観劇ハウツー

舞台の「アンサンブル」の意味と魅力を解説 │ その他大勢?いいえ世界観の職人です

2019年7月26日

 

舞台やミュージカルは多数の役者が登場します。

彼らをは全員「プリンシパル」「アンサンブル」の2つに分類されます。

 

ミュージカル初心者にとってはなんのこっちゃさっぱりのこの2つの用語。とくに「アンサンブル」を詳しく解説していきます。

 



 

 

まずは辞書的な定義を確認しよう

辞書的な定義でいくと、こんな感じの意味になります。

 

定義

■プリンシパル
→公演の顔となる主役級の役者

■アンサンブル
→主役級以外のダンサーや役者

 

帝国劇場などの大劇場で上演されるような演目は、プリンシパルとアンサンブルの割合は大体3:7ほど。

例えばキャパ100人ほどの小劇場で上演される演目なんかは出演者全員プリンシパルの場合もありますし、逆に大劇場といえどプリンシパル5人のみで上演される演目なんかもあります。

 

このように様々なパターンはあるものの、やはり前述したように3:7くらいの割合の演目がスタンダードです。

今回は最も多いパターンである3:7を前提に解説していきます!

 

アンサンブルの役割と特徴

✦名前のない役を演じることが多い
✦一つの作品で5人~10人の異なる役を演じる
✦シーンによってメイクや衣装を変えて登場
✦ ダンスなど特殊スキルを求められることもある

 

辞書的な定義の文字面だけ見ると「アンサンブルって要するにその他大勢の脇役?」と思うかもしれません。

しかし、アンサンブル=ただの脇役、ではないところが面白いところなのです!

 

例えばドラマにはエキストラというものがありますよね。

通行人とか、お店の客とか、登場人物たちの世界で暮らす住人たちですね。エキストラこそまさしくTHE・脇役ですよね。

 

このエキストラとは違う、アンサンブルにしかない役割があるんです。

 

主な3つの特徴を説明します。

 

①シーンによって様々な人物を演じる

 

ドラマのエキストラと大きく異なるのは、アンサンブルのキャストはひとつの公演の中でシーンによって様々な人物を演じるということ。

 

あるときは酒場のマスター。またあるときは軍人。年齢も社会的地位も別々の人物をシーンによって演じ分けていきます。

人によっては性別すら超えて役を演じ分けていく役者さんもいます。

 

同じ町人といえど10代の少女と30代の貴婦人では歩き方も佇まいも変わってきますよね。

それを全身を使って演じ分けるのです!スゴい!

 

当然、人物によって服装やカツラ、さらにはメイクも異なるため舞台袖では常に衣装チェンジで大忙しなのです。

 

 

②プリンシパルキャストの芝居を際立たせる

 

アンサンブルキャストの重要な役割はプリンシパルキャストの芝居や歌唱をより魅力的なものに磨き上げること!

 

例えば、『レ・ミゼラブル』では革命のリーダーであるアンジョルラス(プリンシパル)という人物が、学生たち(アンサンブル)に革命の闘志を燃やすように熱く語りかけます。

いくらアンジョルラス役のキャストが圧倒的な台詞回しや歌唱をしたところで、彼の演説を聴く学生たちが「おぉ・・・!」と奮い立たされたように見えないと、なんだかアンジョルラスの一方的な革命の押し売りみたいになっちゃう。

 

プリンシパルの芝居に対して、アンサンブルの見事な呼応の芝居があるからこそ、プリンシパルがより一層際立つのです。

 

 

③特化スキルで舞台に華を添える

 

演目によっては特殊なスキルを持つアンサンブルに特化している場合もあります。

 

アクロバット、タップダンス、バトントワリング、コントーションなどです。

コントーションっていうのは、あれです。身体を極限まで捻ったり曲げたりする曲芸みたいなイメージです。

 

例えば、『ラブ・ネバー・ダイ』や『ナイツ・テイルー騎士物語ー』に出演していた知念紗耶さんはアクロバット専門のダンサーとして普段活躍しています。

彼女のように普段はミュージカル以外のジャンルで活動している特殊スキルを持った演者たちがアンサンブルとして出演することもよくあります。

 

さて、ここまで辞書的な意味での「アンサンブル」の役割について説明してきました。

しかし、アンサンブルにはもっと深い魅力や存在意義があります。

 



 

役者?いいえ職人です

 

アンサンブルはひとつの演目でシーンによって様々な人物を演じます。

役を演じる者、ですから当然アンサンブルは役者ですよね。しかし筆者は役者と言うよりもはや職人に近いと思っています。

 

例をあげましょう。

日本で30年以上上演されているミュージカルの金字塔『レ・ミゼラブル』のオーディション要綱にはアンサンブルの説明がこのように記載されています。

老若男女。
囚人、看守、労働者、水兵、娼婦、乞食、学生、少年、市民革命家…等々、1人数役〜十数役、合計で300以上もの役柄を演じ分け「レ・ミゼラブル」を支える“影の主役たち”である

 

つまり、『レ・ミゼラブル』のアンサンブルに求められる真の役割は様々な役を演じること自体ではなく、レミゼの世界観そのものをつくりあげること。

 

例えば、

『レ・ミゼラブル』の世界ではファンテーヌが働く工場で女性たちが毎日生きていくためにせっせと働いています。彼女たちの役名は「ファクトリーガール」です。

女性アンサンブルたちは、工場で労働するファクトリーガールたちをただ演じているわけではないです。

 

 

大勢のアンサンブルがファクトリーガールを演じることを通して、ファンテーヌが働く工場の張り詰めた緊張感であったり余裕のない圧迫感だったり、シーンそのものの臨場感をつくりあげているのです。

 

もうひとつ例をあげます。

『ライオンキング』ではシンバやラフィキ以外にも様々な動物が登場します。

 

彼らの役割は動物に擬態することそのものではなく、動物を演じること通して客席の観客たちを広大なサバンナの世界にグっと引き込むこと。

大都会東京にいることさえ忘れさせて、アフリカの大地の風や匂いで観客を包み込むわけです。

 

 

『レ・ミゼラブル』『ライオンキング』を例にあげましたが、あくまで一例。

アンサンブルがただの役者ではなく、シーンごとの空気感や世界観そのものをつくりだす”世界観職人”であることは全てのミュージカル・舞台に共通することだと思っています。

 



 

すばり、アンサンブルの魅力とは?

 

ここまで「アンサンブル」の辞書的な意味での役割と、真の役割を説明してきました。

そのうえで、アンサンブルの魅力ってなんなんだろう?

 

ずばり、作品の時代における様々な人生を生きることだと思います。

 

前述してきたとおり、アンサンブルはひとつの演目の約150分の中で十数人の異なる人物を演じ分けます。

例えばそのひとつに30代~40代の貧しい労働者たちのシーンがあるとしましょう。このときアンサンブルの役者たちは、ただ貧しそうな服装をしたり、ただ生活苦に苛まれる表情をしているわけではありません。

 

アンサンブルの役者もプリンシパルと同様に、ひとりひとり綿密な役作りをするわけですよ。

たとえそれがたった5分しか舞台上にいない役であったとしてもです。

 

観客に見えるのはたったの5分かもしれませんが、アンサンブルの役者はみな、その人物がこれまでどんな人生を生きてきたのか?普段どんなことを考えているのか?これからの人生をどう生きていくつもりなのだろうか?

・・・ということをしっっっっかりと想像して作りこんでいるんです。

 

つまりアンサンブルたちは皆、10人の人物を演じるのではなく、作品の時代に生きる10の人生を演じているわけです。

これはプリンシパルには絶対にないアンサンブル特有の魅力だと思います。

 

ここまで説明すれば、アンサンブル=ただの脇役ではないことはよ~~~くわかりましたよね!アンサンブル万歳!

 

ここからは、さらに知りたい人向けに2つ豆知識です。

 

 

【補足①】もっと知りたい!「バイト」とは

プリンシパルキャストは通常、与えられた1役しか演じません。王様役のプリンシパルはずっと王様役なのです。

 

しかし、一部の演目ではプリンシパルキャストも本役以外の出番があるんです。

そのことをプリンシパルのアルバイトのような感じで「バイト」と呼ばれることがあります。

 

 

正式な演劇用語ではないので少し俗っぽい表現ですが、舞台ツウなら誰しも知っている言葉。

 

例えば、

「舞台とか興味ないけど大ファンの●●さんが出演するから観に来た!でも2幕から登場する役らしい・・・1幕は寝てよ。ぐーすかぴーすか・・・」

なんて言って劇場で居眠りこかないでください!!

 

1幕でもバイトとして●●さんは色んなシーンに紛れてるかもしれないから!

目を皿のようにしてちゃんと観てみて!!

 

 

【補足②】アンサンブルからプリンシパルになれるの?

プリンシパルで活動する人は基本的にどの演目でもプリンシパル。

逆に、アンサンブルで活動している人は基本的にどの演目でもアンサンブル。

 

プリンシパルからアンサンブルになる人は余程の不祥事でも起こさない限りなかなかありえないことですが、アンサンブルからプリンシパルになった役者は実は結構います。

 

若手No.1といっても過言ではない(?)海宝直人さんは今でこそほぼ主役級の役柄ばかりですが、2008年公演の『ミス・サイゴン』ではアンサンブルとして出演していました。

 

石川禅さん、岡幸二郎さんも初期はアンサンブルとして活躍していました。

今、若手アンサンブルとして活躍している役者もいつかプリンシパルとして華々しく活動するかもしれませんよ。

 

 

【補足③】アンサンブル役者にファンっているの?

 

プリンシパルに比べてセリフも歌唱もやはり目立った出番はかなり少ないです。

アンサンブルを中心とした活動の役者にもファンっているの??と疑問に思う人もいるかもしれません。

 

たしかにプリンシパルと比較するとファンの数は少ないですが、アンサンブルにもしっかりファンが付いています。

 

単純にパフォーマンスに惹かれたから、という理由のアンサンブルファンもたくさんいるでしょうが、中には応援を通してワシが育てた感を楽しんでる人もいるかもしれないですね。

 

なんにせよ、アンサンブルも舞台を構成する立派な一員ですから、普段プリンシパルをオペラグラスで血眼で追っているという観劇スタイルの人もぜひアンサンブルにも着目してみては?

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