マリー・アントワネットのお抱えデザイナーであったローズ・ベルタン。
彼女の生涯を描いた漫画『傾国の仕立て屋ローズ・ベルタン』の第1巻が発売されました。
作者の磯見仁月先生は大の歴史好きだそうで、『クロノ・モノクローム』という18世紀が舞台の漫画も執筆されていました。
数々のミュージカル、漫画に登場してきたベルタンが主役!?読まないわけにはいかない!と思い、さっそく購入&読んでみましたので感想を書きます。
まずはローズ・ベルタンとは?というところからスタート。
もくじ
史実のローズ・ベルタンとは
1747年、北フランス生まれ。
第3身分の平民でありながら16歳でパリに上京し、帽子屋に就職します。
技術とデザイン力を磨きいた彼女が手掛けた作品とファッションセンスは王妃マリー・アントワネットの目に留まりました。
先進的で大胆。そして可憐で美しいドレスにアントワネットは夢中になり、王妃マリー・アントワネットお抱えの専属デザイナーに任命。
ヴェルサイユ宮殿の"モード大臣"と呼ばれました。
女性ファッションデザイナーの祖といえばCHANNELの創業者であるココ・シャネルを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、ローズ・ベルタンこそ最初に歴史に名を刻んだファッションデザイナーなのです。
ちなみに、ベルタンはフランス革命勃発の1789年のとき彼女は42歳ですね。
フランス革命ミュージカルに登場するベルタン
フランス革命を扱ったミュージカル作品は多く、当然ベルタンも登場しています。
マリー・アントワネットの生涯を描いたミュージカル『マリー・アントワネット』でのベルタン。彩吹真央さんが演じられていました。
次から次へと運ばれてくるベルタンの新作ドレスに興奮し、うっとりとするアントワネット。
ベルタン自体は本筋にはそこまで深く絡んでこないのですが、ミュージカルなのでファッションショーのような華やかなシーンが映えることはまず間違いないし、
加えて、国民を見ようともせずドレスや宝石に浮かれる愚かな王妃を演出するための役割としてはかなり重要ですよね。
王妃のお気に入りの取りまきの一人として常に王妃の側でウフフオホホと楽しんでいましたが、革命が勃発してからはスタコラサッサと亡命するシーンがあります。
史実のベルタンも革命の火から逃れようと亡命してはいますが、王妃が処刑された後の話なので実はちょっと改変されているんですよね。
ちなみにココ・シャネルもミュージカル『イヴ・サンローラン』で安寿ミラさんが演じていました。うーん、ぴったりすぎました。
ミュージカル『イヴ・サンローラン』いよいよ舞幕! ココ・シャネルとサンローランの母親を演じる! 安寿ミラ インタビュー - 宝塚ジャーナル https://t.co/Vx2P1u3UtR
— ミュージカル「イヴ・サンローラン」 (@yume_monsho) 2019年2月14日
漫画にも登場するベルタン
ミュージカルだけでなく数々の漫画にも登場しています。
『ベルサイユのばら』にもベルタンはちょこっとだけ登場しますが、なんだかかなりオバサン風でした。
「女王さまともあろうお方はいつも流行の最先端をいっていらっしゃらなくては!」
と、なんやかんや上手いこと言ってアントワネットに新しいドレスを次から次へと勧めるシーンがあります。
一方、11月にミュージカル化が決まっている『イノサン』には結構ガッツリ登場します。
another works!
Marie Antoinette pic.twitter.com/QSS5hz3i39— 坂本眞一 (@14MOUNTAIN) 2019年5月1日
『イノサン』自体は処刑人の話なので結構生々しいしグロテスクな部分もあるのですが、画力とデザインがとにかく素晴らしいです。
まさにベルタンの手掛けたドレスのように、ロココを象徴するような緻密で高貴な装飾とデッサンも楽しめます。
ベルタンの出番は彼女自身の活躍というよりも、彼女と同じくお針子だったデュ・バリー夫人との対比として描かれています。
2人とも平民のお針子出身ですが、男を魅了する身体と話術で国王の妾(めかけ)にまでをのし上がったデュ・バリーと、技術と才能で王妃の専属デザイナーにまでのし上がったベルタン。
フランス革命の主役とは言えない彼女たちですが、個人的にはこの2人のダブル主人公の作品があっても十分面白いんじゃないかと思っています。
読んでみた感想
ここまでローズ・ベルタンについて様々書いてきましたが、ここからがやっと本題です。
『傾国の仕立て屋ローズ・ベルタン』の感想です。
①魅力的なタイトル
まず読む前に、タイトルが面白いと思いました。
「傾国」という頭文字がついてますよね。普通は傾国の美女とか、傾国の美貌とか、国家を転覆させるほどの美しさを表現するときに使われます。
世界3大美女のクレオパトラや楊貴妃を指すときもよく使われてますよね。
しかしローズ・ベルタンにはさほど美しいという印象はあまり持っていませんでした。
「なんでベルタンが傾国?」と最初は不思議でしたが、ハッとしました。
というのも、ベルタンはたしかにフランス革命を勃発させ、国家を転覆させた張本人かもしれません。まさに漢字通りの意味の「傾国」。
マリー・アントワネットはベルタンの手掛けるドレスに夢中になり、何百着も彼女に仕立てさせました。当然、全て国家の金庫から支払われています。
ドレスどころか明日食べるパンすら手に入らない飢えた99%の平民からはアントワネットは赤字夫人なんてあだ名を付けられる始末。
最初はまだゴシップ程度の揶揄でしたが、だんだんと平民の怒りは高まっていきます。国民に目を向けず贅沢三昧のアントワネットは「倒すべき国家権力」の象徴になってしまうんですよね。
そうしてフランス革命は勃発しました。
フランス革命勃発の理由はアントワネットだけではありませんが、もし彼女がドレスなんかに興味がない質素な王妃であれば、もしかしたら革命なんて起きなかったかもしれません。
そういう意味で、ベルタンはフランス革命勃発のキーマンだったのかもしれないですね。
この漫画がきっかけで初めてローズ・ベルタンを知った人には「傾国」という言葉は美しい主人公という意味で捉えるでしょうが、読み進めていくうちに、そういう意味か!と気づくはず。
②仕立て屋視点のフランス革命作品
フランス革命はミュージカル、漫画、映画など様々な形でエンターテインメント化されてきました。
マリー・アントワネットが中心に据えられた作品が多いですが、『イノサン』のようにフランス革命期の処刑人視点の作品があったり、様々な視点で描かれてきました。
その中でもベルタンは多数登場してきましたが、ほとんどがチョイ役。そのため、ベルタンが主役の作品は『傾国の仕立て屋ローズ・ベルタン』が初?かもしれません。
第1巻時点ではベルタンが仕立て屋としての立ち上げ期の話であったので、フランス革命勃発はまだまだ先になるかと思います。
しかし、仕立て屋視点で革命をどう描くんだろう?当たり前だけど銃を持って革命活動自体に参戦するわけではないし。
正直1巻の時点ではまだフランス革命のフの字もないプロローグ的なストーリー展開でしたので、2巻以降でさらに楽しみです。
③現代人受けバツグンの作品だ
現代人、とくに現代に生きる女性受けバツグンの作品だなと思いました。
ベルタンは男社会で理不尽と戦いながらも、平民出身の身でありながら王妃お抱えの専属デザイナーの地位まで上り詰めたました。
イマ風に表現すると、超一流キャリアウーマンなのです。
第1巻にも「女のくせに」「可愛げがない」と蔑まれたり、ベルタン自身が「可愛くあざとく女らしく生きていくほうが正しいんじゃ?」と悩むシーンがありました。
これって現代社会に生きる女性も彼女と同じことを経験したり、考えたり。国や時代は違えど彼女の努力や苦悩に共感する人が多いんじゃないかなと思います。
それに最近、強い意志と実力を持った女性を描いた作品が世界的にめちゃくちゃ増えてるんですよ。『アナと雪の女王』なんて典型だと思います。
2016年公開の『ゴーストバスターズ』は主人公4人全員女性。
2019年7月公開の『トイ・ストーリー4』のボー・ピープなんて、無印のころの可愛らしい薄ピンク色のドレス姿とは変わり果てている。
過酷な環境で身も心も鍛えられた彼女はドレスを脱ぎすてて動きやすそうなズボンスタイルへと変貌。
この流れが良いか悪いかはまた別の話ですが、『傾国の仕立て屋ローズ・ベルタン』が女性の精神的・社会的な独立精神を描いたイマ風な作品であることは間違いないと思います。
第2巻も楽しみ
前述したとおりまだ第1巻なのでフランス革命っぽさはほとんどないです。
2巻以降、これから革命色がますます増えてくることでしょうし、歴史上の人物も数多く登場してくるはず。
現時点では正直なところ目玉が飛び出るほど面白いとまでは言えませんが、2巻以降の展開に期待せざるをえない。
ベルタンといえば王妃マリー・アントワネットとの厚い友情の描写が欠かせないと思っています。
革命が勃発して貴族たちは諸外国へ一目散に亡命しましたが、ベルタンはアントワネットが幽閉されてからも積極的に彼女を訪問していたほどですから。
厚い女の友情を楽しみに第2巻以降も楽しみたいと思います。