対する親密さは墓場だけではありません。

1967年にはデスマスクや棺を展示した葬儀博物館なるものが開館しています。死を扱う博物館としては世界初でした。

 

葬儀博物館(BBnewsより引用)

 

なぜウィーンという街が「死」というものに対して、こうも真摯に真正面から向き合うのか。

その理由は、ペストの大流行や帝国の滅亡など、長いヨーロッパの歴史の中でもウィーンは常に死や終焉という概念と隣り合わせであったことが背景としてあります。

そのため、死は悲惨なものというよりむしろ向き合わざるをえない身近なものとなったわけです。

 

ウィーンの巨匠グスタフ・クリムト代表作「生と死」

 

死というものを生の中にとりこんでしまおう。「死」があるからこそ生が完成するのだ。という発想があるのです。

死を旅立ちとして描く『エリザベート』

さて、ミュージカルの話に戻ります。

ミュージカル『エリザベート』では、窮屈で孤独な生涯を生きた皇后エリザベートの物語。

実際の皇后エリザベートはテロリストのルイジ・ルキーニに刺殺され、その生涯に突如幕がおります。

 

中央がルイジ・ルキーニ本人

 

ミュージカルのラストシーンでは、ルイジ・ルキーニに刺殺された彼女は服を脱ぎ真っ白なドレス姿になります。

そして「死(トート)」と結ばれ、現世から解放され死へと旅立ちます。

 

ここで重要なのは、死(トート)というキャラクターは日本では"死神""黄泉の帝王"という言葉で表現されることが多いですが、本来は"死"という存在そのものです。

 

真っ白な死(トート)に導かれるエリザベート

 

先ほど述べたとおり、「死」があるからこそ生が完成するというウィーン独特の死生観が露骨に反映されたラストシーンだと思います。

死というものは絶望でも終焉でもなく、人生における最後のピースみたいなものであるわけです。

死(トート)と結ばれる=エリザベートの人生が完成し、新たな世界に旅立つわけです。



 

日本人の死生観

日本には輪廻(りんね)という生まれ変わりの概念があります。

ナニソレ?という人もいるかもしれませんが、友人や家族と

「生まれ変わったら●●になりたい」

「前世はきっとこんな人だったんだと思う」

なんて会話、結構普通にしますよね。輪廻という考え方が自然に浸透している証拠なわけです。

そして、もうひとつ。冒頭でも述べたとおり、日本では死というものを非日常として扱います。例えばホテルの部屋番号に死を連想させる404号室はない。

遠ざけるべきもの。あえて言及しないもの。タブー。なんてイメージがあります。

ミュージカル化もされている大ヒット漫画デスノートも、「少年ジャンプで連載するようなタイトルか?」連載開始当時かなり非難されていました。

 

デスノート第1巻

 

日本では『エリザベート』は宝塚で一路真輝のサヨナラ公演として初演を迎えましたが、当時「なぜトップスターのサヨナラ公演が死の役なのか」と、物議を醸した過去があります。

 

1996年宝塚初演

 

こういうことにも日本人の死というものに対しての考え方が現れていますよね。もちろん、良い悪いは別ですよ。

 

諸外国の死生観

一方、ヨーロッパを中心とするキリスト教圏では死んだ者は神の王国に入って神のお側で永遠に生きる、という思想があります。

ミュージカル『レミゼラブル』のラストシーンの台詞

「誰かを愛することは、神様のお側に居ることだ」

という翻訳はキリスト教の死生観を強く現した完璧な訳だと思います。

英語では、

To love another person is to see the face of God」なので、お傍にいるというよりは、神様をその目で見るとき、という意味合いです。

ミュージカル史に残る名台詞&名翻訳。筆者も大好きです。

 

 

映画版の『レミゼラブル』では、司教に導かれて門をくぐったバルジャンを待っていたのでは、青空晴れ渡る美しいフランスでした。

革命で死んでいったものたちも皆、神の王国では笑顔で幸せに暮らす。辛く苦しい生涯を生き抜いたバルジャンも永遠に神様のお側で暮らすのだ。という宗教色がかなり濃い演出でした。

 

また、一方メキシコでは「死者の日」というお祭りがあります。

これは決してお盆のように死者を静かに弔う日ではなく、死というものをハッピーに派手に音楽やダンスで表現するのです。

 

 

「死はすべての人に必ず訪れるもの。だったら避けたりしないで、生きてるうちから仲良くしようぜ!」という超ポジティブな発想。

そして、学校や家庭でも死を骸骨をモチーフとした可愛くておしゃれな装飾をつくったり飾ったり。骸骨のフェイスペインティングをしたり。

喪に服すなんてのとは真逆のカラフルで陽気な祭典。

 

 

日本だったらま~~ずあり得ない!

小学校の図画工作の授業で死をモチーフにしたものをつくろうとすれば、先生から「そういうものはダメ。とにかくダメ」と絶対とめられてしまうだろうし。

とにかく日本では死は日常から遠ざけるべきもの、なんですよね。



 

"死"との踊りかた

日本では禁忌的な存在である恐怖の対象である死というものは諸外国では、

「死に怯えてビクビクと過ごすなんてカッコ悪い。死と仲良くなろう。仲良くなるどころか、手なづけてしまおう。」

と、捉えているわけです。

 

『エリザベート』でも最初は死(トート)に

「最後にお前と踊るのはこの俺さ~!ヒャッハー!」

と翻弄されるがまま踊らされていたエリザベート。

しかし、確立した自己を持ってからは死(トート)の差し出す手を取るフリをしてみたり、死(トート)を思うがままに扱ったり。

「私、ひとりで踊るんだが?しかもアンタの前でな!」と丁重にお断り。

 

ミュージカルの演出ではセクシー色男の死(トート)に振り回されていた主人公が、色男をもてあそぶような小悪魔になったみたいな、なんだか少女漫画のような展開にもみえるっちゃみえますが、

実は「死は手なづけるもの」という概念が前提があるわけですね。うーん、『エリザベート』深い。

そして、先ほども述べたとおり「死」について考えたり仲良くなってみたりすることは、今を精一杯生きることと同義かもしれない。

死(トート)という得体の知れない存在に対して最初は怯えて翻弄されていた彼女が、しだいに死(トート)に対する優雅な振る舞い方や距離感を極めていきます。

これは決して彼女が一段も二段も上を行くいいオンナになったというだけのことではないのです。

死(トート)の扱い方を見極めること=彼女自身が自分の生き様を考え始めた、ということなのかもしれません。

 

実は超ハッピーな作品なのかもしれない

死ぬのが怖い。というのは誰しも一度は、そりゃあもんもんと考えることですよね。とくに寝れない夜とかは。

『エリザベート』は帝国の滅亡や孤独な皇后の生涯を描いた作品ですが、見方を変えればある意味、超ハッピーな作品かもしれない。

「死(トート)なんかに翻弄されないわ。私ひとりで踊れるのよ。」

という彼女の姿はカッコいい。超カッコいい。

もしかすると、死というものを改めてポジティブに考えてみる良い機会になる作品なのかもしれないね!

死との付き合い方を考える、なんて日本では「え~、きっしょ」と思われがちな行為かもしれないけれども、案外やってみると、より良い人生になるかもしれません。

 

超ベストセラーとなった有名な著書。全編を通して「死への正しい接し方」が書かれています。これを読んでからエリザベートを観てみると違う見方ができてます。

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