ミュージカルの金字塔『レミゼラブル』
名作ですが「もっと事前知識を蓄えてから観ればもっと楽しめたかも」と思う人が多い作品でもあります。
レミゼラブルはざっくりと分類してしまうと、歴史上の事件を大きくフューチャーした作品なので歴史的な知識があればより楽しく納得感のあるストーリーです。
逆に言えば知識ゼロで観るとピンと来ないシーンも結構あります。
今回はとくに初見で振り落とされがちな2つのシーンに登場する人物をちょっとだけ解説します。
ラマルク将軍と工場長です。
①ラマルク将軍
1幕後半、ABCカフェという場所で革命に燃える学生たちが街の少年ガブローシュに「ラマルク将軍が死んだ」と告げられ、死の報を突如告げられる。
驚愕する学生たちと、奮い立つアンジョルラス。
そして「ラマルク...の死...」という歌詞で歌いだします。
初見の人は、

と思うはず。しかしラマルクという人物はメインキャラクターではないどころか姿すら登場しないので

ポカーンとなってしまうこと間違いなし。
ジャン・マクシミリアン・ラマルク

ラマルク将軍
1770年生まれの実在のフランス人です。
ナポレオン政権下で活躍し、ナポレオン帝政のあと王政の復興を反対する第一人者となりました。
38歳のとき国会議員に選出され反体制政治家として人気を博した。61歳で病死し、6月5日、彼の死が誘因となりパリで六月暴動が発生しています。
簡単に説明するとナポレオンが失脚したあと、マリーアントワネットとかの時代の昔の王政にやっぱり戻そうよ!という動きが強くなるんだけど、そんなの絶対ありえない!と反発しているのがアンジョルラスたち。
つまりラマルク将軍はアンジョルラスたちと同じ意志を持つ人々の中でも人気と権力のある人物。精神的支柱のような立ち位置だったのです。
ラマルク将軍の死によって民衆の反王政への意識が高まり、のちに六月暴動と呼ばれる死傷者800名という大暴動となったわけです。

6月暴動
ちなみに劇中ではラマルク将軍はあたかも王政派に暗殺されて突然の死でした、みたいなテンションで進むんだけど実際は病死。
暗殺でもされようものならそりゃあ暴動になるかもしれないけど、病死なのになんでいきなり暴動になるの?というと、実はミュージカルでは描写が大幅カットされているのです。
一方、映画版『レ・ミゼラブル』ではラマルク将軍の死についてしっかりと描写されています。
映画とミュージカルでの描写の違い
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— Les Misérables (@lesmisofficial) 2019年4月24日
2012年公開のヒュー・ジャックマン主演の映画版では、ラマルク将軍の死がなぜ6月暴動に繋がったのかもう少し噛み砕いて描写されています。
ラマルク将軍の葬儀がしめやかに執り行われるなか埋め尽くす民衆に警察は警戒を強めていた。しかし、一人の憲兵が女性に発砲した。偉大なラマルク将軍の葬儀で罪無き民衆が憲兵に拳銃という武力でねじ伏せられたのだ。この事件をきっかけに民衆が奮起し、アンジョルラスたち学生を中心に街中にバリケードが形成される大騒ぎとなった。
という経緯が映画版では描かれています。
しかしミュージカル版ではこのへんの葬儀の模様が一切描かれていない。
そのため、学生たちがカフェでラマルク将軍の死を告げられ、いきなり革命魂に火がつけられるスピード感にちょっと戸惑うかもしれない。
ラマルク将軍が死んだ!?なんてことだ・・・革命せずにはいられな~いッ!
という一見雑な動機に見えなくもないので、脳内で葬儀のシーンを補完するとより納得感があってよりストーリーにのめり込めると思います。
②工場長
工場長ってこんな役
工場長は物語序盤にアンサンブル俳優によって演じられる役です。そして、みんな大好きレミゼ名脇役の一人。
Good availability for performances of #LesMiz this half term - including an extra matinee on Tuesday 23 October: https://t.co/qFjpXs8Q4w pic.twitter.com/5eLqo74ftu
— Les Misérables (@lesmisofficial) 2018年10月15日
スケベな工場長とは、主要人物の一人であるファンティーヌが働く工場の、その名のごとく工場長です。
ファンテーヌがファクトリーガールたちに攻め立てられる1幕頭の「♪一日の終わりに」というナンバーでは工場の人間は工場長と女性労働者しか登場しません。
You've got to pay your way at the end of the day. Anne Hathaway as Fantine in #LesMis pic.twitter.com/j1OKN3VG
— #LesMis (@LesMiserables) 2012年12月10日
これを初めて観たときにおもいました。
「さすがスケベな工場長!自分の工場にオンナしか働かせていないとは!!」
あとから知ったんですが、全然違いました。
というのも市長であるマドレーヌ市長(ジャンバルジャンの偽名)は差別することなく工場で人を雇いましたが、職場で男女が過ちを犯さぬように工場を女工員用、男工員用に分けたのです。
つまりあのシーンで女性しか作業員がいないのは別に工場長がスケベだから、というわけでなく、女性が安心して働けるようにするためのマドレーヌ市長の配慮だったわけです。
結果的に工場長ハーレムが完成しているドジッ子バルジャン・・・
【詳細発表❗️その③】東京ミッドタウン日比谷で4/29(月・㊗️)開催のミュージカル『レ・ミゼラブル』スペシャルイベント‼️
【14:30の回出演(予定)】
MC🎙️MC:マダム・テナルディエ役:森公美子
🗣️ファンテーヌ:二宮愛/男性キャスト:石飛幸治・丹宗立峰https://t.co/tSx1Ugq23K pic.twitter.com/OB7sXWsjlS— 東宝演劇部 (@toho_stage) 2019年4月18日
2019年版では石飛幸治さんと伊藤俊彦さんがダブルキャストで演じられています。
ちなみにミュージカルの工場長は渋くて厳つい比較的年配の役者が務めることが多いけど、映画版の工場長はとっぁん坊やみたいな若造でしたよね。
謎の工場長人気
そしてこの工場長、地味に人気がある役です。
レミゼにはいわゆるチョイ役でもしっかりと名前や役職が人物が多いのですが、その中でも工場長はなぜか目を引くキャラクター。
一見悪人に見えてもその人なりの正義があったり、悪事を働いても必死に生きていくためにはしょうがなかったり。
レミゼの世界ではみな善悪関係なく、生きることに精一杯なのです。
しかし、この工場長だけは唯一の純粋悪。
もっと言葉を選ばずに言うとレミゼでは珍しく純度100%のクズのとして描かれています。
マドレーヌ市長がせっかく善意にもとづいて街づくりをしているのに、現場の中間管理職がダメだと結局下々のものの苦労は変わらないということがよーくわかるシーンですね。
ただスケベな悪人というだけでなく、ファンテーヌが工場長やファクトリーガールに攻め立てられクビになった直後に序盤の大ナンバー「♪夢やぶれて」がはじまったり。
結局ファンテーヌは工場長に体を売ることになったり。
実は、工場長はファンテーヌの悲惨さや絶望感を際立たせる極めて重要な役なのです。

ちなみに昔のレミゼでは工場長が「このスベタ 出ていけ!」とファンテーヌと言い放ちます。
この”スベタ”とは、あばずれや売女など、女性を罵る意味です。
スベタっていう表現が好きだったんですが、最近の公演はちょっとニュアンスが変わった表現になりました。
ミュージカルではいかにも悪人っぽい渋い役者が演じている工場長ですが、映画版では小物臭たっぷりのとっつぁん坊でした。