日本でいま最もチケットの取れない作品とよばれているミュージカル『エリザベート』
2020年には東宝版20周年のメモリアルイヤーということもあり、2020年で最も注目されているミュージカルといっても過言ではありません。
最近ミュージカルに興味を持った人や『エリザベート』を見てみたいと思った人向けに、本記事では3分でわかる『エリザベート』としてサクっと解説していきます。
もくじ
舞台設定
舞台は19世紀後半のヨーロッパ。
ハプスブルク家と呼ばれる王族がオーストリア=ハンガリー帝国という巨大な帝国を治めていた時代のお話。
19世紀後半のヨーロッパっていつ?というと、甲冑をまとった騎士たちが戦うような中世ヨーロッパほど昔々でもなく、かといって近代でもなく・・・
もしかしたら、あまりピンとこない人が多い時代かもしれません。
でも大丈夫、時代背景はそこまで重要ではありません。
重要なのは、『エリザベート』はハプスブルク家が滅亡寸前の混乱期であるということ。
ポイント
つまり『エリザベート』の時代背景を一言で表現するならば、”600年間繫栄した巨大な帝国とその一族の滅亡”ということになります。
ストーリー
死後の世界ではルキーニという男が裁判がかけられていた。罪状は”エリザベート皇后暗殺”。
ルキーニは裁判官に何が起こったのか真実を見せてやろうと、エリザベートの人生を語りだした。自由人の父に育てられたエリザベートは活発な少女。
活発さが故にとある怪我が原因で生死を彷徨うが、黄泉の世界でトートと出会う。
彼女に恋をしたトートは、彼女を現世へと送り返す。しかし、若き皇帝フランツにみそめられ、皇后として宮廷に嫁ぐことになる。
自由とは正反対のがんじがらめの宮廷生活に嫌気を差す彼女と、彼女を徹底的に厳しく扱う姑のゾフィー。
王家に嫁いだ身でも、自分は自分。エリザベートは確固たる自我を決して捨てずに生きていくことを誓う。その傍らには常にトートがいた。妻・母・皇后。どの立場も放棄して放浪の旅にでるエリザベート。
自由を求める彼女は、孤独と絶望の中でも生きることから決して逃げずに力強く進もうとするが・・・
一言で表現すると、
皇后エリザベートの少女期から晩年までの波乱万丈の数奇な生涯を描いた作品
タイトルロールであるエリザベートの人生にスポットライトを当てています。
登場人物
いろんな人が登場するけど、とりあえず最初におさえておけばいいのは4人だけ。
エリザベート
本作の主人公。実在したエリザベート皇后です。
✦皇后という身分でありながら自由を愛する、いわば変わり者
✦夫も子供も放り出してあてのない放浪の旅を続ける生活
✦美容とダイエットにどこまでも執着し続ける
✦トートという死神にまとわりつかれる
生来自由で活動的であった彼女は皇后という身分に囚われて、しきたりでがんじがらめになった宮廷生活を余儀なくされます。
皇后として定められたレールに乗って、出産をし公務に臨むけれど、どこか満たされない。自由になりたい、旅をしたい。
そんな彼女は夫も子も立場も放り投げて、ヨーロッパを年中放浪して過ごすというフリーダムっぷりを発揮。
しかし同時に、自由は彼女を孤独と悲しみに追い詰めます。
一方、ヨーロッパで最も美しいと賞賛されるほどの美貌を誇った彼女。ダイエットや奇妙すぎる健康法に取りつかれるほどの美容家でもありました。
エリザベートは己の美貌を武器に自由を勝ち得ていきます。
宝塚歌劇団出身の女優によって演じられることの多い役です。単なる容貌と所作の美しさだけでなく、皇后としての威厳や畏怖すら感じされるオーラのある芝居を求められます。
ミュージカル界を代表する難役中の難役であることは間違いなし。
トート
トートいう登場人物は人ではありません。トートは”死”そのものを具現化した存在です。
✦エリザベートに恋に落ち、生涯彼女を追い続ける
✦”トートダンサー”という手下を従えている
✦エリザベートの息子ルドルフを死へと誘惑する
✦黄泉の世界の帝王として君臨している
”死”の概念そのものなので、人でもなければモノでもありません。でも普通に喋るし歩くんです。
エリザベートにうっかり恋をしてしまったトートは、エリザベートが死ぬまで生涯ずっと「俺と一緒に黄泉の世界へ行こうぜ!」と彼女を誘惑します。
そう、『エリザベート』は皇后と死神の危険な愛の物語でもあるのです。
エリザベートの結婚式にもちゃっかり参加してるし、彼女の親族の葬儀にも記念の式典にも顔を出すフットワークの軽さ。
それってストーカーじゃん・・・そう、ほぼストーカーです。
文字だけで説明するとちょっとアレな人ですが、このトートというキャラクターがセクシーで美しく、観客を魅了するような存在でなければ『エリザベート』という作品は成り立ちません。
基本的に長身かつ比較的細身の男性役者によって演じられます(宝塚の場合は男役)
人間ではない”死”そのものを演じるわけですから、トートももれなく難役と言えます。
フランツ
エリザベートの夫で、皇帝のフランツ。実在したフランツ・ヨーゼフ1世です。
✦意志の薄い「マザコン皇帝」
✦穏やかで優しい一方、真面目過ぎるところも
✦息子ルドルフと埋められない軋轢
✦実質的には帝国のラストエンペラー
彼は彼なりに頑張っているんだけど、夫としても皇帝としてもイマイチうだつの上がらない男として描かれています。
自由を愛する妻エリザベートとの埋められない溝、息子との確執・・・などなど、作中ではフランツの頭を悩ませる出来事ばかり発生。
巨大な歴史の波に飲み込まれ、時代に翻弄された皇帝です。
そんなフランツ自身はエリザベートのことを真剣に愛しています。
つまり、エリザベート・トート・フランツの三角関係でもあります。
穏やかさ・優しさ・ちょっと優柔不断な感じ、、、などなどトートとは正反対の人間らしい平凡さが求められる役どころ。
あえて薄ぼんやりとして存在として立ち回る技術が試されるので、ある意味テクニックが必要な役なのかもしれません。
ちょっとヤボな表現ですが、「いい人ではあるんだけど・・・」と言われがちな男性みたいなイメージですかね。
ルキーニ
実在した青年で、エリザベートの暗殺犯でもあります。
✦ワイルドな風貌の貧しいイタリア人青年
✦権力者や金持ちへの深い憎しみを持つ
✦研いだやすりで晩年のエリザベートを刺殺
✦死後の世界で100年間裁かれ続けている
『エリザベート』という作品は、”死後の世界で皇后を殺害した罪に問われるルキーニの回想”という設定です。
つまり、ルキーニは作中全体を通して狂言回しとして立ち回ります。
複雑な時代背景を面白おかしくわかりやすく、ときに残酷にシニカルに語る解説者。
『エリザベート』を初めて観た人はルキーニの語りを聴きながら、ふむふむと物語を理解していきます。
役としては、物語の行く末を握る狂言回しとしての存在感はもちろん、暗殺犯としての不気味さ、ほんの少し垣間見える狂気なんかを感じされる必要があります。
公演の歴史
✦1992年:ウィーンで誕生(世界初演)
✦1996年:宝塚歌劇団初演(日本初演)
✦2000年:帝国劇場にて東宝版初演
✦2012年:東宝版が上演1,000回を突破
✦2016年:宝塚版が上演1,000回を突破
✦2020年:東宝版20周年記念
1992年にオーストリア(ウィーン)で誕生した作品です。1996年に宝塚歌劇団によって上演され、その人気は爆発。
2000年には東宝によって上演され、2020年公演は東宝版の20周年のメモリアルイヤーです。
初演からこれまでの20年間で常に人気を増大し続けているというモンスター作品なのです。
単純にミュージカル人口が増加しているという背景もありますが、一度『エリザベート』に魅了されると、次の公演も、その次の公演も観に行くんです。なかなか止めない、いや止められない。
『エリザベート』の人気の秘密
『エリザベート』の人気の理由はこれまで数々の出演者や演劇ライターたちが語ってきています。
・エリザベートの独立心が現代の女性たちにも響くから・・・
・セクシーでカッコいいトートに惹かれるから・・・
・人間模様が複雑で魅力的だから・・・
などなど、様々な理由があります。
筆者としても、人気の理由は本当にたくさん存在していると思います。ですが、大きく絞るならば、この2つではないでしょうか。
それは、①完璧すぎる音楽と世界観、②”死”という人物設定です。
①完璧すぎる音楽と世界観
なんといっても音楽と世界観がミュージカルとして完成され過ぎているから。
美しさ、スリル、哀愁、迫力、
全てを表現するファンタジックでスリリングな世界観と、それを凝縮した完成された音楽たち。
これ以上の理由はない!!これが『エリザベート』の全てとすら思います。
どこの10秒を切り取っても『エリザベート』の世界観が完全に凝縮された芸術として成り立つんです。
何度聞いても、いつ観ても、「うわぁ、カッコイイ」「綺麗だなぁ~・・・」「そうそう、ここ!」と初めて観た時のような興奮と驚きが溢れかえるような世界観なんです。
『エリザベート』の魅力は?と聞かれると、みんな色々な理由を教えてくれます。絶対に共通しているのは”楽曲と世界観の素晴らしさ”だと思います。
②”死”という人物設定
他の作品と一線を画す大きな特徴は、人間と”死”との愛がテーマの一つになっていること。
「人間と”死”の愛」と聞くと、なんだか難解でとっつきにくい印象を持つかもしれません。
でもこれって実はかなりチャッチーで馴染みのあるテーマなんです。
というのも、
「人間と人間以外の何か」のコンビってヒット作の鉄板中の鉄板です。心惹かれないわけがない、王道中の王道設定なんです。
千尋とハク、アラジンとジーニー。
ターミネーターもE.T.も、ドラえもんだってそうです。
ヒット作の多くは、”どこか違う世界からやってきた人間以外の何か”とのコンビものがかなり多いんです。
でもミュージカルの有名作品って意外とこの設定は少ないんですよね。どうしてもアニメーションやCGの技術を使わないと実現が難しいので。
だから『エリザベート』における人間×死という要素は、一見難しいようで、実は観る人の心に自然にスっと入り込む心地よいテーマなのです。
つまり、『エリザベート』は、今まであるようでなかった、ヒット作の条件にぴったりとハマったミュージカルだったんです。
まとめ
『エリザベート』ってどんなミュージカル?というと、ざっくりこんなかんじ。
✦ハプルブルク帝国の滅亡の物語
✦史実と創作を融合した魅力的な登場人物
✦完成されたハイクオリティな楽曲と世界観
✦日本一と言えるほどの絶大な人気作品
今、日本で最も人気のある作品と言っても過言でない程の熱狂的ファンの多い作品です。
単純にイケメン俳優が出演しているからというわけではなく、その人気ぶりには確固たる理由と魅力があるのです!
【おまけ】もっと知るための関連商品
今回は『エリザベート』ってどんなミュージカル?ということがザックリとわかることが目的ですが、もっと知りたいと思った人向けに関連商品を紹介します。
①聞いて楽しむ
エリザベートのCDといえば、やはり「2015年東宝版全曲収録ライブ盤」です。
エリザベートファンなら絶対に持っている1枚と言っても過言ではありません。キャストも歌唱も素晴らしく、発売当初に生産が追い付かなくなったとさえ言われている音源です。
ただし、こちらはAmazonや楽天などのネットショッピングではお取り扱いしておらず、東宝モールという東宝公式のサイトのみでの販売となっています。
または、帝国劇場や日比谷シャンテなどに入っているお店で直接購入するという手もあります。
東宝モールはコチラから
こちらはウィーンのオリジナルキャスト版。原産地でのホンモノの『エリザベート』です。
日本のエリザベートは柔らかく清楚な印象が強いですが、本場ウィーンのエリザベートはエッジの効いた力強い姿で表現されています。
パワフルな尖ったエリザベート像を好むならウィーン版は絶対にオススメです。
例えば「♪私だけに」という曲では日本版は絶望から希望へという流れですが、ウィーン版は拒絶から自由へという、より力強い印象を持ちます。
②見て楽しむ
東宝版のDVDは前述した東宝モールで購入することができますが、宝塚版であればAmazonなどでもゲットできます。
東宝モールはDVDだけでBlu-rayの取り扱いはありません(というかDVDしか生産していません)
ですが、宝塚版はなんと初演リマスターBlu-ray版も出ています。宝塚って伝統と最新の両方を取り入れるところが素晴らしい。
ただ、最初はぜひ生の劇場で観て欲しい!『エリザベート』の世界観はやはり生で体感するに限ります。
③読んで楽しむ
エリザベート皇后がどんな人物であったのかがわかる1冊。
『エリザベート』では、彼女の性格や逸話を知っている人だけがニヤっとできるようなお楽しみが随所に散りばめられています。
もちろんそれがわかっていないとミュージカルとしてお話が理解できなくなったりということはないですが、やはり物語への没頭度がグっと高まります。
ハプスブルク家の歴史を知ることも『エリザベート』を楽しむうえで重要なエッセンスとなります。
この本は写真や図などのビジュアル要素の強い読み物なので、雑誌感覚であまり肩肘張らずに楽しめます。