2020年3月9日から放送開始のNHKオーディオドラマ『ハプスブルクの宝剣』がいよいよ始まりました。本記事では初回放送から第5回までの感想をまとめています。
こちらの公式HPにて聴き逃し放送も楽しめます。
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もくじ
第1回~5回までのあらすじとサマリー
第1回(2020/3/9)「反逆者の烙印」
● エリィ帰郷からアーデルハイトとの恋まで
● ユダヤ人の生活様式やしきたりの説明も
● 故郷ユダヤ人たちと思想の対立
● 初々しい少年ボイスのエリヤーフー
1732年、パドヴァの大学から帰郷するエリヤーフーから物語は始まります。
原作小説ではエリヤーフーの帰郷を待つ家族の視点から始まりますが、オーディオドラマでは初めからエリヤーフーの目線で語られます。
フランクフルト帰郷時点でのエリヤーフーは21歳。年齢だけで見ると十分大人ですが、長い物語のプロローグということもあり、かなり初々しい少年のような声質です。
父に医療カバンをとってきてもらおうとする時の「おとうさん!」と「おばあさん!」の声がまさに少年のように軽やかで幼い声だなと。
アーデルハイトの声はちょっと意外だったかも・・・?もう少し凛々しくハキハキとしたまさに麗人ボイスイメージしていたので、可憐な少女の印象が強い声にはちょっと違和感が。
第2回(2020/3/10)「橋の上の二人」
● モーリッツとの決闘直前まで
● アーデルハイトの恋模様が多め
● 父へユダヤを捨てる宣言
● エリィの中の内なる”ユダヤ”への憎しみ
アーデルハイトとの色恋沙汰が中心の回です。アーデルハイトを恋い慕うエリィの浮ついた声がなんともこそばゆく微笑ましい。
オーディオドラマではアーデルハイトはエリィが初めて密に接した女性とも捉えられるような描写ですが、エリィは留学先のパドヴァでちゃっかり女性と遊びまくってます。
原作小説には、咲き乱れる妖花のような女たちと夜を過ごしたこともあれば下宿の娘と情熱的な恋に落ちたこともあると書かれています。しかし重要なことは、知性を持って好意を持った女性はアーデルハイトが初めてであったということ。
身体で恋した経験は散々あっても脳みそで恋をしたのは初めての体験であったということですね。
オーディオドラマでは端折られていますが、これエリィがアーデルハイトに惚れた理由として結構重要な要素かもしれません。
第3回(2020/3/11)「決別」
● 決闘からフランツとの出会いまで
● モーリッツとの決闘シーンが中心
● 田代フランツの初登場
● オーストリア人エデュアルトの誕生
アーデルハイトの婚約者であるモーリッツとの決闘が中心となる回です。
モーリッツを殺害し、生命を尊ばないことによって自己のユダヤ性を捨てようとするエリィ。モーリッツを銃殺した直後にエリィが呟く「僕は自由だ...」というセリフにはゾクっとしましたね。
己の自由を叫ぶシーンは創作物には付き物ですが、筆者は『ジキル&ハイド』で悪の人格ハイドが初めて覚醒する時の「自由~だぁ~~~!」が好きです。
そして、モーリッツの両親によって拷問にかけられてしまいます。焼き鏝を押し付けられた時の「アァーーーーーッ!」の超高温、いや超高音ボイスには驚きました。「うわああ」とか「ぎゃああ」じゃなくて「アーー!」なんですね。
命からがらなんとか拷問から逃げ出した時に心の中で叫ぶ「おとうさん!おかあさん!」がスゴい。10代の少年が心の底から絞り出したような声色です。
そこで初登場するのが田代万里生さん演じるフランツ。「騒がしいな。何事だ」という麗しい貴族ボイスで颯爽と登場します。
ナレーションの「太陽を背にして波打つ金の巻き毛を肩に広げた青い服の貴公子」「胸に沁みるほど美しいフランツの蒼い瞳」という表現が素敵です。
色のない薄暗い拷問室から、突如色鮮やかで爽やかな世界に包まれるような目くるめく色彩感の変化を感じられますよね。
ユダヤ人エリヤーフーからオーストリア人エデュアルトに生まれ変わり、物語はこの第3回までで一区切りです。
第4回(2020/3/12)「ウィーンの魔物」
● 舞台はフランクフルトからオーストリアへ
● ウィーン生活の始まりから一目惚れまで
● 初々しいエリィ君から色男エディさんへ
● テレーゼの初登場と一目惚れ
エデュアルトとして転生したエリヤーフーはまさに生まれ変わったかのような陽気さを手に入れています。が、比較的第4回は神聖ローマ帝国をとりまく政治情勢の説明回でもあります。
そして、テレーゼが初登場。野々すみ花さん演じるテレーゼ、とっても良い!登場時点でのテレーゼは年齢の割には子供っぽく、恋に恋する少女。しかし物語が進むについて女帝マリア・テレジアとして目覚ましい覚醒を遂げていきます。
だらしない男どもを圧倒していく女帝への目覚め、そしてその情熱的な変化と爆発を期待させるような声です。ただのお嬢様ボイスではなく一癖ありそうなところがいいですね。
そして、「魔物に魅入られたよう」というナレーションの通りエデュアルトとテレーゼは互いに一目惚れします。
「エリィはこの世の誰よりも私が好きだと言ってくれた。その言葉だけで私は生きていけるわ」と泣くアーデルハイトをよそにウィーンでパリピへと変貌してしまったエリィ君...
第5回(2020/3/13)「将軍オイゲンの密命」
● 老将軍オイゲンの初登場
● プロイセン王国の台頭と戦争の始まり
● ウィーン宮廷でのし上がっていくエディ
● テレーゼにやっぱり惚れるエディ
ふざけあうエデュアルトとフランツの微笑ましい姿も印象的な回ですが、戦争の始まりが予感される軍事回でもあります。
オイゲン公子に「君は何ができる?医術だけか、武術は?」と聞かれたときに「剣も一通り扱えます」と答えるエデュアルト。でもここのシーン、オーディオドラマではカットされてしまいましたが原作小説ではこの後エデュアルトらしい冗談を言っています。
「ただ二人を相手にすることはできなくなりました。左側が不安で。僕を襲うときには、左からどうぞ。」と言って周囲一帯を和ませているんですよね。このシーン、カットしないでほしかったんですが、会話のリズム的と時間的に致し方なし。
ラストではフランツをよそに勝手に盛り上がるテレーゼとエデュアルト。第2回でアーデルハイトと牢屋の中で抱きしめあいながら過ごした夜は一体なんだったんだろうと思わせるほどの急展開っぷりです。
しかし、テレーゼはこのあとの展開でエデュアルトの”正体”を知ることになります・・・
カット祭り...だが仕方なし
上下巻の長編小説を15分20回の放送に詰め込む必要があるので、やはりカットされるシーンが多めですね。しょうがないことだけでちょっと寂しいような。
特にエリヤーフーの初登場シーンがなかったことはちょっぴり残念だったかも。こんな鮮烈でクールな主人公登場シーンなかなかないのに。
暗闇の中でマントを翻しながら羽根帽子をとったエリヤーフーが漆黒の仮面を脱いで言い放つ「久しぶり、ドロテーア。元気だったかい?」が聴きたかった・・・このシーンのエリィ、めちゃくちゃ良い匂いしそうですよね。
あと、やはり時代背景や人物説明が最低限の解説なので小説を読んだほうが納得感があるかもしれません。オーディオドラマを聴いてから小説を読めば「なるほどね~」と思えるヒントが盛りだくさんです。
オーディオドラマだとどうしても色々と表現の限界があるので、やっぱりもう一回ミュージカル化しましょうよ!
聴きどころはやはり、繊細な声の表現!
①透き通る中川少年ボイスの魅力
やはり何といっても主人公エリヤーフー演じる中川晃教さんの透明性の高い声が目白押しの第1週タームでした。
中川さんの声って、単純に音階として高いだけじゃない少年性みたいなものがあるんですよね。キラキラとした天性の幼さ、無垢さというか。これは本当に唯一無二の魅力だと思いますよ。
前半ではまだ幼さの残るエリヤーフーですが、物語が進むにつれてその声には影が増していくはずです。その変化が楽しみでしょうがない!
しかし放送期限があるので、第20回を聴いたあとにもう一回初回放送から聴くことはできないんですよね、残念ながら。何回も聴いて耳に残しておかなければ。
聴き逃し放送を聴いていて改めてふと思ったのですが、中川さんって父親との関係性を描いた作品が多いですよね。今度上演される『チェーザレ』もそうですし。
②田代フランツの終身名誉貴族オーラ
そしてもう一人の主人公、田代万里生さん演じるフランツ。これまで数多くの王族役を演じてこられた田代さんですが、今回もさすがの貴族の風格です。職業貴族の称号は伊達じゃない。
田代さんの声って、ただ単に位が高いように聞こえるだけでなくて、金持ち特有の育ちの良さが滲み出まくった声質ですよね。決して高圧的でなく、誰に対しても分け隔てなく優しい青年の声です。
フランツ本人は「自分も平民と何ら変わらない同じ魂を持っている」と思っているような親しみやすさを出そうと頑張っていますが、それでもなお滲み出てしまう品格というか。
そしてもう一つ、「神の采配を待ち、それに従うつもりでいる」というセリフが印象的でした。田代さんらしいセリフ過ぎる!
田代さんが演じる役は受け身の人生の送ることが多いですね。受け身というか、どうしようもなく運命に翻弄されてしまう側の人間というか。翻弄する側の役って見たことない気がする。
③野々すみ花の一癖ある少女ボイス
第4回からの登場でしたので本格的に物語に絡んでくるのはまだこれからですね。
第1週タームのテレーゼは恋に恋する幼い少女という印象ですが、後半はわがままで無邪気な娘から帝国を牛耳る女帝マリア・テレジアへと覚醒していきます。
初登場時点から終幕までの間で最も声色に変化を出さなければいけない役かもしれません。ある意味ではいちばん難しい役どころかも?
ところでマリア・テレジアを主人公としたミュージカルってあるようでないですよね。どうしても娘であるアントワネットに注目されがちですが、テレジアの人生も中々に激しいものです。
以上、第1週タームのざっくり感想です。
ミュージカルといえばやはり観て・聴いて楽しむエンタメですが、今回のような聴覚だけで味わうのも中々いいですね。
やはり皆さん実力派の役者さん揃いということもあって、耳だけでも十分すぎるほど面白い!しかもコレ無料ですよ、無料。お金払いたいくらいです。
第1週タームは比較的ソプラノに近い高めの声質の役者さんが多い回でしたが、第2週タームの第6回「その男フリードリヒ」からは軍人・加藤フリードリヒ和樹が登場します。
中川さん・田代さんの軽やかな声の中に加藤さんの重低音が響き渡るわけですね。物語がビシッ!と締まりますね。
公演中止で沈んだ気持ちに響くエンタメ!
新型肺炎の影響で2/27から演劇界のみならず日本中のエンタメが開催中止となっている現状です。筆者もここしばらく劇場には一切足を運んでいません。チケット払い戻しの日々です。
そんな中で、お家のなかで楽しめるエンタメを提供してくれるというのは本当に嬉しいことです!救われた気分。毎日楽しみにできることがあるというのは大事なことですね。
そんなこともあってか、第2回でエリィが呟く「希望、それは自分の心の中にしか存在しない。自分自身で心の中に希望を生み出さなければ」という言葉がズシッ...と沁みました。本当にその通りだなと。
口開けて待ってるだけじゃダメなんですよ。自分の心がウキウキすることは自分で動いて探しあてないと!
3/16から始まる第6回も楽しみです。聞き逃し放送は放送日から1週間のみなので、お忘れなく!