4/15のプレビュー公演から開幕した2019年レミゼラブルもあっという間に2週間が過ぎました。そして気づけば令和の時代に。
自分も4/16のプレビュー公演から現在に至るまで数回劇場に足を運んで、全10名の新キャストメンバーのうちやっと6名観ることができましたので今回は5名の新キャストの感想を書きます。
観劇のたびに大興奮です!いやー、どのキャストも本当にすごい。
他キャストと比較している文章も多々ありますが、これはキャスト同士の良し悪しを比較しているものでは決してなく、それぞれのキャストから受け取った印象を書いているだけですので予めご承知おきを!
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もくじ
①バルジャン役:佐藤隆紀さん
ミュージカルデビューから弱冠4年。かつレミゼはまだ出演7作目と、化け物級の昇進スピードである。なんだろう、この大物のオーラは。
『マリーアントワネット』での穏やかで引っ込み思案なルイ16世役の印象が強かったので、プロローグでの石のように固く心を閉ざした荒れきったバルジャンをどう演じるのだろうと思っていました。
司教の慈悲によって180度改心し、神に従い我が身を犠牲にしてでも人のために尽くして生きていくことを固く誓うところからレミゼラブルが始まります。
佐藤さん以外のバルジャンは黒く荒みきった精神が司教によって白く塗り替えられていく感じがします。一方、佐藤さんのバルジャンはもともと白く澄んでいた精神が19年の投獄生活によって一度は真っ黒に淀んだものの、司教の手によって洗われて元の綺麗な部分が顔を出した、という印象でした。
「ああ、この人は根っこの部分から本当の聖者なのかもしれない」と思わせるようなバルジャン。
そして、歌唱披露でも歌った彼を帰して(Bring him home)はすさまじいクオリティ!
動画でも上手さはわかるけど、これはもうぜひ劇場でみてほしい!本当に素晴らしい。気を抜くとブラボーおじさんになってしまいそうである。
今までバルジャンには頑固おやじ的な雰囲気を感じていたんですが、佐藤さんのバルジャンからはそんなオーラは一切なく、とにかく柔らかく暖かいバルジャン。海のように大きなバルジャン。
開幕2週間でこのクオリティ。9月の札幌時点ではどこまでどうなってしまうのか末恐ろしい。個人的に2019年レミゼで一番注目しているキャストです。
②ジャベール役:伊礼彼方さん
冷静沈着、理知的なジャベール。「口もきかず 確かな夜を見張る刑事たちだ」というStarsの歌詞に妙な説得力のあるジャベール。そして西洋風のお顔立ちからは想像できない、いぶし銀を感じる。
ジャベールという役はものすごく単純に分類してしまうと一応悪役ですが、本当のところ彼は自身の信念に基づいて行動しているだけで、決して悪ではなくこれもまたひとつの正義の形なのです。伊礼ジャベールからはその信念がビシビシと伝わってきました。
だからこそ、ジャベール自身の中で歯車が狂いだし、段々と正義というものを見失っていく様には鬼気迫る迫力があります。前半は頭でしっかりと考えて論理的に行動していたのに、後半はそんなことよりも身体が先に動いてしまうようになった、という緊迫感のある伊礼ジャベール。
ジャベール以外の登場人物は貧困であったり社会的な重圧であったり、19世紀初頭の激動の時代そのものと戦った人々です。しかし、ジャベールだけは最後まで己との戦いだった、というのが私のジャベール像です。そして、伊礼さんのジャベールにはこの人物像がしっくりとハマりように思います。
そして、市長がバルジャンであることに気づくのがかなり遅い気がしました。それもあってか、なんというか全体を通して非常に純粋なジャベールという印象です。良くも悪くも生真面目。
伊礼さんはアンジョルラス役の相葉さんと同じく、いわゆるテニミュ出身俳優です。
少し失礼な表現になるけども、テニミュ出身とは思えないような風格と堂々たる歌唱です。古川さんや加藤さんなど、2.5次元ミュージカル出身者が帝劇プリンシパルを務めることへの抵抗感は、ミュージカルファンの中でもかなり薄れてきてはいます。しかしそれでもまだやはり「2.5出身」と聞くと身構えてしまうことがあるのも現実。
伊礼さんのジャベールは2.5からグランドミュージカルへの壁にさらに大きな打撃を加えたに違いない!それほどミュージカルスターぶりを感じる堂々としたお芝居でした。
ちなみに伊礼さんのアルバムEleganteでは伊礼さんのルーツであるスペイン語で歌ったStarsが収録されているので要チェック。
③ジャベール役:上原理生さん
2011年から2017年まで4回アンジョルラス役を務めた上原さんが2019年からジャベール役デビュー。
晩年のジャベールは52歳なので「もう少し年数が経てばジャベールも似合うんじゃないか」と、しきりにレミゼファンから言われていたような気がしますね。
職務としてバルジャンを追っているだけでなく、バルジャンを追い詰めていくこと自体にある種の楽しさを見出しているように見えた。仕事を楽しむタイプのジャベールですね。
ワイルドなルックスから野獣のような激しいジャベールになるかと思いきや、ギラギラとした鋭い目でジリジリとバルジャンを追い詰めるまるで蛇のようなジャベール、という印象でした。
上原さんの星よ(Stars)からは、自身の正義に1mmの疑問も抱いていない確固たる信念を感じます。
伊礼さんは己との戦いであるジャベールという印象だけれども、上原さんのジャベールはいつの間にかバルジャンを中心に彼の世界が回ってしまった、という感じがしました。
まさに歌詞通り、ジャンバルジャンの世界に囚われてしまった人。捕えるつもりが捕われてしまった、だからこそ、ジャンバルジャンの世界から逃れたいという歌詞がグっと刺さる。
そして最期セーヌ川に身を投げる直前にコートのボタンを留める動作は上原さんオリジナルですが、ここに上原さんのジャベール象が詰まっているのではと思います。
ジャベールはとにかく実直で真面目過ぎたのだ、自殺の直前ですらきっちりと身なりを整えるような男なのだ、ということなんでしょうか。いやそんな単純なことじゃなくてもっと深いんだろうけど・・・
そして晩年の白髪交じりの髭姿のジャベールが似合ってます。上原さんはまだ32歳なので実年齢と20歳も離れた役を演じていることになる。いやー、キャストの芝居もさることながら舞台メイクの力ってすごい。
ちなみに今回ジャン・バルジャン役とジャベール役両方でオーディションを受け、見事ジャベール役を射止めたとのこと。そんな話聞かされるとバルジャンを演じる上原さんも観たくなりますよね。
上原さんの1stアルバムDie WeltではバルジャンのナンバーであるBring him homeが収録されてますので、気になる人は要チェック。
④ファンテーヌ役:濱田めぐみさん
「自分が亡くなったときに後悔したくない」と思い長年踏み出せなかったオーディションに参加し、見事ファンテーヌ役を射止めたそうです。
あの濱田めぐみさんがレミゼ!?しかもファンテーヌ!?と、キャスト発表時の昼時にミュージカルファンが大騒ぎしていたことを覚えてます。
強く色彩の濃い役を比較的多く演じられているイメージがあったので、儚く淡いファンテーヌをどう演じるのだろう?と思っていました。
第一印象としては美しくも儚い女性ではなく、”壮絶で悲壮な人生を生きた女性”としてのファンテーヌでした。日々の生活に疲弊しきった母親。目を開けながら死ぬ姿は帝劇全体を支配するような凄みがあります。
他のファンテーヌは天に召された後、どこかすっきりとした穏やかな表情ですが、濱田さんのファンテーヌは目を開けたまま亡くなります。これ、なかなかにスゴイ迫力・・・!
これはどういう意味なんだろう?まだ死ぬつもりなんてなかった、まだやらなければならないことがたくさんある、という未練?
それとも死ぬ時にゆっくりと目をつむることすら許されなかったファンテーヌという女性の哀れな人生?うーん、これは観る人によって色々な解釈を生む芝居だなと思います。
ラスト、バルジャンを天に導くシーンで「行きましょう自由なところへ 悩み洗い流され 神恵み与え給う」と歌いだした瞬間、劇場全体が真っ白な絹の羽衣で包まれるような、そんな錯覚に陥ります。
このシーンのファンテーヌは、ファンテーヌ自身としてバルジャンを天の国へ導いていることだけでなく、生きとし生けるもの全てを包み込む生命の偉大な母としての立ち位置だと考えています。濱田さんのファンテーヌからは『火の鳥』の不死鳥のような、そんな神秘的なものを感じます。
そして、本当になんとなくですが濱田さんのファンテーヌは今年で最初で最後なんじゃないかなという気がしてます。もしかしたら"あの濱田めぐみが出演した2019年のレミゼラブル"と語り継がれる日が来るかもしれない。
⑤マリウス役:三浦宏規さん
上演期間中に20歳になる歴代最年少マリウス。歌唱披露のときはまだ19歳の未成年でした。
海宝さんや内藤さんが演じるマリウスに比べるとかなり大人しめのマリウスという印象です。なんというか、哲学的な雰囲気のするマリウス。
コゼットと出会って以降、あの子の名前を知りたい!あの子はどんな子なんだろう!とコゼットへの恋一直線というよりも、自分自身に初めて芽生えたこの感情は一体なんなんだろう、、、?と反芻してそうな感じ。
カフェソングでは悲しみややり切れなさよりも、後悔だったり自戒だったり自分自身を責めている要素が強いかな。
歌唱の面では想像よりもかなりハスキーな声質だったこともあってか、これまでのマリウスとは一味違う雰囲気を感じる。三浦さんのマリウスはまだ一度しか観れていないので今後の観劇時もしっかり見ていきたいキャスト。
それぞれのレミゼ像
30年以上上演されている作品なのでそりゃあみんなそれぞれのレミゼ像、バルジャン象、ジャベール象、etc・・・があって、上演されるたびにレミゼファンが自分の解釈や受け取り方を発信していくこともこの作品が好きな理由のひとつです。
良くも悪くも上演の度に新しい風を入れようとするので、キャスト発表のたびに毎度毎度お祭り騒ぎ、時代が時代ならたぶん暴動が起きてる。それくらいレミゼファンの熱気は年季が入ったすさまじいもので。
「○○はこうあるべきだ」という思想のファンがミュージカル作品の中でトップを争うほど多いのがレミゼだと思うんだけど、それを上演のたびに壊してまた新たなレミゼを作り上げていくことが、この作品が古臭く時代遅れのものにならない大きな要因かな、とふと思います。
【おまけ】新キャストのソロアルバム
ジャベール役の伊礼彼方さんのソロアルバム。スペイン語版の『星よ(Stars)』が収録されています。うーん、ダンディ。
同じくジャベール役の上原理生さんのソロアルバム。バルジャンの『彼を帰して(Bring him home)』が収録されています。