NHKオーディオドラマ『ハプスブルクの宝剣』の最終回の感想と全体総括を描いています。
こちらの公式HPにて聴き逃し放送も楽しめます。公開期限があるのでお早めに!
最終回で描かれた結末
最終話・第20回『再生』では、フランツの神聖ローマ皇帝の戴冠式から始まります。
緊張するフランツと談話するエディの元に、息子のヨーゼフとテレーゼが来ます。エディの目元を飾るダビデの星の眼帯を見て「なんということを!」と絶句するテレーゼ。
ユダヤ人を側近として長年可愛がっていたことがローマ教皇に知られたら破門されてしまうかもしれないぞ、地獄落ちだ、とフランツに問いかけるエディに対して「君も同罪だ。一緒に地獄に落ちよう」と返すフランツ。
軽口を叩きあうエディとフランツのもとに、アーデルハイトが突然訪れます。初めて心から恋をしたアーデルハイトと生きていくことを決心するエディ。
そして、アーデルハイトと共にエリヤーフーは、実の母であることが判明したカロリーネ(ヘッセン・カッセル方伯夫人)の元を訪ねます。
しかし、息子と夫の敵討ちするためにカロリーネはエリヤーフーを銃で撃ちます。しかし、のちの報告によるとエリヤーフーは両手を広げて真正面から銃弾を受けた、と...
エリヤーフーの登場はなんとこのシーンで終わり。あっけなく退場してしまいます。ただ、一命はとりとめた様子。
ラストシーンは、フランツ・テレーゼ・息子のヨーゼフの3人の談話です。
幼いヨーゼフに対して「ユダヤ人について知らないから気味悪く思うだけで、よく知ればそんなこともないかもしれません」と、教え諭すテレーゼ。
あなたの時代には慣習に囚われずに真実を見つめなさい、と。
「エドゥアルトが助かるといいですね」というヨーゼフのセリフで物語は終了。
最終話の感想
相変わらずのテレーゼとフランツ
最終話まで一貫してフランツは人格者過ぎるし、テレーゼには疑問符しか残りませんでした。
ラストシーンでは息子であるヨーゼフ2世に対して思考停止してユダヤ人を差別してはダメと諭していたものの、彼女自身のユダヤアレルギーは結局治ることはありませんでした。
というか、第19回で「もうお会いすることはないでしょう」とテレーゼに宣言したのに、普通にちゃっかり再会しちゃってます。
そして、最終話でもフランツ大先生の名台詞飛び出しましたね。「君も同罪だ。一緒に地獄に落ちよう」はこの作品のサブタイトルにしてもいいのでは?と思うほどのセリフだと思います。
こういうセリフを、仮にもキリスト教の保護者である身分のフランツが言うというところも皮肉めいてて痺れます。
ラストシーンのヨーゼフのセリフ
最後の最後の「エドゥアルトが助かるといいですね」というヨーゼフのセリフについて。
最初に聞いたときは「え?これで終わり?」と少しポカーンとしてしまいましたが、今となってはかなりお気に入りです。
フランツの血を色濃く引いたであろう優しげで暖かなヨーゼフの元気な声で回復を祈られるなんて、エリヤーフーは絶対生き残っているでしょう。将来の皇帝となるヨーゼフによってエリヤーフーの再生が確信めいたものになったと思います。
実在のヨーゼフ2世も、実際にユダヤ人への迫害を母テレジアの時代よりも相当緩和させていますからね。
将来、ユダヤ人迫害を緩和させることになる張本人であるヨーゼフが発した言葉の力によってエリヤーフーが復活するような気がしません?
そんなヨーゼフの言葉で物語が完結することによって、ユダヤ人にとってもエリヤーフー自身にとっても明るい新しい未来の芽吹きを感じさせるエンディングに仕上がっていると思います。
ちなみにこのセリフ、原作小説ではテレーゼとヨーゼフどちらが発した言葉なのか明確にわからないような書き方になっていました。
あえてどちらかわからないような書きっぷりにしたのかどうかは不明ですが、音声ドラマだと半ば強制的に判明してしまいますよね。
両腕を広げたエリヤーフー
タイトルの『再生』にもある通り、エリヤーフーは十中八九生きていると思いますが、気になるところはやはり何故エリヤーフーは銃弾を素直に受け入れたのか?というポイント。
ユダヤ人として生まれ変わるため?
エリヤーフーとエドゥアルトを一つの人格に統合するための儀式?
それとも、ロートシルトの想いを全力で受け止めた?
などなど、様々な理由が複合された結果の行動なのだとは思いますが、筆者としては一種の賭けだったのではないかと考えています。
こんなもんで死んでしまう命ならこの場で散ったほうがマシだ、と。銃弾によって自身の命運を決めようとしたんじゃないかあ。
エリヤーフーは、もともと戦場でいっそ死んでしまおうかと考えていた時期がありましたよね。だから、最後の最後まで自分はフランツをローマ皇帝に就任させたあとも生きるべきなのだろうか?ということをずっと悶々と考えていたんだと思います。
そんな迷いを断ち切るために、ある意味ロシアンルーレットみたいなことをしたんじゃないかなあ。
筆者としては、エリヤーフーはどこまでいっても根っからの自己中人間だと思っています。こんな究極の盤面なんて、彼の頭にはアーデルハイトやロートシルトのことなんて1mmもないような気がするんですよね。
銃口を向けるロートシルトのことはもはや決別すべき過去の弱い自分、くらいに思い込んだのかも。
まあでもたぶん実際のところは、主人公の生死不明のドラマティックエンディングに仕立て上げるために撃たれてもらったんだと思いますけどね(笑
あと余談ですが、毎回放送の最後に出演者が役名と自分のお名前を順番に読み上げていく箇所がありますが、最終話は「エリヤーフー、中川晃教」に変わっていました。
なんて粋な演出!こういう細かい計らい、大好きです。
全体総括
連続20回の全体的な感想に移ります。
面白かった・良かったところ
やはりなんといっても、設定が逸材だと思います。自身のアイデンティティを求めるユダヤ人青年と、彼を取り巻く様々に魅力的な人間たち。
そんな美味しすぎる設定を余すところなく発揮しつくした役者陣にも感謝。今回は本当に全員がハマり役だったと思います。
まず、中川晃教さんによる主人公エリヤーフー。突拍子もない行動にでる天才という人物を違和感なく演じられていたと思います。
最初から最後まで行き当たりばったりの言動が多いエリヤーフーですが、たぶん声が中川ボイスだから謎の説得力があったような気がするんですよね。ちょっと常人ではあまり理解できない行動も、彼の声なら不思議とそれが自然になるというか。
全編を通した声色の変化も素晴らしかった!
ユダヤ人として生きていた頃の爽やかで真っすぐな声、オーストリア人として足掻いた時期の深く低い声、そして極めつけはシオン建国を決意した後に昔を思い出したかのように透き通る神聖な声。
特に最後のほうは、ただ声質が若くなるのではなく、昔の熱意や信念を再発起した人間の声に進化していたところが良いですよね。
そして、フランツ役の田代万里生さんも最高でした。個人的には本作のMVPはフランツです。
エリヤーフーとは違って、最初から最後まで一貫して安定した声色と口調です。安定した優しさと包容力を持つフランツが心の支えだったからこそ、エリヤーフーは自由に羽ばたけたのだと思います。
フランツが何事にも一喜一憂するガタガタメンタルの持ち主だったら、たぶんエリヤーフーと一緒にダメなほうの地獄に落ちていたかもしれません。
テレーゼとすったもんだ色々あったエリヤーフーも、最後にはフランツのために生きていくことを決心します。だからフランツが「この人のために生きていこう!」と思わせるような人物じゃないと、物語の説得力がまるで無くなってしまう。
田代フランツはその点完璧だったと思います。フランツの幸せを一心に願うエリヤーフーと視聴者たち。言うまでもなく本作の真ヒロインです。
加藤和樹さんのフリードリヒについては、個人的にはもっともっと出番が欲しかった....!たくさんお芝居を聴きたかったです。
加藤さんが出てくると少年漫画っぽい暑苦しさや勢いが増して迫力が出ます。比較的高めの声質の役者さんが多かったので、加藤さんの低く艶めいた声質が非常に映えました。
テレーゼ役の野々すみ花さんの声の変化も素晴らしかった。役としては最後まで好きになれませんでしたが、野々ボイスは本当に良かった。
少女から女帝への進化だけでなく、エドゥアルトに対する愛憎籠った子憎たらしい言い方やお芝居が良かった!
ただのお姫様ではなく、一癖も二癖もある女性として見事に演じ切っていたと思います。
あと、ジャカン役の西原誠吾さんの声も良いですね。ジャカンって出番はそこまで多くないものの、ピンチのときに必ず登場してフランツやエリヤーフーをサポートする助太刀ポジションです。
飄々としているのに実はめちゃくちゃ有能、みたいなキャラに似合いすぎる声と渋いお芝居でした。
メインどころの出演者さんだけでなく、脇を固める役者陣も全員ホントに見事だったと思います。
全20回もあると一人くらいは「あれ?」って感じの役者がいてもおかしくないですが、本当に全員素晴らしかった。
悪かったと思ってしまったところ
全20回とても楽しめたし満足した、という大前提ですが正直モヤモヤ感が否めないシーンは随所にあったかな...と思います。
やっぱりテレーゼに納得いきませんよ私は!何度も何度も書いて申し訳ないけど(笑
キリスト教の保護者である自分と一人の女性としてエディを愛してしまう自分、その乖離に思い悩む人物という設定でしたが、途中からの言動ははもはや主人公への嫌がらせのように感じてしまった。
史実のマリア・テレジアも実際ユダヤ人へは相当厳しく扱ったようなので別に間違ってはいないのでしょうが、ただでさえ尺が足りない全20回をそこまでテレーゼパートに割かなくてもいいのでは・・・
原作小説でもやはりテレーゼは主要人物の一人なので、勝手に改変することができないことは重々理解していますが、もう少しテレーゼのターンを減らしてフランツやフリードリヒとの関係性を色濃く描いてほしかったなあ。
ユダヤ人に対して寛容な人物もいる一方で、決してそうではない人もいる。それを表現するためにテレーゼは後者の代表として、”最後までエドゥアルトのユダヤ性に相いれなかった人”として描くならば良いと思うんです。
誰もかれもがユダヤ人であるエドゥアルトを受け入れるわけではなかったという事実を象徴する人物ですからね。
ある意味、物語のリアリティをより一層深める美味しい役どころだと思うのです。ヒロインポジションでさえなければ・・・
まとめ!
モヤッとしたことも書いてしまいましたが、もちろんトータル的にはかなり楽しめました。
特に昨今は劇場が閉鎖している関係もあって、こうした耳劇場が毎日開催されるだけで嬉しいものです。
あー、今日からはもう9:15からチャ~ラ~チャラチャラチャ~のBGMが聴けなくなるのか・・・と思うとちょっと寂しい。
全20回『ハプスブルクの宝剣』ありがとう!!
宝塚版、見てみようかなあ・・・