観劇ハウツー よもやま話

同じミュージカルを何度も観る7つの理由 │ 逆になぜ「普通は1回」という風潮なのか

2019年12月12日

 

時間と財布が許すなら毎日でも観に行きたい人は山ほどいる?

 

演劇やミュージカルの世界では同じ作品を何度も観る人が数多く存在します。

舞台のチケットは席によって変わりますが、おおよそ1万円前後。決して安い趣味ではないのです。それででなお、舞台好きは複数回観劇します。

 

舞台に馴染みのない人には不思議に感じるであろう同じ作品を何度も観る心理についてちょっとお話させてください。

 

舞台は生モノ

まず前提となる考え方として「舞台はなまモノ」なのです。

単純に目の前で生きた役者がお芝居や歌唱をするという意味だけではありません。まるで生き物のように日々形を変え、進化していきます。例え演目や出演者が同じだとしても「完全に同じ公演」は2回はないのです。

 

ここが映画や本との大きな違いです。そのため、なぜ何度も同じ舞台を観に行くの?という問いに対する最もストレートな回答は「全く同じに見えて同じではないから」

とはいえ、観劇ファンひとりひとりにとって何度も観に行く理由は少しづつ異なります。今回は理由を7つに分類してみました。

 

 

複数回観劇する7つの理由

①ダブルキャストを両方見たいから
②1度では全て見れないから
③座席によって見える印象が違うから
④アドリブがあるから
⑤作品は徐々に進化するから
⑥映像化されないから(脳みそに焼き付ける)
⑦特定の役者を応援したいから

 

ざっくり分類するとこんな感じ。どれか1つに当てはまる人もいれば、複数個に当てはまる人もいるでしょう!ちなみに筆者は①②⑤です。

 

HARI
ひとつずつ見ていきましょう!

 

①ダブルキャストを両方見たいから

規模の大きい公演やロングランの公演では同じ役を公演ごとに複数のキャストが担当します。そして、様々なキャストを観たいだけでなく、キャストごとの組み合わせの変化も楽しみたいんです。

ちなみに、最も出演キャストが多いであろう演目『レ・ミゼラブル』はダブルどころかトリプル・クワトロです。プリンシパルキャストは9役あり、それぞれに3人の役者がついています。全制覇すると考えると・・・ひえー!

 

 

②1度では全て見れないから

小劇場でない限り、舞台上ではありとあらゆる場面で様々な人物が様々な行動をとっています。映像のように巻き戻したり一時停止することができないので、たった一度きりの観劇では全て見ることは到底不可能なのです。

物語の結末で黒幕が誰かわかるような作品なら、その黒幕の言動をもう一度最初から見て観たくなりますよね。もしかしたらこっそりニヤリとしているシーンがあるのかもしれないし、焦っているシーンがあるかもしれない。

 

 

③座席によって見える印象が違うから

舞台には下手・中央・上手という座席があります。同じ作品であってもド真ん中で鑑賞するのと、端っこの方で鑑賞するのでは受け取る印象が良い意味で随分違うのです。

一般的には真ん中のほうにいけばいくほど良席ですが、端のほうの席から後ろや横を向いたキャストの表情が見えることがあります。

「この場面実はこんな表情していたんだ」と気づけたときは複数回見てよかった~!と思わず唸ってしまうですよね。

 

また、1階席か2階席以上によっても見える景色は随分違います。

2階席の場合は視点が高くなるので1階席の観客が見えないであろう舞台照明の美しさをより感じることができますし、席降りといってキャストが座席通路を使う公演の場合は1階席のほうがより臨場感を味わうことができます。

 

 

④アドリブがあるから

特にコメディテイストの強い作品の場合は、キャストによるアドリブが入ることがあります。

「アドリブ」と聞くと歌詞や芝居の段取りをミスってしまったキャストが次に繋ぐための咄嗟のフォローというイメージがあるかもしれませんが、演劇の世界では毎回若干違うお芝居をする特定のシーンがある作品があります。

ほとんどの場合は物語の核となるようなセリフではなく、本筋とはちょっと離れたシーンでアドリブが入ることが多いですけどね。

 

 

⑤作品は徐々に進化するから

厳しい稽古を経てから上演するため、公演初日から素晴らしい完成度です。しかし、実際に観客が入って公演の回数を増すごとに作品は日々進化していきます。

キャストは毎公演命を削るようにパフォーマンスしていますので、その積み重ねによって更に磨きがかかっていきます。また、観客の反応を見て演出やセリフを変えていく演出家や脚本家もいます。

つまり、初日80%だった公演が千秋楽で100%になるのではなく、初日100%が最終的に千秋楽120%に進化していくのです。

 

HARI
千秋楽までに劇的な進化を遂げる作品もあります!

 

 

⑥映像化されないから(脳みそに焼き付ける)

映画やドラマと違って舞台は映像化される作品は圧倒的に少数です。確実な収益が見込めるような人気公演でもない限り、ほぼ全ての作品は映像として世に残りません。

つまり、公演期間が終了してしまったらもう二度と観れない可能性が高いのです。脳内シアターでいつでも再生できるようにできる限り多く記憶に残しておきたい・・・!

 

 

⑦特定の役者を応援したいから

公演の規模や形態にも寄りますが作品によっては役者にチケットの枚数ノルマが課せられている場合があります。ノルマがない場合であっても、好きな役者さんが主演している作品に空席が目立つとなんだか悲しいですよね。

役者さんを応援する意味で複数枚チケットを購入する人も多いのです。むしろ、何度も行って顔を覚えてもらいたい!という熱心なファンもいるでしょうね・・・

 



 

「1演目1回だけ」の人のほうが少ないかも

むしろ、1演目1回しか観ませんという人のほうが少ないくらいかもしれません。手拍子とか軍隊みたいに一斉に始まるし。

都内の大千秋楽の日なんてほとんどリピーターですよ、きっと。

 

実際の正確な割合は誰にもわかりませんが、何回も観る人は観劇に馴染みのない人の想像よりも遥かにたくさんいるのだと思います。

 

(劇団四季『美女と野獣』について)私は30回以上観ている作品ながら、今回は新たな感動と発見をさせてくれるカンパニーです。

(出典:アナウンサー・藤村幸司さんのBLOG)

 

 

気になる費用

片道の遠征費用だけでS席1回分なんて・・・

 

あくまでイチ例ですが、2つの演目をそれぞれ3回・全てS席で観劇した場合の月額費用はこんな感じ。

●チケット代:78,000円(13,000円/回)
●パンフレット代:4,000円(2,000円/札)
●交通費:3,600円(300円/片道)

合計:85,600円

 

ギャー!考えたくない程の高額です。金持ちたちは誰も助けちゃくれぬ・・・

ちなみにこれで年間計算すると1,027,200円です。ちょうど百万円くらい。

 

 

 

逆になぜ「普通は1回」という風潮なのか

「なんで何回も観に行くの?1回でよくない?ねぇなんで?」

 

筆者は常々疑問に思っているのですが逆になぜ「普通は1回」が前提なのだろう?

同じラーメン屋に何度も通って毎回同じものを頼む人なんてそこら中にいるだろうし、何度も同じ快楽を求めるという意味では煙草やお酒だって同じはず。

 

しかも最も不思議なことは「なんで何回も観るの?」と問いかけてくる人のほとんどは観劇やミュージカルというものに対して抵抗があるわけではないということ。

観劇嫌いの人が疑問に思うなら、なんらおかしくないんですけどね。なぜか皆「そりゃ面白いのはわかるけどさ・・・」というスタンスなのです。

 

 

答えは”共感”

筆者なりの答えは、このように聞いてくる人にとって観劇=よくわからないものだから。

 

筆者は映画館に何度も同じ作品を観に行く人の心理がさっぱりわかりませんでした。映画ならほぼDVD化されるし映像なんだから何度見ても100%同じ絵でしょ?と。

 

ところがある日、映画とは本来は映画館のスクリーンのサイズや音響で最大のパフォーマンスを発揮するように設計されているという映画マニアの考え方を聞いて目からうろこ

映画を最高の完成度で楽しめるのは映画館で上映されている期間だけなので、何度も何度も通うのだそうです。

 

その時にしか味わえない何かスペシャルなものという意味では映画も観劇も根底は一緒なのだなと腑に落ちました。その経験から、映画自体に対する興味関心の度合いは変わらずとも映画マニアの心理には共感できるようになりました。

 

ここでハっとしたのです。

同じ作品をなぜ何度も観劇するの?と聞いてくる人たちには同じような感性がないから疑問に思うのだと。だからミュージカルというものに対しての好き・嫌いは実はあまり関係ないんですよね。

 

 

でも実は何度も観に行く自分が好き?

もはや中毒症状?

 

「えー!?なんで同じものを何度も観に行くの?」と言われてムカッ!とする観劇ファンって実はほとんどいないのでは?と思っています。

むしろ高いお金を払ってでも夢中になれるものに出会えた自分の人生がいかに幸せであるかを実感します。いえーい!

 

2時間半で13,000円使うって冷静に考えたら結構とんでもないことですよね。しかも人によってはそれを×5、×10するんですし。でも、それくらいの対価があると思える趣味を見つけられる人って実は結構少ないんじゃないでしょうか。

散財とか消費ってすまさじい快感です。普通の人からしてみれば少し異常にも見える行為だからこその消費の快感なのかもしれません。



 

好きなだけ観ればいいじゃないか!

別に誰に迷惑かけているわけじゃないし、好きだけ観ればいいんです。だってこんなに良いことだらけなんだもの!

・チケットの売上に貢献してる
・物販や交通費も含めると相当経済回してる
・開演時間のために仕事を超効率的に頑張れる
・何より心が潤う

 

唯一気をつけるとするならば、観劇中心になりすぎて周りに迷惑をかけたり自分の生活をないがしろにしないこと。

ファンをしているのはすべて自己責任。あなたの為に応援しているのよ、という気持ちは禁物。見返りは求めない。自分の生活・仕事をきちんとしていてこそ楽しめるので、私生活を絶対にいい加減にしない。

(出典:ヅカファン道)

 

「チケット難の人気公演を何度も観劇しようとするのは常識がない!」という意見をたまに見かけますが、筆者としては別にいいんじゃないかな?と考えています。

ファンクラブ費用やら何かしらの対価と労力を払って確保してるわけですからね。(転売チケットのような違法手段はもちろんアウトですけど)

 

そのような風潮が強くなった結果みんな遠慮がちになってしまって、ミュージカル界自体が盛り下がったり敷居が高くなってしまうほうがよっぽど嫌かなあ。

 

HARI
欲望には勝てないってどっかの伯爵も言ってるし!

 

 

おまけ:記事で引用した宝塚のファンの心得をまとめた1冊。SNSでも一時期話題になってましたよね。

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